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冨山泰

【第649回・特別版】看過できないWSJのゴーン擁護論

冨山泰 / 2020.01.14 (火)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 米有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、保釈中に日本から逃亡した日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告を擁護する社説を立て続けに掲載した。①日本の司法制度は不当なので国外逃亡を非難できない②ゴーン被告の記者会見での無罪主張には説得力があった―とする内容だ。同紙は国際的影響力が大きいだけに、看過できない。

 ●社説で国外逃亡を正当化
 ウォール・ストリート・ジャーナルはまず、ゴーン被告がレバノンへの逃亡の成功を発表した直後の昨年12月31日付社説(電子版)で、「彼が(日本で)公正な裁判を受けられたか明白でない」と述べ、逃亡の理由が日本の「粗雑な司法制度」にあると示唆した。また、起訴理由となった役員報酬の非開示などは、企業の役員会で議論すべき問題であるのに、それが刑事事件になったのは、外国人を企業の権力ポストから排除しようとした疑いがある、と論じ、事件の背後に日本の排外主義があるかのごとくに書いた。
 続いて、ゴーン被告が逃亡を正当化する2時間半の記者会見を独演会のようにレバノンで開くと、1月9日付社説は「自ら無実の罪を晴らす手腕を示した」と肯定的に評価した。さらに、日産の役員と日本政府関係者が反ゴーンで共謀したとの被告の説明については、「日本株式会社を何十年も見てきたわれわれには、ありそうな話に思える」と理解を示した。その上で、「ゴーン氏の主張は信用できそうに思えた」と結論付けた。
 日本に関する生半可な知識に基づく一方的なゴーン擁護論は、世界の主要メディアの中で際立つ。同じ米紙でもニューヨーク・タイムズはもっと中立的だ。1月8日付社説は、取り調べに弁護士を同席させないなど、欧米から批判されている日本の刑事司法制度を再考すべきかどうか検討する必要があると日本に注文を付ける一方で、「ゴーン氏が汚名を本気でそそぎたいなら、もっとずっと説得力のある主張を展開する必要がある」とクギを刺した。

 ●足りない政府の国際広報
 ゴーン被告の記者会見を受けて、日本政府は保釈条件に違反する不法出国が犯罪行為となり得るもので、どの国でも許されないと批判する森雅子法相のコメントを発表し、法務省ホームページにその英語訳とフランス語訳を掲載する異例の対応をした。
 それはそれで良いのだが、国際広報をホームページ上の翻訳文掲載で終わらせてはいけない。特にウォール・ストリート・ジャーナルは、ゴーン被告が2018年11月に逮捕された時から日本の司法制度を社説で繰り返し批判している。日本政府は森法相による同紙への投稿、意見広告の掲載、同紙記者への取材機会提供などを通じて、日本の立場への理解を深める努力をしなければならない。(了)