公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.01.12 (火) 印刷する

トランプ後の日米同盟を考える 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)

 1月6日、トランプ米大統領の支持者が米議会議事堂に乱入、バイデン次期大統領の当選確定を阻止しようとした暴力事件で、共和党の議員や政府高官のトランプ離れが始まった。暴動を扇動したトランプ氏の党内での求心力は、少なくとも中央政界では急速に低下しつつある。

議事堂内の暴徒が警察によって制圧された後、アリゾナ、ペンシルベニア両州の大統領選挙結果に対する一部共和党議員の異議申し立てが表決に付され、上院は93対6と92対7、下院は303対121と282対138でそれぞれ棄却された。特に上院で、トランプ氏に忠誠を尽くした共和党議員が1桁にとどまった事実は重い。乱入事件を受けて、トランプ政権の運輸長官と教育長官の2閣僚をはじめ、アジアの安全保障問題に詳しいポッティンジャー大統領副補佐官(国家安全保障担当)ら高官が相次いで辞任を発表した。

ただし、下院では共和党議員の6割前後が異議申し立てに賛成票を投じた。さらに米紙報道によると、共和党の地方活動家や草の根レベルの党員の間で、トランプ氏への熱狂的支持が衰える兆しは今のところほとんど見えない。共和党は大統領退任後のトランプ氏との距離感をめぐり、分裂状態に陥るかもしれない。

米の指導力に疑問符

乱入事件を経て、トランプ氏が政権移行をようやく受け入れたので、国際社会にとって最大の関心は1月20日に発足するバイデン次期政権の外交政策に移る。

グローバル化から取り残された白人の不満層を支持基盤とするトランプ氏は、国際協調に背を向ける「アメリカ第一」外交を展開した。そのアンチテーゼとして、バイデン次期大統領は、トランプ氏が脱退した気候変動パリ協定に政権初日に復帰し、1年以内に自由世界を結集するための「民主主義サミット」を主催すると公約している。しかし、バイデン政権がたとえ国際協調にかじを切っても、国際社会で米国が再び指導的役割を担うことはあまり期待できない。

米国は第2次世界大戦後、西側陣営の盟主として民主主義、法の支配、人権尊重、自由貿易を基本理念とするリベラル国際秩序の構築を先導し、冷戦後はその秩序を全世界に広げることがあり得ると思われる時期も短期間ながら存在した。米国の国力が他を圧倒していたことが背景にあった。

しかし、今や中国が新興の超大国として米国に挑戦する。西側陣営内部でも、欧州とりわけドイツが中国やロシアに対する政策で米国と足並みがそろわない。米国自身も海外での長引く軍事介入に疲弊し、オバマ政権の後半から「内向き」傾向が見え始め、トランプ大統領の「アメリカ第一」でそれに拍車がかかった。バイデン政権では、民主党の急進左派から米軍を海外から引き揚げるよう圧力が強まりそうだ。

そうなると、国際協調主義者のバイデン氏の下でも、米国に世界を主導する能力と意志が復活するとは想定しにくい。

双務性あらためて議論に

建国から250年近い米国の歴史を振り返れば、この国が国際社会で指導的役割を果たしたのは、戦後の75年間だけだ。国際的関与に消極的な米国こそ、本来の姿だと認識しなければならない。それに気付けば、日本も中国の軍事的脅威が尖閣諸島に迫る中で、安全保障面で米国へ過度に依存しない方がよいことが分かる。

米国が国際的な指導力を発揮できない、あるいは発揮しない時代に、日米同盟を維持、強化するには、日本が駐留米軍経費の分担を増すだけでは不十分だ。自衛隊の防衛能力を高めるとともに、将来的には、日米安保条約を米国に不公平感を抱かせない相互防衛条約に転換することを考えなければならないのではないか。トランプ氏は大統領在任中、米国が日本防衛に義務を負い、日本が米国防衛の義務を負わない仕組みに不満を述べたことがある。この仕組みを米国民が知れば、トランプ氏でなくとも日米同盟の在り方に疑問を抱くはずだ。日米同盟の双務性を高めることが日本国憲法の制約でできないなら、憲法を改正すればよい。