バイデン米大統領と習近平中国国家主席による11月16日(日本時間)の初のオンライン首脳会談は、米中間の競争が武力衝突に発展しないようにするには首脳レベルの関与と意思疎通が必要、という米国の呼び掛けで実現した。対立する問題で具体的合意を達成することは目的でなかった。首脳会談をきっかけに、バイデン大統領が対中強硬姿勢の修正へ動かないか注視する必要がある。
●台湾独立支持せず
事前の予想通り、台湾、人権問題など懸案事項で双方の主張は平行線をたどった。中国軍機の度重なる接近で緊張が高まる台湾海峡の情勢をめぐり、バイデン氏は台湾独立を支持しないと発言したと中国メディアが伝え、米側も否定しなかったのは少し気に掛かる。ただし、「米国は(台湾独立を)支持しないと前から言っている」(米高官)と説明されれば、その通りである。
多少の進展があったかもしれないのは、中国の核戦力増強の動きを受けた核管理問題だ。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は米中協議開始を探ることで両首脳が一致したと語った。しかし、政府間協議の実施で合意したのではないようで、中国からは、政府外の専門家による「トラック2」の対話も選択肢の一つ、という声が聞こえてくる。核弾頭の保有数で米国の10分の1以下の中国にとって、今すぐ核兵器削減を公式に話し合う誘因は乏しいのだろう。
●体制転換を試みない
むしろ今回の首脳会談で注目すべきは、バイデン政権が二つの点でトランプ前政権の対中強硬姿勢と一線を画したように見えることだ。第一に、中国と「首脳レベルの関与が必要」(米高官)であるとして、冷戦後の米国歴代政権が依拠してきた関与政策に復帰した。
ただし、歴代政権のように、関与を続ければ中国が国際ルールを守る国になるよう誘導できるとか、中国の政治的民主化も期待できるといった楽観論には立ち戻らない。バイデン政権高官は「関与を通じて中国を変えようとは思わない。それは非現実的だ」と言っている。
第二に、トランプ前政権はその末期に、中国国民に共産党体制の転換を促すところまで反中姿勢をエスカレートさせた。しかし、中国国営新華社通信によると、バイデン氏は首脳会談で「米国は中国の体制転換を求めないし、同盟関係を強化して中国に反対することも求めない」と表明した。
これをもってバイデン政権が対中融和政策に転じたと判断するのは性急すぎよう。米英豪の新たな軍事協力の枠組みであるオーカスの創設や、非軍事分野を中心に中国の覇権阻止を図る日米豪印のクアッドの強化、来年2月の北京冬季五輪に政府要人を送らない「外交的ボイコット」など、中国への対抗措置を相次いで打ち出している事実もあるからだ。
それでも、かつて米国の電撃的な対中接近で置き去りにされた「ニクソン・ショック」を体験した日本としては、バイデン政権が今後、対中強硬路線をじりじりと後退させ、中国に譲歩する局面は出てこないか、警戒を怠るべきでない。(了)