公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第859回】戦略思考と縁遠い民主主義サミット

冨山泰 / 2021.11.29 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 バイデン米大統領が12月初めに主宰する「民主主義サミット」の招待国が発表された。台湾が入っている一方で、米中両国が影響力拡大でしのぎを削る東南アジアをはじめ、中東、アフリカ、中央アジアなどの多くの国が招かれていない。中国やロシアの専制主義に反対する国々を結集するという戦略的思考とは縁遠い会議のようである。

 ●排除対象に同盟・友好国も
 民主主義サミットの開催はバイデン氏が2020年の米大統領選挙戦中に公約したもので、12月9~10日に111の国と地域を招いてオンライン方式で行われる。サミットの目標は、民主主義国を専制主義から守り、汚職を撲滅し、人権尊重を促進することの三つだ。米国務省によると、今回の会議で参加国はこの目標達成のための改革や構想を発表する。1年後に対面方式の会議を改めて開き、目標の進展度を確かめる。
 台湾の招待は、台湾の国際的孤立を図る中国に対し、台湾をてこ入れする効果を生む。中国の反発は織り込み済みだ。南シナ海における領有権争いで中国との関係の緊張が高まるフィリピンを招いたことも、中国を牽制することになるだろう。
 しかし問題は、米中両国が政府要人を相次ぎ派遣して歓心を買おうと競っている東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟10カ国のうち、民主主義サミットに招かれたのがフィリピンのほかインドネシアとマレーシアだけだったことだ。米国の同盟国タイは軍主導の政権、友好国シンガポールは事実上の一党支配とそれぞれ見なされたためか、招待されなかった。共産党政権のベトナムも呼ばれなかったが、領有権争いで中国と対立し、近年米国に接近しているのだから、対中戦略を重視するなら、オブザーバーかゲストとして招かれてもよかった。
 歴史的にロシアの勢力圏に属し、最近は中国が広域経済圏構想「一帯一路」を通じて影響力を強めつつある中央アジアからは、一つの国も呼ばれなかった。中東で招かれたのは米国の盟友イスラエルとイラクだけで、反米国家イランに対抗するアラブの大国サウジアラビアは絶対王制の国であるとの理由からか、声が掛からなかった。
 招待国のリストを見ると、バイデン政権は、既存のあるいは新興の民主主義国であることを基準に参加国を選んでおり、地政学的な考慮はほとんど働いていない。

 ●中露を利する?選別
 民主主義サミットについて記者団に事前ブリーフィングをしたゼヤ米国務次官(民間人の安全・民主主義・人権担当)は「バイデン=ハリス政権は民主主義と人権を米外交の中心に据えることを決意している」と述べ、人権外交を重視する姿勢を鮮明にした。バイデン政権には、理想や倫理よりも現実の国益を重視する「現実政治(レアルポリティーク)」の発想がそもそもないのかもしれない。
 国連に加盟する193カ国のうち、約80カ国が米国の選別によって民主主義陣営から排除された。そうした国々を中国やロシアに接近させることにならないか、心配である。(了)