公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第975回】米安保戦略が試す岸田政権の本気度

冨山泰 / 2022.10.17 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 米政府は10月12日、バイデン政権の外交・安全保障政策の基礎となる「国家安全保障戦略」を公表した。肝心の中国政策について、一部メディアは代わり映えしないと評したが、1年半前の「暫定国家安全保障戦略指針」に比べると表現がかなり強まっており、中国との「戦略的競争」のレベルが上がったことを反映している。

 ●中国の「意思と能力」を警戒
 今回の国家安保戦略は中国について、「国際秩序を再編する意思を持ち、経済・外交・軍事・技術力を強めている唯一の競争相手」と規定した。つまり、国際秩序をつくり替える「意思と能力」があると断定したのだ。その意思については「インド太平洋地域で勢力圏を固め、世界の指導国となる野望がある」と説明した。
 バイデン政権発足から間もない2021年3月に出された「暫定指針」では「国際システムに挑戦する潜在的能力を持つ唯一の競争相手」とされていた。「唯一の競争相手」という表現だけ見れば同じだが、暫定指針は中国の「意思」や「野望」を重視しておらず、「能力」についても「潜在的」との形容詞を付けて、表現をぼかしていた。さらに、暫定指針は中国を既存の国際システムへの挑戦者と位置付けたのに対し、今回は中国が新たな国際秩序づくりに乗り出していることを指摘して、警戒を強めた。
 ロシアについて、暫定指針は世界を「混乱させる役割」を果たしていると述べただけだったが、ウクライナ侵略後の今回は「国際の平和と安定に対する当面かつ持続的な脅威」と認定した。ただ、ロシアの脅威は「当面」つまり短期的であって、中長期的には中国こそ「最も重要な地政学的挑戦」だと述べた。バイデン政権が戦略文書の中でこう正式に宣言したことは、中国に直接対峙する日本として高く評価すべきだ。

 ●同盟国の防衛力強化に強い期待
 さらにバイデン政権の国家安保戦略は、日本を含む同盟国に強い口調で防衛力の強化を促した。「われわれは軍事力近代化と国内の民主主義強化に取り組む。同盟国もその種の能力に投資することや、抑止力を高めるのに必要な計画の立案に着手することなどによって、同じく行動するよう求める」と異例の強い呼び掛けを行った。
 同文書はまた「インド太平洋の同盟国には、欧州の同盟国と協力して望ましい(国際)秩序の形成および中国との競争に関わってほしい」とも書いている。
 日本政府も今年末までに自前の「国家安全保障戦略」を含む戦略3文書を改定する。3文書に基づく防衛力の抜本的強化へ向けて、米国の今回の戦略文書は大きな援軍になる。一方で、この戦略文書を見る限り、米国が日本の防衛力強化への期待を今後さらに強めることは確実であり、岸田文雄政権の本気度が試される。(了)
 
 

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第234回 アメリカの中国に対する警戒度が強まっている

今週発表した「国家安全保障戦略」でも明らかである。これは、日本の安全保障戦略に対する強い援軍になると同時に強い期待でもある。日本政府はきちんと対応する必要がある。