公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

冨山泰

【第1093回】米中関係「修復」にだまされるな

冨山泰 / 2023.11.20 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 1979年の国交正常化以降で最悪と言ってよい米中関係は、米サンフランシスコ近郊における11月15日のバイデン米大統領と習近平中国国家主席の首脳会談で、偶発的な軍事衝突を回避する軍同士のハイレベル対話再開に合意するなど、当面の緊張を緩和した。しかし、うわべの関係修復にだまされてはならない。米中関係を一気に緊迫させかねない台湾総統選挙が2カ月後に迫っているし、より根源的には、米国主導の国際秩序を覆そうとする中国の野望は強まる一方と見なければならないからである。

 ●地球規模の野望
 中国の野望増大を示すと思われるのは、習氏が首脳会談で「地球は十分に大きいので(米中)両国の成功を受け入れることができる」と語ったことである。習氏は以前、「太平洋は十分に広い」と述べ、太平洋の西半分を中国の、東半分を米国のそれぞれ勢力圏に分割する意図と受け取られたことがあった。今回の発言は地理的範囲を太平洋から地球全体に拡大したもので、中国の覇権追求が西太平洋で止まらないことを示唆する。
 米国を西太平洋から追い出す中国の野望の実現に欠くことのできないのは台湾の併合だが、首脳会談後のバイデン氏の記者会見は、台湾防衛の決意に一抹の不安を感じさせた。「台湾防衛へのコミットメントに変わりはあるか」との質問に対し、「『一つの中国』政策に変わりはない」と、ちぐはぐな答えをしたのだ。
 質問を聞き間違えたのか、意図的に答えをはぐらかしたのかは分からないが、バイデン氏はこれまで4回、中国の軍事侵攻に際して米国が台湾を防衛する趣旨の発言をしてきた。今回、そうした発言を行わなかったことで、中国に対する抑止力の低下が心配される。

 ●平和共存の難しさ
 記者会見でバイデン氏は、来年1月13日の台湾総統選に介入しないよう習氏に警告したことも明らかにした。中国はこの選挙で、中国と距離を置く与党民進党の頼清徳候補を当選させないことに全力を傾けており、劣勢だった野党陣営が米中首脳会談と同じ日に統一候補の擁立で合意した背後に中国の影響力行使があったと見るのが自然だ。軍事的威圧だけでなく、影響力行使も立派な選挙介入であり、バイデン氏の警告は習氏に無視されたことにならないか。
 総統選で仮に与党が勝てば、今度は中国の台湾に対する軍事的威圧が予想され、米中関係の緊張緩和の約束が早速試されることになる。
 米国の利益が第2次世界大戦後に自ら築いた国際秩序の維持にあり、中国の目標がその秩序の解体にある以上、両大国の平和共存は難しい。中国が今回、米国との首脳会談に応じたのは、不動産不況で低迷する経済を米企業の投資で回復させ、台湾侵攻に備えて軍隊を強靭化する時間稼ぎと見るべきだろう。そうした厳しい現実認識に立って、日本も米国や同志国と協力し、台湾有事を抑止するための軍事力強化を急がねばならない。(了)
 
 

関 連
国基研チャンネル

第472回 中国に騙されるな

島田氏と同じく米中首脳会談を評価すると、決して楽観視できない。表向きは友好的だが本質は違う。習近平氏の言葉「地球は両国が成功するのに十分な大きさ」は、世界を米中で2分しようとする野心の現れ。まずは西太平洋から米国を追い出すだろう。日米はさらに注意力を高め抑止力を強化すべき。