公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

細川昌彦

【第1094回】IPEFで露呈した米政権のお寒い実態

細川昌彦 / 2023.11.21 (火)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 米国が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の閣僚会合、首脳会合が先週閉幕した。IPEFは4本柱で構成されるが、そのうち「脱炭素」と「公正な経済」で妥結し、「貿易」は合意が先送りされた。今年5月に「供給網の強化」で妥結している。以上が2022年9月の交渉開始から1年余の成果だ。ただし、これは来年になると米国が大統領選一色になるため、妥結できる分野は今年中に妥結しておかねばならないという米国の事情を反映している。残念ながら、中身を見れば、交渉期間の短さに釣り合っていると言わざるを得ない。

 ●日本が具体的構想を主導
 IPEFはアジアの新興国をつなぎ留めるために実利をどこまで示せるかが成功のカギを握る。実利を示せる分野が「脱炭素」と「供給網の強化」だ。
 新興国の脱炭素化の支援では日米豪が3000万ドル(約45億円)規模の基金を創設する。新興国は脱炭素の取り組みに資金を必要としている。そこで、日本が単独でもやろうとしていた取り組みに米国、豪州が相乗りした。
 供給網の強化では、重要物資の供給途絶に直面した国を支援する情報共有のネットワークの構築で合意している。これもすでに日本がアジアの国々と行おうとしていた構想をベースにしたものだ。
 いずれも日本が具体的な構想づくりを主導しているのだ。

 ●民主党左派の悪影響
 他方でバイデン政権に対する米民主党左派の影響がIPEFの足を引っ張る。
 「公正な経済」がそれで、米国の要求で税逃れの資金洗浄防止や汚職防止が盛り込まれたが、新興国は当初から関心がなく、冷ややかだ。
 「貿易」では、米国は労働者の人権や環境の保護で厳しい基準を求めているが、新興国にとってそれで輸出が増えるわけでもなく、実利はない。
 デジタル貿易のルールづくりも暗礁に乗り上げている。米議会では民主党を中心に、巨大IT企業を規制する動きが強まっている。そうした中で、ルールづくりは巨大IT企業を利するだけだとして、米国内で意見が対立している有様だ。

 ●日本の双肩にかかっている
 IPEFはそもそも環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した米国が、アジアで影響力を高める中国に対抗するために考え出した枠組みだ。しかし関税の撤廃・削減を対象としておらず、米国市場への輸出を増やしたい新興国は実利を感じにくい。
 従って、米国自身がそれに代わる実利でアジアの新興国を引き付ける努力をしない限り、掛け声倒れになってしまう。その努力ができていないどころか、国内から足を引っ張られる始末だ。日本に「おんぶにだっこ」であるのが実態だ。来年の大統領選で共和党政権が誕生すれば、TPP同様に米国がIPEFから離脱する可能性さえある。楽観視できないIPEFの将来は、ますます日本の双肩にかかっている。(了)