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本田悦朗

【第1095回】「健全な財政」は「均衡財政」を意味しない

本田悦朗 / 2023.11.27 (月)


国基研企画委員・元内閣官房参与 本田悦朗

 

 国の財政に関する基本法である財政法は第4条1項で、公債発行に依存しない「非募債主義」即ち「均衡財政主義」を定めているが、公共事業費等の財源については例外的に、国会の議決を経た金額の範囲内で公債の発行を容認している。これを「建設公債の原則」と呼ぶ。しかし、現実には、経常的な支出に充てるために毎年のように特例法を制定し、「特例公債」(赤字国債)を発行して財源としている。最近では、複数年度にわたって一括して特例公債を発行する根拠法が手当てされている。
 財政運営に関する法の規定としては、上記の財政法のほか、財務省設置法第3条1項に、「健全な財政の確保」を財務省の任務とするとの規定がある。しかし、「健全な財政」の定義はなく、「健全な財政」とは「均衡財政」を意味するとの誤解が広く行きわたってしまった。

 ●「非戦」の名残の財政法4条
 財政が果たすべき機能は次の3点であることがコンセンサスとなっている。即ち、①公共的な財・サービスを供給する(資源配分機能)②累進税制度等によって国民の間の所得格差を是正する(所得再分配機能)③景気の変動をなだらかにする(経済の安定化機能)―である。「健全な財政の確保」とはこれらの機能が十全に発揮されていることを意味すると理解するのが最近の潮流であり(機能的財政論)、その際、財政が均衡しているかどうかは重要でない。
 「均衡財政主義」には意外な生い立ちがある。財政法の立法は、戦後の連合国軍総司令部(GHQ)の統治下で、憲法の制定とほぼ並行的に進行していた。財政法の立案に関わった当時の大蔵省主計局の平井平治法規課長は、その逐条解説書で、「財政法4条は、健全財政を堅持していくと同時に、財政を通じて戦争危険の防止を狙いとしている。公債のないところに戦争はない。同法4条は憲法9条の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするものである」と述べている。
 また、現在の財務省職員のバイブルとも言える「予算と財政法」(元大蔵事務次官小村武著)にも、「(財政法4条は)健全財政主義の原則を定めたものだが、戦前の軍事費調達のための巨額の公債発行の反省が一つの契機であった」と書かれており、制定当時の「非戦」の雰囲気がにじみ出ている。

 ●持続可能な財政運営を
 確かに、特例公債発行の道を閉じられたら、戦争は不可能であろう。しかし、現下の国際情勢を見ると、我が国が応戦能力を否定されても戦争は起こり得るのである。国家の存続より均衡財政の方が重要だという人はいない。もしいたら、本末転倒である。
 財政運営はまず、財政の「持続可能性」を堅持しなくてはならない。それが「健全財政」の最低限の条件である。そして持続可能性の条件を満たすためには、デフレから完全に脱却し、国債の利払いを超える名目成長率を維持することが必要だ。均衡財政は長期的な目標としておいて、問題はない。(了)
 
 

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政府の経済対策が国会で議論されるが減税に首相は消極的。国債発行もままならない。全く思考停止している状態。原因は戦後レジームの産物「財政法4条」にある。公共事業以外の目的で国債発行ができない仕組み。その意味は日本が二度と戦争できないように縛り付ける仕掛け。税収の範囲でしか財政支出できない国は他にあるのか。

田村秀男 国基研企画委員