公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1096回】防衛装備移転、首相の出番だ!

岩田清文 / 2023.12.04 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 防衛装備移転に関する与党調整が迷走している。これまでの議論の積み上げを公明党が無視する態度に出たためだ。自民、公明両党で構成するワーキングチーム(WT)は4月以降議論を重ね、7月には他国と共同開発する装備品の第三国への移転を容認する方向にあった。しかし、公明党の石井啓一幹事長は12月1日の会見で、「第三国への輸出はこれまでのあり方を大きくはみ出す。慎重であるべきだ」と述べ、半年以上に及ぶ協議を振り出しに戻す「ちゃぶ台返し」に出た。

 ●公明党は一国平和主義
 石井氏が念頭に置くのは、日本が英国、イタリアと三か国で開発を進める次期戦闘機だ。現状の防衛装備移転三原則の運用指針では、共同開発国以外への輸出はできない。WT座長を務める小野寺五典元防衛相は「共同開発・生産は半ば同盟と同じ意味がある。NATO(北大西洋条約機構)との関係強化は東アジアでの抑止力強化にもつながる」との認識を示し、第三国移転容認に向け議論をまとめてきた。
 昨年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」にも、装備品の海外移転は「我が国にとって望ましい安全保障環境の創出」に寄与するとの記述がある。公明党が態度を硬化させたのは「平和の党」を支持者にアピールしたいためだろうが、これで、年内を予定していたWTとしての報告書提出に黄信号がともった。
 議論が進んでいる分野は共同開発のみではない。輸出できる装備品は現在、「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に限定されているが、類型を拡大する方向となっている。自民党は当初、類型を撤廃し殺傷能力のある装備も輸出できる案を出していたが、これまでの議論で、「防空」や「海洋安全保障」関連の装備を拡大対象にしたい意向を示した。防空はロシアに侵略されたウクライナへの支援、海洋安全保障は中国の進出に脅かされる東南アジア諸国への艦艇供与を念頭に置く。
 一方の公明党は、対象拡大には応じているが、「教育訓練」や「地雷処理」にとどめるべきだとしている。防空のためのミサイルや掃海艇搭載の機関砲が人を殺傷するとの認識なのだろう。これらは輸出相手国を守り、人を守る装備、あるいは機雷を処理する装備である。人を殺傷する可能性が少しでもあれば平和に繋がらないという考えだろうが、自分の国だけは直接殺傷行為に関わりたくないという「一国平和主義」と映る。

 ●党首会談で局面打開を
 日本にとって望ましい安全保障環境をいかにして創出するかが喫緊の課題とされている厳しい時代にあって、公明党のような思考停止は日本の国益に繋がらない。同党の先祖返りにより与党調整がここまで迷走した以上、結論を出せるのは岸田文雄首相しかいない。速やかに自公党首会談を実施し、首相としてのリーダーシップを発揮する時だ。(了)