日本政府が、来年にも調印が予定される東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定への不参加を表明したインドに対して、猛烈に翻意を働き掛けている。担当閣僚の梶山弘志経済産業相が12月10日にニューデリーでインドの商工相と会談したのに続いて、15~17日には安倍晋三首相が年次首脳会談のため訪印し、モディ首相に交渉への残留を求める。
●インド誘った日本の思い
そもそも、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日中豪印など6カ国で構成されるRCEPにインドを誘い込んだのは日本だった。
2004年、中国は「ASEAN+3(日本、中国、韓国)」の枠組みによる東アジア自由貿易圏(EAFTA)の構想を提唱した。これに対して中国主導の経済統合を嫌う日本は2006年、インド、オーストラリア、ニュージーランドを追加した「ASEAN+6」による東アジア包括的経済連携(CEPEA)の構想を呼び掛けた。
中国は当初、自国の影響力が削がれかねない「+6」には消極的だったが、2011年、中国抜きのルール作りを目指す米国主導の環太平洋戦略的経済連携(TPP)交渉の本格化に危機感を抱いて方針を転換し、参加国拡大を受け入れた。それに日中主導となることを警戒するASEANが反応し、自らが主導する形にして2013年に交渉が始まったのがRCEPだ。
ところが交渉が大詰めを迎えた今年11月になって、インドはRCEP不参加を表明した。その理由について、ジャイシャンカル外相は「RCEPに入ることの損得勘定によるもので、(モディ政権の)アクト・イースト政策の後退ではないし、インド太平洋構想とも関係がない」と述べ、インドの国家戦略の変更を意味しないと強調している。
日本の外交筋は、大きな対中貿易赤字を抱える中でインドは、RCEPの締結で、より安価な中国製品がますます入ってくることを懸念しているのではないか、と分析している。
●中国けん制の戦略的意味
報道によると、梶山経産相はインドの産業競争力の強化に日本が協力することを約束し、インドにRCEPから離脱しないよう求めた。これに先立ち、11月30日には茂木敏光外相もニューデリーを訪れ、モディ首相に交渉への復帰を働き掛けた。
日本にとってインドをRCEPに引き留めることは、13億人の巨大市場をつなぎ止める経済的意味だけでなく、中国がこの枠組みを踏み台に地域経済統合の主導権を握らないようにけん制する戦略的意味もある。
日本政府がインドのRCEP参加を重視するなら、「東アジア地域包括的経済連携」としているRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)の公式の日本語表記を再考したらどうか。
インド、オーストラリア、ニュージーランドの3国は東アジアに属さないから、Regionalを「東アジア」と意訳したのは不適切だ。英語表記にない具体的な地域名を日本語表記にあえて入れるなら、やはり「インド太平洋」だろう。そのようにして初めて協定の概念が正確に伝わる。