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2019.12.16 (月) 印刷する

ブレグジットを「日英同盟」の契機に 湯浅博(国基研企画委員兼主任研究員)

 英国の総選挙でボリス・ジョンソン首相率いる保守党の圧勝は、「決められない政治」に辟易していた有権者の選択としか思えない。3年半も続いたブレグジット騒動は、英国社会を分断したうえ経済の足を引っ張るなど、ポピュリズム政治のツケがいかに大きいかを見せつけた。これにより、英国が欧州連合(EU)から離脱することが決定的になった。
 EU離脱後の英国の将来を見据えれば、ジョンソン政権は米英の「特別な関係」に回帰し、日本との関係強化に踏み出すきっかけになる。混沌とした国際秩序の中で、大陸離れする英国が国際協調の道を探るとすれば、同じ海洋国家との緩やかな連帯しかありえない。安倍晋三政権は英国をインド太平洋戦略の中核的なメンバーとして引き入れるべきだろう。

 ●サッチャー以来の保守党圧勝
 伝統的に英国政治は、おおむね「小さな政府」路線の保守党と、「大きな政府」の労働党の2大政党が、政策面でしのぎを削ってきたものだ。しかし、この3年半の揺らぎは、EUからの「離脱か否か」を突き付けられた両党が、ともに内部分裂を起こしてしまった。
 2016年6月に当時のキャメロン首相が、「離脱」が「残留」を上回ることはあり得ないとの確信の下に、安易な国民投票に踏み切った報いである。政権側の楽観視と国民の面白半分の投票の結果は、将来にわたって重いツケを英国の議会政治と国民に課した。日本企業を含む外国企業の英国離れを引き起こし、EUの混迷を招き、なにより英国社会の分断は深刻だ。
 今回の選挙では、保守党がEU離脱をワン・イシューとして戦ったのに対し、労働党は党内が離脱派と残留派に分裂して争点をぼかさざるを得なかった。「離脱か否か」にうんざりしていた有権者は、労働党がEU離脱にあいまいな上に党首のジェレミー・コービン氏が鉄道、郵便の国有化や金持ち課税という労働党左派路線に嫌気した。時代遅れの政策がそっぽを向かれ、保守党にサッチャー時代以来という大幅な議席増をもたらしたのだ。

 ●英国にも日本接近狙う事情
 ジョンソン政権は今後、EU離脱後の英国経済の再建策を強力に打ち出さなければならない。保守党のマニフェストが増税を排除し、市場経済の活性化を掲げ、規制の緩和に意欲を示しているところから、米国のトランプ政権との相性はよさそうだ。今後、米国や日本との間で経済連携協定(EPA)の交渉に入り、環太平洋包括的経済連携交渉(TPP)にも何らかの関係を持とうとする可能性が高い。
 現下の自由主義的な国際秩序観が後退する中で、安全保障面で大きく翼を広げることが重要になってきた。保守党の戦略観からすれば、ユーラシア大陸を迂回して海洋アジア、なかでも経済、安全保障の両面から同質性の高い日本に接近してくる可能性が高い。
 すでに保守党は、前任のテリーザ・メイ首相が2017年8月30日に、アジア地域のどこにも寄らず、安倍首相と会談をするためだけに日本を訪問している。両国はその折に、安全保障協力を新たな段階に押し上げる「日英共同宣言」を発表した。EU離脱を前提とすれば、力ある自由主義国家との同盟がますます重要になってくるからだ。

 ●インド太平洋戦略に引き込め
 日英両国が従来の単なるパートナーから同盟関係に向けた一歩を踏み出したことは、1923年に日英同盟を解消して以来の進展であった。かつて英国は、ランドパワー(大陸国家)であるロシアの膨張を阻止するため、1902年に同じシーパワー(海洋国家)の日本と同盟を結んだ。周知の通りその成果は、あの日露戦争の際の連携によって結実している。
 先の日英首脳会談を受けて、2017年12月には日英外務・防衛担当閣僚会議「2+2」が開かれ、インド太平洋地域の安定のため自衛隊と英軍との合同演習の定例化や将来の戦闘機の共同研究の開始が合意された。その後も、陸海空とも合同演習を着実にこなしている。
 近年、中国とロシアが急接近している現状は、ユーラシアの大陸国家群と対峙する日英の地政学的な戦略環境は変わらない。中国は南シナ海の係争海域で人工島をつくって占拠し、ロシアは協約、覚書を破ってクリミア半島を併合したいずれも無頼の国家である。
 ともに米国の影響力を弱体化させることが共通利益であり、国際秩序を崩して権威主義的な世界への転換を意識する。これに対して安倍政権は、日英二国間の絆を強固にしたうえで、日米豪印にプラスして英国を巻き込み、対中抑止の強化を図る方向に導く戦略を考えたい。