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2021.01.25 (月) 印刷する

新政権で異彩放つケリー氏の対中政策 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)

 バイデン新大統領の就任を翌日に控えた1月19日、米上院で主要閣僚の指名承認公聴会が一斉に行われ、新閣僚はいずれも中国に対する強硬な姿勢を表明した。しかし、バイデン政権がトランプ前政権とさほど違わない中国政策を打ち出すと考えるのは早計だ。新政権の具体的な行動を見守る必要がある。

閣僚は厳しい対中姿勢で一致

国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン元国務副長官は公聴会で、中国共産党政権の少数民族ウイグル人らに対する弾圧を「ジェノサイド」と認定した前政権の判断に同意すると言明した。また、台湾の防衛能力を高め、国際社会における台湾の地位向上を図ると約束した。

黒人で初めて国防長官に指名されたロイド・オースティン元中央軍司令官は、中国を「最大の脅威」と位置づけ、「中国は遠くない将来に世界で抜きんでた大国に本気でなりたいと考えている」と述べた。

情報機関を統括する国家情報長官になるアブリル・ヘインズ元中央情報局(CIA)副長官は、共産党政権下の中国は米国の敵かとの議員の質問に対し、「スパイ行為に関して言えば、敵だ」と答えた。

財務長官になるジャネット・イエレン前連邦準備制度理事会(FRB)議長は、知的財産権の侵害、技術移転の強要、国営企業への補助金など中国の不公正かつ不法な経済慣行を阻止するため「全ての手段」を使うと強調した。

こうした発言だけを聞くと、バイデン政権も中国に厳しい見方をしているとの印象を与える。米大統領選挙でバイデン氏を支持したワシントン・ポスト紙は社説で、「米国が中国に立ち向かう必要に関して、超党派の合意の明確な基盤が存在する」と述べ、バイデン大統領が呼び掛ける国家の「団結」は外交が皮切りになると喜んだ。

気候問題で中国の協力最優先か

しかし、見落としてはならないのは、中国に融和的な大物政治家、ジョン・ケリー元国務長官が気候変動問題に関する大統領特使としてバイデン政権に加わったことである。

ケリー氏に対する懸念は、ブルッキングズ研究所のトマス・ライト上席研究員がアトランティック誌への寄稿で詳細に明らかにしている。それによると、ケリー氏は、①気候変動問題は中国との協力なしに進展しない②米中関係で最も重要なのは気候問題であり、インド太平洋地域における中国との地政学的な競争などそれ以外の問題は二次的な重要性を持つにすぎない―と考えている。

バイデン氏の周辺には、気候問題で中国の協力を得るために他の問題で米国は譲歩してもよいという考えに賛同する人がごく少数ながら存在するという。

ケリー氏は国務長官時代に、気候変動は大量破壊兵器に匹敵する米国の安全保障への脅威と演説したことがあり、気候問題へのこだわりは筋金入りだ。バイデン政権では閣僚級の大統領特使のポストを与えられ、国家安全保障会議(NSC)のメンバーにもなって、対中政策への発言権を確保した。

ブリンケン新国務長官はオバマ政権で国務副長官を2年間務めた際、直属の上司である国務長官がケリー氏だった。元上司の圧力に屈せず、気候問題で協力しても地政学的な競争では譲らないという立場を貫けるか。