公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

  • HOME
  • 国基研ろんだん
  • 「プーチン宮殿」暴露動画の衝撃 遠藤良介(産経新聞論説委員、前モスクワ支局長)
2021.01.25 (月) 印刷する

「プーチン宮殿」暴露動画の衝撃 遠藤良介(産経新聞論説委員、前モスクワ支局長)

 猛毒の神経剤による毒殺未遂に遭ったロシアの反体制派指導者、ナワリヌイ氏の陣営が、プーチン露大統領は南部の黒海沿岸に秘密の「豪華宮殿」を保有しているとインターネット上の動画で告発した。政権は反体制派の抑圧に邁進する構えだが、プーチン氏の威信低下にはもはや歯止めがかかりそうにない。

敷地はモナコの39倍

動画は「プーチンのための宮殿 最大の賄賂の歴史」と題され、2時間近くに及ぶ。ナワリヌイ氏はこの中で、南部クラスノダール地方にある宮殿がプーチン氏のもので、建設費は少なくとも推定1000億ルーブル(約1400億円)、敷地面積は「モナコ公国の約39倍にあたる7800ヘクタール」だとしている。これがプーチン体制の「汚職の実態だ」と訴えた。

ドイツで治療を受けていたナワリヌイ氏は17日にロシアへ帰国した直後、空港で司法当局に拘束された。ナワリヌイ氏が率いる「汚職との戦い基金」は1月19日、報復としてこの動画を公開し、政権との対決姿勢を鮮明にした。動画の再生回数は25日時点で8000万回を超え、ロシア人の2人に1人は視聴した計算になる。

ナワリヌイ氏らは当局の警備をかいくぐってドローンを飛ばし、宮殿の空撮に成功。建設関係者の証言や入手した設計図をもとに、宮殿には屋内スケートリンクやカジノ、劇場などが備えられ、ぶどう畑やワイン工場が併設されていると指摘した。登記簿や企業の財務記録などから、プーチン氏の友人である実業家や国営企業の資金が宮殿建設に回されたことも突き止めた。

政権にボディブロー

23日には動画の呼びかけに応じて全国各地でナワリヌイ氏の釈放を求める大規模デモが行われ、モスクワでは約4万人が参加した。

ロシアでは9月、経済低迷が長期化する中で下院選が予定され、与党の苦戦と政権基盤の弱体化が予想されている。政権は反体制派を抑圧する法制の整備を急速に進めており、当面は国内の締め付けを強めるのが必至だ。23日のデモでは全国で3000人以上が治安当局に拘束された。

しかし、プーチン氏とその友人らが国を食い物にしている実態が今回の動画で暴かれたことは、ボディブローのようにじわじわと政権に打撃を与える。政権が締め付けを強めれば強めるほど、反体制運動が先鋭化していくに違いない。最近は政権の統制が効きにくいネットメディアでプーチン氏の愛人やその蓄財に関する疑惑も報じられるなど、国民思いの指導者を演じてきたプーチン氏のイメージは急速に悪化している。ロシアの内政は流動化の時期に入ったとみるべきだ。