公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.10.21 (月) 印刷する

ソロモンを中国が軍事拠点化 冨山泰(国基研研究員・企画委員)

 南太平洋の島国ソロモン諸島が9月に外交関係を台湾から中国に切り替えた直後、中国国営企業が同諸島の島一つを丸ごとリースする契約を地方政府とひそかに結んでいたことが分かった。この島には天然の深海港があり、中国海軍がここに足場を築けば、同盟国である米国とオーストラリアの両国軍の連携が分断され、米国の太平洋軍事戦略に重大な支障が及ぶ恐れがある。

 ●狙いは米同盟軍の分断
 リース契約を結んだのは、中国共産党と緊密な関係にあるといわれる複合企業、中国森田企業集団(China Sam Enterprise Group)だ。ソロモン諸島のツラギ島と周辺の複数の島を75年間貸与され、飛行場の建設や整備、経済特区の開発、漁業や観光業など地場産業の育成に取り組む。リース期間は更新可能だから、事実上の永久貸与と言ってよい。
 ソロモン諸島は豪州の北東海上を包囲するように並ぶ群島の一角を占める。第2次世界大戦で日本軍は、米軍と豪州軍を分断する目的でソロモン諸島を占領し、ツラギ島の天然の深海港を海軍艦艇の停泊地として利用したが、米軍の猛攻で日本軍の守備隊はほぼ全滅する悲劇があった。ツラギ島のすぐ南には、日本軍が敗走して餓死者を大量に出したガダルカナル島がある。ソロモン諸島は日本軍の南進の最前線だった。
 中国はソロモン諸島の南東に位置するバヌアツの港湾の改修を手掛け、いずれはここを軍事利用する可能性が指摘されている。バヌアツと共に、ツラギ島を含むソロモン諸島も軍事利用することになれば、その狙いは往時の日本軍と同じく、有事における米豪両軍の分断であろう。

 ●巻き返し図る日米豪陣営
 中国の南太平洋進出を警戒する米国、豪州、そして日本の陣営が手をこまぬいているわけではない。米国では共和党有力者のルビオ上院議員(フロリダ州)らが、台湾と断交をした国に制裁を加える内容を盛り込んだ法案を超党派で採択するよう呼び掛けている。特にソロモン諸島については米国の財政支援の終了など厳しく対応することを提唱して、巻き返しに乗り出した。米下院には、その趣旨の法案が超党派議員によって10月18日に提出された。
 政府レベルでは、日米豪3国が外相級の第9回戦略対話を8月にバンコクで開き、ハイレベルの交流やさらなる経済連携を通じて太平洋島しょ国への関与を強化することを申し合わせた。これに先立って、トランプ大統領は5月、太平洋島しょ国のうち、米国と「自由連合協定」を結んで米軍に領域の自由な使用を認めているマーシャル諸島、ミクロネシア連邦、パラオ3国の大統領を初めてワシントンに招き、緊密な協力を続けることを確認した。
 同じ5月には、安倍晋三首相が太平洋島しょ国の全14カ国と豪州、ニュージーランドの首脳らを福島県に招いて第8回太平洋・島サミットを開き、島しょ国の対中傾斜に歯止めをかけることを試みた。ソロモン諸島とキリバスが台湾と断交し、中国と国交を結んだのはその後の9月だから、歯止めがかかったとは言えない。中国と日米豪のせめぎ合いは続く。