関西電力の役員ら20人が福井県高浜町の森山栄治元助役(故人)から多額の金品を受け取っていた問題で9日、八木誠会長と岩根茂樹社長が記者会見し、それまでの強気な態度を一変させ、いずれも事態の責任を取って辞任することを明らかにした。八木会長は即日辞任し、岩根社長は、関電が設置する第三者委員会の調査報告を待って辞任するというが、あまりに対応が遅すぎる
この問題では9月27日の会見で社内調査の結果が公表され、過去30年にわたって役員ら幹部20人が受け取っていた金品は総額3億1845万円相当にのぼり、そのうち3487万円相当は未返却だったことが明らかにされた。開いた口が塞がらないとはこのことである。政府や自治体のみならず、国民から厳しい批判が相次いだのは当然である。関電の闇の部分を徹底解明することで、原発事業への信頼回復につなげる必要がある。
●地元のドンに異常な気配り
関電が公表した報告書によると、森山元助役は高浜原発3,4号機の建設誘致で地域の取りまとめに深く関わり、金品の提供は関電幹部に対する自己の存在感誇示の意味合いがあったとしている。
報告書は、たびたび暴言や恫喝に及ぶ元助役の性格から、金品の拒否や返却は難しかったと結論付けているが、電力の安定供給という社会的に重い責任負う立場を考えれば信じがたい。
週刊文春や週刊新潮が報じているところによれば、森山元助役は地元では「同和のドン」として君臨しており、福井県の人権行政に対しても大きな影響力を持っていた。県の客員人権研究員や人権施策推進審議会委員を務め、1985年に科学技術庁長官賞、1996年に法務省人権擁護局長感謝状受賞、2003年には瑞宝双光章を受賞している。
●関電は被害者といえるのか
9日付の毎日新聞は、一部の報道などが「元助役が実力者となった背景に部落解放運動があった」などと示唆していることについて、部落解放同盟の組坂繁之中央本部執行委員長のコメントを掲載し「部落差別の助長拡大」をしていると批判している。
この記事によれば、元助役は部落解放同盟の福井県連と高浜支部が結成された1970年から2年間、両組織で書記長を務めた。その際、県や町に対する過剰な言動を理由に解任され、以後は解放同盟内での発言力はなかったという。福井県連は高浜支部のみの約200人にすぎず、県や地元自治体、関電に大きな影響を及ぼすほどの力はないとコメントしている。
一連の報道から浮かび上がってくるのは、高浜原発の立地に当たって元助役の手腕を利用していたのはむしろ関電側で、元助役は関連会社が工事を受注するように関電に働きかけていたとの図式だ。
2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の事故で原発事業への信頼が一気に地に落ちたのは残念だが、関電はその東電に代わる電力業界のリーダー役として期待されていた。今回はその矢先の不祥事発覚だけに打撃は大きい。
●信頼構築に欠かせぬ安全確保
とりわけ原子力事業の遂行には、原発推進と原発反対のイデオロギーもからむ激しい二項対立の壁がある。この壁を乗り越えて地元の理解を得て共生していくだけで大変なエネルギーが必要だ。事態の収拾には息の長い地道な信頼回復の努力が必要だろう。そのためにも、原発事業では、いわれなき恫喝や嫌がらせなどでつけ入れさせない態勢づくりが求められている。
筆者も、北海道で原子力工学の教鞭をとっていた時代、学内にもアジトがある極左組織から、たびたび殺害予告を受けていた。れっきとした犯罪行為であり、大学とも相談して警察からいろいろなアドバイスを受けたことがある。
関電も反原発デモなどは日常茶飯事の世界にある。しかし、度を越した脅しには毅然な対応をとることが必要だ。
金品の受領など論外だが、やむなく受け取らざるを得なかった場合は、最低限、寄附金として正式な経理処置をしておくべきだった。必要なタイミングで町の発展のために寄付し直すなど公明正大に扱っていれば、今回のような事態にはならなかったはずだ。
工事の業者選定も実績やコストで、きちんと入札で対応すべきだ。国際原子力機関(IAEA)の規制評価サービスの指摘で来年4月から始まる新検査制度では、調達管理も原発の信頼性・安全性を確保するための重要な活動になる。21世紀の原子力業界は、世界に誇れる産業に成長してほしい。