公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.10.24 (木) 印刷する

習近平を国賓招待している場合か 島田洋一(福井県立大学教授)

 10月22日の即位礼正殿の儀における天皇皇后両陛下の立派な立ち居振る舞いを見ていて、中国の一段のファシズム化、対外膨張を押し進める習近平国家主席に対し、宮中晩餐会の場で「心から歓迎する」おことばを政府は強いてはならないとの思いを強くした。国賓招待は取り消すべきだろう。
 これがアメリカなら、「国賓待遇で」という話が出た途端、有志議員が反対決議をまとめ、時を経ず超党派、圧倒的多数で議会を通過するはずである。ところが、日本の国会は、与野党含め、ピクリとも動かない。
 欧米で中国批判が強まる中、習近平氏は自らを国賓として日本に招かせることで、「アジアでは中国の行動が支持され、尊敬されている」とのイメージを世界に発信しようと目論んでいる。日本は唯々諾々と協力するのだろうか。

 ●各個撃破で分断が常套手段
 米議会では、下院がすでに10月15日、「香港人権・民主主義法案」を超党派で可決し、上院でもやはり香港の民主派を支援する「香港人権法案」が超党派で提出されている。共和党のテッド・クルーズ、民主党のベン・カーディン両上院議員が主提案者となり、全会一致の採択を目指している。
 中国は「反中的」と見なした米議員の地元企業を狙い撃ちし、排除や嫌がらせをすることで、議員に圧力を掛けてきた。各個撃破で米国内を分断する戦術だ。
 米プロバスケットボール協会(NBA)の所属チーム「ヒューストン・ロケッツ」の統括部長(GM)が10月4日に発した香港の民主化デモを支持したツイートに対しても、中国はテレビ放映の中止やキャラクター商品のボイコットなど経済的報復を加えた。
 NBAのコミッショナーが当初、中国の行為でなくロケッツGMのツイートについて「遺憾(regrettable)」と表明したため、米国内で「カネに目が眩んで独裁国家の国際検閲に屈するのか」との批判を浴びた。
 ケースは異なるが、中国の恫喝には「一丸となって」対抗する姿勢がとりわけ重要だという点では同じだ。

 ●一丸の米議会、異議唱えぬ日本
 クルーズ上院議員らは10月9日付で、NBAコミッショナー宛に公開書簡を出したが、その中に「中国に各個撃破を許さぬよう、今後は一丸となって中国の同種の試みに立ち向かう姿勢を強く打ち出すべき」という一節がある。
 この公開書簡には、保守強硬派のクルーズ氏とは対極に位置する民主党最左派の若手女性下院議員、アレクサンドリア・オカシオコルテス氏も署名している。党派を超えた対処の重要さをここでも政治家たちが実践して見せたわけである。同じ光景が日本で想像できるだろうか。
 「政争も水際まで」(Politics should end at the water's edge.)という。セオドア・ルーズベルト政権の国務長官エリュー・ルートの言葉だと言われるが、政争は外交・安保の分野に持ち込んではならないという戒めである。アメリカの政治家たちは、時にこの言葉を形にして見せる。
 最初の話題に戻ろう。我が国議会も超党派で「習近平主席の国賓招待は現状では不適当」と決議すれば、政府も無視はできないはずだ。「議会が取りつく島がないので諦めて欲しい」と中国側に「外交的に」断りを入れることができる。
 国賓として招くと決めた日本政府の判断も問題だが、何の異議も唱えない国会も、理念と外交感覚に著しく欠けていると言わざるを得ない。