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西岡力

【第1184回】中国人の反日感情は人工的につくられた

西岡力 / 2024.09.24 (火)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 9月18日、中国の深圳で日本人小学生が中国人暴漢に刺されて殺された。反日教育を政策として行って、日本人になら何をしても良いと思わせる雰囲気をつくった中国政府と、それに対して反論せずに謝罪を繰り返してきた日本政府への怒りを禁じ得ない。

 ●共産党独裁の正当化に利用
 事件の背景には中国人の間に拡散している反日感情、より具体的に言うと対日復讐感情がある。そして、その感情は歴史的事実の反映ではなく、中国共産党が鄧小平時代に自分たちの全体主義統治を正当化するために人工的につくり出したものだ。
 戦前の記憶が中国人の反日感情を生み出したとするなら、その悪感情は戦後すぐの時点が一番強く、時がたつにつれて次第に弱まってくるはずだ。しかし、毛沢東時代、反日感情は出てこなかった。当時、北京で大学に通っていた評論家の石平氏によると、寄宿舎で一緒に生活した南京出身学生は日本軍による「南京虐殺」について全く知らなかった。当時はマルクス主義の階級論に立って、敵は全世界の資本家、地主であり、日本人であっても労働者、農民は連帯の対象だった。
 中国政府は1972年の日中国交正常化後も、80年代までは歴史問題を外交に持ち込むことはなかった。鄧小平氏が「社会主義市場経済」なる理屈をこねて階級論を捨て、日本からの大規模な経済協力を受け入れる時、日本は中国に対して犯した悪業を償うべきだという反日民族主義を持ち出した。
 「南京虐殺」記念館は鄧小平時代の1985年に造られた。日本の首相の靖国神社参拝についても、1979年に「A級戦犯」の合祀が公になってから朝日新聞などが反日外交をけしかける1985年7月までの6年間、大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘の各首相が計21回参拝しても、中国は全く抗議しなかった。
 1989年に天安門事件が起きるや、中国共産党は独裁統治の正統性を日本軍国主義と戦ったことに求めるいわゆる「愛国教育」を国策として大々的に展開した。1994年8月には「愛国主義教育実施綱要」を発表し、学校教育分野だけでなく、映画やテレビ、記念建造物や博物館など社会全体で反日政治宣伝を行うことを定めた。

 ●日本政府は反論せよ
 鄧小平氏死後の1998年8月には、共産党トップの江沢民氏が大使など外交当局者を集めた会議で「日本に対しては、台湾問題をとことん言い続けるとともに、歴史問題を終始強調し、しかも永遠に言い続けなくてはならない」と指示を出した。
 ところが、日本政府は中国に繰り返し謝罪し、大規模な経済協力を実施し、中国の内政干渉的な「歴史外交」に反論も抗議も一切してこなかった。現在も外務省ホームページでは南京事件について「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」とだけ書いて、中国が主張する数十万虐殺は事実ではないという反論をしていない。
 本研究所はすでに令和3年11月「歴史認識に関する国際広報体制を強化せよ」という政策提言で詳しく論じたが、いまこそ官民挙げて中国に対して歴史認識にまで踏み込んだ反論をすべきだ。(了)