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湯浅博

【第1183回】中国の反日教育は第3の児童襲撃を生む

湯浅博 / 2024.09.24 (火)


国基研企画委員兼研究員 湯浅博

 

 中国広東省深圳市で日本人学校に通う男子児童(10)が中国人の男に刺殺された事件に、深い悲しみが広がっている。そして、都合の悪い事実から目をそらす中国当局の隠蔽体質と、徹底した抗議と再発防止に動こうとしない日本政府に対する憤りが収まらない。つい6月にも、江蘇省蘇州市で日本人母子への切り付け事件があったばかりではないか。二つの事件が日本人を標的にしたのであれば、在留邦人の警備強化だけでは根本的な解決につながらない。

 ●政府は「不要不急の渡航中止」を勧告せよ
 中国当局は今回も、前回同様に犯行の動機を明らかにしていない。それどころか、中国外務省は記者会見で「同種の事件はどこの国でも起こり得る」などと、人の命を軽視する。日本人児童が続けざまに殺傷される国など、中国以外のどこにもない。襲撃の動機を解明し、その根を絶たなければ、第3の事件が起こりかねない。
 中国当局が動機を隠すのは、それが「愛国」を装った「反日」であるからか。深圳の事件が満州事変の発端となった柳条湖事件と同じ9月18日に起きたことから、亡くなった児童は反日教育の犠牲になった可能性がある。中国は1989年の天安門事件以降、権威を失った共産主義イデオロギーに代わって、愛国教育で求心力を保ってきた。それが人々に日本への憎しみを植え付けてきた。
 それにもかかわらず、中国外務省報道官が素知らぬ顔で、事件は「中日間の往来や協力に影響を与えない」とコメントしている。経済低迷による「外国資本の中国離れ」に、これ以上拍車がかかることを恐れているからだ。深圳にはトヨタや富士通などが進出し、日本企業の撤退でも始まれば、他の外国資本へ連鎖しかねない。
 岸田文雄首相や上川陽子外相は「再発防止を求める」など抽象的なことを言っている場合ではない。中国共産党が反日ナショナリズムの宣伝教育を改めないなら、日本は素早く自衛手段を講じるべきだ。外務省が出している海外渡航・滞在の「危険情報」は、中国を現在の対象外から、直ちに「レベル2」に引き上げて不要不急の渡航中止を呼びかけよ。場合によっては、日系企業の駐在員や家族の帰国を促し、日本の決意を明示的に中国側に知らしめなければならない。その際に政府は、帰国後の住居や教育などを支援すべきだ。

 ●米欧の進出企業とも連携を
 中国では他にも、外国人が襲われる事件が立て続けに起きている。やはり6月に吉林省吉林市で、米コーネル・カレッジから市内の大学に派遣された教員4人が刃物で刺される事件も起きている。中国政府はこの時も「偶発的な事件」と強調するばかりで、詳しい説明は避けた。
 中国では経済不況の長期化から雇用や所得環境が悪化しており、社会不安が懸念される。その不満のはけ口が外国人に向かいやすいのだ。今回の事件を契機に、日本は米欧の中国進出企業にも呼び掛け、協力して犯罪の根を絶つよう中国に求める必要がある。これ以上の悲劇を繰り返さないために、日本政府は目に見える行動を起こす時なのだ。(了)