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2021.11.29 (月) 印刷する

【政策提言】歴史認識に関する国際広報体制を強化せよ

令和3年11月29日
公益財団法人 国家基本問題研究所
歴史問題国際広報研究会

政策提言

歴史認識に関する国際広報体制を強化せよ

  1. 首相官邸の副長官補室で展開してきた「事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報」を継続強化せよ。
  2. 歴史広報における官民協力体制を一層強化発展させよ。
  3. 中国にも反論せよ。「戦前の日本はジェノサイドや人道に対する罪は犯していない」という事実を歴史広報の柱にせよ。
  4. 韓国の労働者、慰安婦賠償要求は国際法違反だ。一切譲歩せず、歴史的事実に踏み込んだ国際広報を強化せよ。

事実無根の反日キャンペーンがいまだに国際社会に広がっている。韓国では戦時労働者と慰安婦への賠償を命じる国際法違反判決が相次いだ上、文在寅政権が司法の独立などという詭弁を弄して国内での解決をせず、日韓関係は最悪になった。中国も反日キャンペーンを続け、平成27年には国連教育科学文化機関(ユネスコ)が「世界の記憶(記憶遺産)」に中国政府が申請した「南京大虐殺文書」を登録してしまった。

国基研は平成28年1月に「歴史認識に関する国際広報体制を構築せよ」という提言を行った。それは不十分だが一定程度実現した。日韓中などの反日勢力が企図したユネスコ世界の記憶への慰安婦問題登録を有志グループのカウンター申請と外交努力などによって現時点まで阻止できた。令和元年になり外務省は、強制連行、性奴隷、20万人という日本の名誉を傷つけてきたウソに対して事実関係に踏み込んだ反論を外交青書とHPで本格化した。

朝鮮人戦時労働については、政府が「徴用工」でなく「旧朝鮮半島出身労働者」という用語を使うようになり、「強制連行」「強制労働」という用語は適切でないと閣議決定はしたが、韓国の官民と我が国の反日勢力が協力して展開している奴隷労働だという虚偽キャンペーンに対して、政府は事実に踏み込んだ反論をしていない。

その上、中国に関する歴史認識に関してはいまだに全く反論がなされていない。南京事件についても外務省はHPで「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」とだけ書いて、中国が主張するジェノサイドはなかったという反論をしていない。

自民党は2021年の総選挙公約で「中国による軍事力増強や一方的な現状変更の試み、人権、香港、経済を巡る諸問題、韓国による国際法違反の状態や歴史認識等を巡るいわれなき非難など、わが国の主権や名誉、国民の生命・安全・財産に関わる課題に冷静かつ毅然と対応します」(政策バンク)と書いた。岸田文雄政権と自民党はこの公約を着実に実行する責任がある。その観点から、上記提言を行う。
 

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【政策提言】 歴史認識に関する国際広報体制を強化せよ

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解 説

前回の政策提言

国基研は2本の意見広告〈「河野談話」の検証はまだ終わっていません〉(平成26年7月19日)〈「慰安婦」国際中傷を跳ね返せ〉(同年9月21日)を出した上で、平成28年1月21日に「政策提言・歴史認識に関する国際広報体制を構築せよ」を発表して、以下の3つの提言を行った。

  1. 政府は、「事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報」を担当する専門部署を外務省とは独立した形で設置し、わが国の立場を正当に打ち出す国際広報を継続して行う。
  2. 国会は、事実無根の反日キャンペーンへの反論を政府の任務とする仮称「わが国の名誉を守るための特別法」を制定する。
  3. この間、国際的反論を行ってきた民間専門家がより一層、活発に活動できるように、国際広報における官民協力体制を築く。

内閣官房副長官補(外政担当)室が歴史戦を担当

1と3はある程度実現したが、2は実現していない。

1はほぼ実現した。第2次安倍政権の下、内閣官房にある、外政担当の副長官補室が「他国との摩擦など省庁横断の案件」として歴史問題を担当した。また歴史問題担当の首相補佐官を置き、政治の立場から歴史問題を統括した。

兼原前副長官補はこう証言している。

外政担当副長官補の仕事になった歴史戦については、教科書を担当する文部科学省、旧軍兵士の遺骨問題を担当している厚生労働省、中国や韓国の歴史戦に関するプロパガンダに対処している外務省と複数の官庁がからむので、外政担当の副長官補室チームで取りまとめの調整を行っている。戦後70年を記念して発出された安倍総理談話策定のための有識者会合を差配したのも、外政室である。慰安婦問題に関する河野官房長官談話策定過程の再検証をしたのも、外政室である。
兼原信克『安全保障戦略 (Japanese Edition) 』Kindle No.2153-2163

ここで兼原氏が「外政担当副長官補の仕事になった歴史戦」と書いている点に注目したい。つまり、第2次安倍政権になって歴史戦が内閣官房の副長官室の仕事になったのだ。日本経済新聞平成29年8月17日は「内閣官房の研究」という連載記事でそのメリットについて次のように書いている。

中韓との摩擦への対応は本来、外務省の担当部局の仕事だ。だが外務省幹部は「担当者は目の前の相手との協調を優先しがちだ」と明かす。摩擦対処の役割を副長官室に移したことで、主張すべきことはしながら良い関係を築く外交はしやすくなった。

前回の提言の1〈「事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報」を担当する専門部署を外務省とは独立した形で設置〉は実現したといえる。
 

民間との協力も一定程度実現

また、前回の提言の3〈この間、国際的反論を行ってきた民間専門家がより一層、活発に活動できるように、国際広報における官民協力体制を築く〉もある程度実現した。

特に慰安婦問題などでは次のような激しい動きがあり、その中で官民協力体制が進展した。

米国で在米韓国人、中国人の反日団体により各地に慰安婦像や碑が造られている。それに対して、2014年に在米日本人有志がグレンデール市慰安婦像撤去を求める訴訟を起こした。産経新聞がその動きを大きく報じたことなどにより日本でもその動きを支援する活動が活発化した。残念ながら、裁判は敗訴して慰安婦像撤去は実現していないが、2017年2月、政府が米国連邦最高裁判所に有志らの主張をサポートする意見書を提出した。

また、国連でも慰安婦問題を巡り激しい攻防が続いている。日韓の反日勢力は1992年から「慰安婦性奴隷」説を国連の人権委員会に持ち込み、クマラスワミ報告(1996年)とマクドゥーガル報告(1998年)にそれが明記されてしまった。それに対して、2010年代に入って我が国の真実を追求する民間勢力が国連への働きかけをはじめた。2015年に国連女子差別撤廃委員会で山本優美子氏、杉田水脈氏らが慰安婦強制連行は事実でないとスピーチをし、それを受けて同委員会が日本政府にその点を質問した。政府は2016年2月、国連女子差別撤廃委員会で杉山晋輔審議官が慰安婦問題で「強制連行、性奴隷、20万人」に明確に反論した。

2015年国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界の記憶に「南京事件」資料が登録されてしまい、2016年に日韓中などの反日団体が慰安婦文書の登録申請をした。それに危機感を抱いた政府は民間の学者らのアドヴァイスを受けつつユネスコへの精力的な働きかけを行う中、山本優美子氏らのグループがカウンター申請を行った。それらの結果、2017年に慰安婦文書登録が保留(現在まで)され記憶遺産の制度改革が実現した。
 

副長官補室の歴史担当を制度化せよ

ただし、先に見た副長官補室による歴史広報は、安倍晋三首相の指示で始まり、菅首相もそれを引き継いだことによって継続された側面がある。言い換えると、時の首相の政策判断によって行われており制度化はされていない。前回の提言の2〈事実無根の反日キャンペーンへの反論を政府の任務とする仮称「わが国の名誉を守るための特別法」の制定〉も実現していない。したがって、岸田新政権になりこの体制が継続強化されるかどうかは未知数だ。その認識に立って、新提言の1と2で私たちはこう主張する。

  1. 首相官邸の副長官補室で展開されてきた「事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報」を継続強化せよ。
  2. 歴史広報における官民協力体制を一層強化発展させよ。

中国との歴史戦に踏み込め

南京事件文書がユネスコ世界の記憶に登録されてしまったことに象徴されるように、中国の仕掛ける歴史戦への官民の対応が著しく脆弱だ。南京事件について外務省はHPで民間人殺害を認めて被害者数は不明と書くのみで中国政府が世界に拡散する大虐殺説への反論を一切していない。

中国政府は最近、歴史問題を外交に持ち出すことに抑制的だった。しかし、国際社会が中国の人権侵害をジェノサイドとして批判している中、戦前の日本軍が中国人に対してジェノサイドを行ったとするキャンペーンを展開してくる可能性は十分ある。すでに中国外務省の華春瑩報道局長は2021年3月25日、我が国政府が新疆ウイグル自治区の人権侵害に「深刻な懸念」を表明したことについて、「日本は慰安婦問題という人道上の犯罪で言葉を濁している。彼らは人権を尊重していると言えるのか」「日本の侵略戦争で3500万人を超える中国人が死傷し、南京大虐殺で30万人以上が犠牲になった」と中国側の主張を改めて展開している。同年9月18日に新華社が「『慰安婦』強制連行の極悪非道の犯罪行為を『水に流す』ことは許されない」という論評で慰安婦の数を「70万余りに上る」と書いた。10月には中国政府がSONYに盧溝橋事件の日に新製品発表会をすると広告で発表したことを「国家の尊厳や利益を損なった」として罰金を科する事件が起きた。

2021年8月から、ロシアのプーチン政権は旧関東軍が対ソ細菌戦を準備していたとする反日歴史キャンペーンを展開したが、日本政府はそれに対して全く反論をしていない(産経新聞2021年9月14日)。

ベルリン市に設置された慰安婦像をめぐるドイツ内の議論で、同じ戦犯国家としてドイツはナチスの蛮行を認めて謝罪したが、日本はそれが中途半端だというたぐいの言説が出ている。
 

日本はジェノサイドを行っていない

戦中の日本軍の行為にはジェノサイド、人道に対する罪などとする事実に反する誹謗中傷が今後、高まることが想定される。

しかし、連合国が戦後行った遡及立法に基づく戦犯裁判でも、ドイツには人道に対する罪を適用したが、日本に対してはそれを適用できず平和に対する罪なるものを適用しただけだ。そのことを歴史広報の主軸に据えるべきだ。日本軍には個別に戦時国際法に違反する逸脱行為はあったが、組織的な民間人虐待、虐殺は行っていない。日本は人道に対する罪、ジェノサイドを行ったことはなく、慰安婦も南京事件も一部の反日勢力が主張するような人道に対する罪、ジェノサイドではないという主張を官民が協力して国際社会に広めていかなければならない。

その認識に立って、新提言3で私たちはこう主張する。

  1. 中国にも反論せよ。歴史広報の柱として「戦前の日本はジェノサイドや人道に対する罪は犯していない」という事実をすえよ。

国際法違反の韓国判決に譲歩せず、歴史広報を強化せよ

文在寅政権下の韓国で、朝鮮人戦時労働者問題で日本企業に賠償支払いを命じ、慰安婦問題で日本政府に賠償支払いを命じる国際法違反の判決が相次いで下された。それに対して政府は1965年の条約と協定、そして2015年の慰安婦合意でこれらの問題は外交的に解決済みであるとして、韓国政府に国際法違反状態の解消を求め続けている。

一方、日韓の一部には日本企業や日本政府の出資を前提にした解決案なるものが提案され続けている。我が国はこれまで「これが最後」という韓国の約束を信じて、繰り返し謝罪し人道的立場で支援を行ってきたが、韓国は約束を破り続けてきた。したがって、現在一切の譲歩をせず韓国内での解決を求める政府の姿勢は正しい。そこからぶれてはならない。

そもそも、条約で解決した歴史問題が外交や司法に持ち込まれたのは、日本発の3つのプロパガンダ(①慰安婦強制連行、②政治労働者強制連行、③日本統治不法論)が韓国と国際社会に広まってしまったことが背景にある。我が国政府が謝罪ばかり繰り返し、これら3つのウソを否定する事実に基づく国際広報をほとんどしてこなかったことが事態を悪化させた。ただし、慰安婦に関して2019年頃から外務省ホームページなどで本格的反論を開始したことと、戦時労働者について2001年4月に「強制連行」「強制労働」という語を使うことを不適切とする閣議決定をしたことは評価できる。また、韓国ではこれらのウソに対して公然と反論する動きがここ数年、顕在化してきた。その担い手から、日本政府に対して国際広報をもっとせよという声が届いている。

その認識に立って、新提言4で私たちはこう主張する。

  1. 韓国の労働者、慰安婦賠償要求には国際法違反だとして一切譲歩せず、歴史的事実に踏み込んだ国際広報を強化せよ。


 

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