公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第1106回】台湾総統選から日本が学ぶ教訓

太田文雄 / 2024.01.15 (月)


国基研評議員兼企画委員・元防衛庁情報本部長 太田文雄

 

 1月13日に実施された台湾総統選の選挙戦で、中国は結果が自国に有利になるよう台湾に様々な手段で影響力の行使を試みた。その教訓は日本への教訓でもある。それを二つ挙げるとすれば、一つは「アメとムチに対する強靭性」を培うことであり、もう一つは「偽情報による認知戦への対策」を講じることである。

 ●中国のアメとムチ
 「アメ」に関しては、台湾の町内会長を中国に有利な条件で招待して、中国に融和的な国民党に投票するように仕向けたり、台湾産農水産物の禁輸解除を国民党支持者だけに行ったりしてきた。
 「ムチ」に関しては、1月9日のように台湾上空を通過する形で衛星を打ち上げたり、無人機を台湾近くに頻繁に飛来させたり、バルーン(気球)を台湾上空に飛ばしたりする心理的圧力作戦を昨年来続けてきた。
 中国のそうした露骨な介入は、日本に対しては行わないと考えている人達もいるようだが、自民党と連立政権を組む公明党への影響力行使は事例がある。昨年末に山口那津男公明党代表が訪中した直後、公明党はそれまで実務レベルで了承していた日英伊3カ国共同開発の次期戦闘機の第三国への輸出について、反対に転じた。
 また、沖縄県など地方自治体の選挙への介入も、将来行われる可能性が高い。2年後の沖縄県知事選の直前に、中国が沖縄に向けて無人機やバルーンを飛ばしたり、衛星を打ち上げたりしたら、対中融和策を主張する候補者に有利に働くだろう。

 ●偽情報への対策
 一方、我が国でも中国の官製偽情報流布が過去にあった。2012年9月17日、中国共産党機関紙人民日報系の国際情報紙、環球時報は「2006年3月4日に沖縄で住民投票が行われ、75%が日本からの独立を求めた。残りの25%は日本への帰属を求めたものの、自治を要求した」と報じたが、2006年3月4日に沖縄で住民投票が実施された事実はない。この偽情報に日本人は騙されないかもしれないが、環球時報は5カ国語に翻訳されているので、何も知らない外国人は沖縄県民の75%が日本からの独立を要求していると誤解してしまう。
 2016年12月、中国国防省は「航空自衛隊のF15が中国軍機にデコイ・フレア(おとりの小型火炎弾)を撃った」と主張し、「こうした行動は中国機と乗組員の安全を危険にさらし、危険かつプロらしくない」と非難した。しかし、中国が証拠として示した写真のF15機は、当日飛行任務に就いていなかった。
 こうした偽情報に接したら、公的機関が時機を失することなく、それを打ち消して真実を世界に発信するメカニズムを構築しておく必要がある。(了)
 
 

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13日は台湾総統選挙。わが国への教訓は、中国の飴と鞭を知ること。飴は国民党融和派への優遇措置、鞭は軍事的威圧。日本にも政治的に飴をちらつかせ、鞭として偽情報を垂れ流す。中国の影響力行使作戦には即座に対応すべきです。