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有元隆志

【第1105回】頼氏当選歓迎も求められる「戦う覚悟」

有元隆志 / 2024.01.15 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 13日投開票の台湾総統選で、親米・親日派で中国とは距離を置く民主進歩党の頼清徳氏が当選したことは喜ばしい。米政府高官が「今後10年間は軍事的にも経済的にも強大な中国と対峙しなければならない」との危機感を示す中で、価値観を共有する人物が台湾を率いることは日米にとっても大きな意味を持つ。

 ●存在しない公式対話の枠組み
 日本政府は上川陽子外相名で談話を発表し、頼氏当選に祝意を表した上で、「日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく」とした。ただ、日台間には外交関係がなく、政府間の公式対話の枠組みがない。
 頼氏は台南市長時代、金沢、熊本、仙台など日本各地を訪れ交流を重ねた。副総統時代の2022年7月には、暗殺された安倍晋三元首相の葬儀に「友人」の立場で参列した。頼氏の訪日受け入れを決めた岸田文雄政権の対応は適切だったが、当時の林芳正外相(現官房長官)は記者会見で頼氏訪日について聞かれると、頼氏の名前にすら言及するのを控え、「ご指摘のあった人物」としか言わなかった。中国政府が公式に「友好団体」と認める7団体の一つである超党派の「日中友好議員連盟」の会長を外相就任直前まで務めていた林氏だけに、中国側が機嫌を損ねるのを恐れた、と批判を浴びた。
 林氏がいくら中国に配慮しても、中国は軍用機を頻繁に台湾海峡に飛来させるなど、台湾への軍事的圧力を強めている。日本としても台湾有事が起きた場合、台湾からの邦人退避、避難民の受け入れをいかに進めるか検討することは喫緊の課題となっている。

 ●日台軍事交流から始めよ
 昨年8月、台湾を訪問した麻生太郎自民党副総裁は台北市で開かれた国際フォーラムで講演し、安倍元首相が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言したのを念頭に、日本や台湾、米国などが「戦う覚悟」を持つことが地域の抑止力になると強調した。
 今月上旬に訪米した麻生氏は10日、ワシントンで記者団に対し「(台湾有事は)日本の存立危機事態だと日本政府が判断をする可能性が極めて高い」と述べ、中国が台湾を侵攻した場合、日本政府が集団的自衛権を発動する可能性が高いとの認識を示した。
 麻生氏の認識はその通りであるが、肝心の日本政府が台湾との対話に尻込みしていたのでは「戦う覚悟」などとうてい持つことはできない。台湾軍と自衛隊の交流を手始めに有事を想定した台湾との連携を強化し、中国に対する抑止力を高めるべきである。(了)