公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

髙池勝彦

【第1107回】自衛官の靖国参拝を制限するな

髙池勝彦 / 2024.01.15 (月)


国基研副理事長・弁護士 髙池勝彦

 

 1月9日、陸上幕僚副長ら自衛官数十人が靖国神社を参拝した。多くのマスコミや共産党はじめ左翼政党はこの参拝を、昭和49年11月19日の防衛事務次官通達に違反する可能性があり、憲法20条及び89条の政教分離の規定に違反するのではないかと批判してゐる。
 次官通達には、「神祠、仏堂、その他宗教上の礼拝所に対して部隊参拝すること及び隊員に参加を強制することは厳に慎むべきである」とある。この規定は、国の伝統、習俗、他国との比較を無視し、靖国参拝を頭から否定しようとする議論であり、自衛隊違憲論と同様に、敗戦後遺症とでもいふべきものである。

 ●撤廃されるべき次官通達
 そもそも政教分離規定は、国家は宗教とどんな関はりも持つてはならないとする厳格分離説に立つべきではなく、特定の宗教を国教としないことなどを定めたものだと解釈するべきなのである。
 自衛官は国を守るために場合によつては命を投げ出す存在であり、一方靖国神社は国のために戦つて亡くなつた兵士を祀つた施設である。自衛官が靖国神社を参拝するのは当然である。したがつて上記次官通達は撤廃されなければならない。
 のみならず、この次官通達は時代遅れで、最高裁判決にも合致してゐない。
 左翼は、地鎮祭の実施、神社への玉串料の公金支出、首相の靖国参拝、その他村祭りに至るまで政教分離違反を理由に多くの訴訟を起こしてきた。中には憲法違反を認めた下級審判決もあるが、最終的に最高裁は、津地鎮祭事件の大法廷判決(昭和52年7月13日)で、その行為の目的が宗教的意義を持ち、かつ、その行為の効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるやうな行為でなければ憲法違反ではないとする、いはゆる目的効果説を打ち出して、政教分離についての混乱した訴訟に最終的な決着をつけようとしたのである。
 上記次官通達は、この最高裁判決よりも前のもので、この判決が出た時点で撤廃されなければならなかった。

 ●参拝のどこが悪いのか
 政教分離に関する目的効果説はその後、愛媛玉串料事件の大法廷判決(平成9年4月2日)で、若干後退した印象がある。判決は目的効果説に立ちながら、愛媛県の職員が靖国神社に公費で数万円を支出したのは憲法違反であると判断した。しかし、目的効果説を否定したわけではない。
 この判決には三好達最高裁長官と可部恒雄裁判官の反対意見があり、とくに可部裁判官の長文の反対意見は特筆に値する。可部意見は、多数意見を「論理に従って、その文脈を辿ることは著しく困難で」あり、数万円の奉納行為は「社会的儀礼としての側面を有することは到底否定し難く、そのため右行為の持つ宗教的意義はかなりの程度に減殺されているといわざるを得ず、援助、助長、促進に至っては、およそその実態を欠き、(多数意見は)徒らに国家神道の影に怯えるもの」であると切り捨ててゐる。
 今回の自衛官の靖国参拝は非難すべきことではない。(了)
 
 

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第500回 靖国参拝批判について

現役自衛官が靖国神社に公用車を使って参拝したことが報道され問題化しました。次官通達に違反したといわれます。そもそも政教分離の憲法解釈は間違いだと思います。加えて最高裁でも取り上げる目的効果基準によれば、英霊を祀る施設に自衛官が行くことは何ら問題とはならないはずです。