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国基研ろんだん

2023.10.16 (月) 印刷する

イスラエルを見て我が国を正せ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

イスラム武装組織ハマスの攻撃に対するイスラエルの対応を海外メディアで見るにつけ、我が国に欠落している重要な幾つかの点を感じる。

それは戦っているイスラエル兵士の為の献血に何時間も待って祖国のために貢献しようとする一般市民の姿であり、海外に長年住み続けているユダヤ人が家族を現地に残して予備役の招集に積極的に応ずる姿である。

日本では「戦争になったら逃げろ」と説く人物が保守系テレビ番組のレギュラーコメンテーターである。この人物はロシアのウクライナ侵略に関しても「停戦へ今こそ政治の出番」と何度も言うが、当事国は政治(外交)で解決がつかないから戦っているのではないか。

昨年末に閣議決定された国家安全保障戦略には「我が国と郷土を愛する心を養う」という一節はあっても「国防の意思」を育むことにまで踏み込んでいない。ウクライナ戦争でも証明されたように、国家防衛の基盤は国民の強固な意志である。

日本の予備役は十分か

今回のハマスによる攻撃への反撃で、イスラエルは約30万人の予備役の招集をかけた。イスラエルと比較して人口も国土もはるかに大きい日本の予備自衛官数は5万に満たない。その大半は陸上自衛官で、海上自衛官は1万強、航空自衛官に至っては1万に満たない。1回戦ったら後が続かない線香花火のようなお寒い状況である。

昨年末に閣議決定された「戦略3文書」のうちの国家防衛戦略には「常備自衛官の補完等に当たる予備自衛官等については、サイバー領域を含め、採用を大幅に増やすべく、その制度の見直しや体制強化に取り組む」とあり、防衛力整備計画にも「予備自衛官等に係る制度を抜本的に見直し、体制強化を図る」とある。

こうした構想が、単なる役人の作文にとどまることなく早急に具現化することを望みたい。

中東有事は極東有事に繋がる

1958年7月のレバノン危機で、米英軍がレバノンとヨルダンに展開した。すると翌月、中国は台湾・金門島の守備隊を砲撃し、第2次台湾海峡危機が始まった。

ウクライナに加えて中東でも戦火が広がり、米軍が地中海に空母2隻を派遣するに至り、東アジアで版図の拡大を狙っている中国や北朝鮮が、侵攻の絶好の機会と捉えても不思議はない。

10月11日の米紙ワシントン・タイムズは「イスラエル・ガザ戦争への集中は中国の台湾攻撃の恐れを高める(Focus on Israel-Gaza war raises fears of China attack on Taiwan)」との記事を掲載した。日本では、ウクライナや中東危機を他人事のように捉えて、自国の防衛に対する備えを向上させようという論調がメディアに余り見られないのは残念だ。(了)
 
 

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第454回 イスラエルを見て我が身を正せ

イスラエルでは、自国のために兵役に志願するため外国から急遽帰国する若者の多さ、献血の列の長さ。わが国とは比較できない様子が見える。かつて1958年の第2次台湾海峡危機は中東で戦火が起こった後に生起。中東の異変をわがこととして捉えよう。

太田文雄 国基研企画委員兼研究員