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2023.07.10 (月) 印刷する

キューバの中国盗聴基地が日本を脅かす 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

米国で先月、中国が米フロリダ州の目と鼻の先のキューバに盗聴基地を設置していることが報じられた。この報道は日本にも伝えられたが、日本の安全保障にどのような影響があるのかについては論じられていない。筆者は五つくらいあると思う。

米戦略原潜の情報収集

中国や北朝鮮が戦術核や戦域核で日本を攻撃した場合、米国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機で報復することは、エスカレーション・ラダー(エスカレーションのはしご)を上っていくことになり、選択肢として現実的ではない。可能性が高いのは、数は限られるが弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)搭載の低出力核による報復であり、それが中国や北朝鮮あるいはロシアへの抑止力となっている。

米国のSSBN基地は東岸と西岸に一カ所ずつあり、その運用方法は基本的に同じである。筆者は1990年代末の在米日本大使館勤務時代の武官団旅行で、フロリダ州の北にあるジョージア州南東端のキングズベイ海軍基地でSSBNに乗艦したことがある。

「SSBNはどの海域でパトロールしているのか」と聞いても答えてくれないことが分かっていたので「パトロール中に盲腸患者が出たらどうするのか」と聞いた。艦長の「陸地から小型ボートを派遣してもらう」という回答を聞いて、パトロール海域は陸地からあまり離れていないことが分かった。搭載しているミサイルの射程が長いことからも、遊弋する海域は米国の沿岸で十分なのだ。

潜水艦の通信は、超長波(VLF)か通信衛星を介するマイクロ波に限られる。電波探知は、発信源の方向は分かるが距離は分からない。しかしキューバは東西に長い島なので、東端と西端に探知装置を配置すれば、探知方向の交差点から発信源の位置が特定できる。

武官団旅行には中国の海軍武官も加わっていた。後にキーティング米太平洋軍司令官(当時)に米中両国による太平洋分割案を持ちかけた楊毅(ヤンイー)元海軍少将(武官当時は上級大佐)である。武官団旅行では、SSBNの指揮系統や運用方法について質問を連発していた。このことからも、中国軍指導部が米SSBNの運用に関して多くの情報収集を駐在武官に要求していたことがうかがえる。

キングズベイ海軍潜水艦基地に招かれた駐在武官団。中央が筆者、その左が中国の楊毅海軍上級大佐

台湾有事で投入される米軍の運用察知

第二にフロリダ州タンパには特殊作戦軍司令部がある。台湾有事で投入される可能性が高い特殊作戦部隊の一部は、沖縄のトリイ基地にも展開しており、この作戦・運用が盗聴される可能性がある。

第三にノースカロライナ州にあるフォート・リバティーには、台湾が海上封鎖された時に投入される可能性が高い空挺部隊の主力が存在する。

第四に海軍関係では、フロリダ州には海軍最初の航空訓練基地で、「海軍航空のゆりかご」と呼ばれるペンサコーラ航空基地と、メイポート艦艇基地がある。後者はサウスカロライナ州のチャールストン海軍基地の閉鎖後、その従業員を吸収して、現在サンディエゴ、ノーフォークに次ぐ第三の規模の軍港となっている。

最後に、フロリダ州タンパには中東を担当領域に含む米中央軍司令部も存在する。中国がイランとサウジアラビアの外交関係正常化を仲介したといっても、中東における米国の軍事的プレゼンスは圧倒的であり、バーレーンには米第5艦隊の司令部が存在するし、カタールのアル・ウデイドには巨大な米空軍基地がある。中国としては中東における米海空軍の動きを知りたいところであろう。

イラク復興支援で自衛隊がイラクに展開していた時、中央軍司令部には自衛隊から連絡官が複数派遣されており、筆者も情報本部長時代に訪問した。現在もソマリア沖のアデン湾には、海上自衛隊の艦艇と航空機が海賊対処を主任務とする多国籍の第151合同任務部隊(CTF151)の一員として展開しており、そのCTF151の実務は第5艦隊が担っている。(了)
 
 

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