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2008.03.25 (火)

【提言】 参政権行使は国籍取得が条件-特別永住者には特例帰化制度導入を

平成20年3月25日
国家基本問題研究所
外国人参政権問題小委員会

参政権行使は国籍取得が条件
特別永住者には特例帰化制度導入を

 
 永住外国人の地方参政権を求める動きが再び活発化してきた。この問題で日韓関係が緊張することは不幸である。私たちは、日本の国家としてのあり方を譲ることなく、在日コリアンをはじめとする在日外国人と日本とのより良き関係を願い、ここに緊急提言を行う。

【提言】
1.国政選挙、地方選挙を問わず、参政権行使は日本国籍者に限定されるべきである。
2.昭和20年以前より引き続き日本に在留する者とその子孫である特別永住者への配慮は、外国人地方参政権を認めることではなく、特例帰化制度導入でなされるべきである。

 
 
【基本的視点】
・ 地方選挙の争点には米軍基地問題など国家の将来に大きな影響を及ぼすものが含まれる。北朝鮮金正日政権や中国共産党の介入は許されない。
・ 最高裁も「地方公共団体が日本の統治機構の不可分の要素をなす」とし外国人地方参政権を否定している。
・ 韓国、EU諸国などの永住者への参政権付与は、日本と状況が大きく異なり、同一基準で議論できない。
・ 歴史的経緯を踏まえ、昭和20年以前から在留する在日コリアンに対して特別な法的地位(特別永住)が与えられている。社会保障の内外人平等も実現している。
・ 地方参政権要求の背景には、在日コリアンの外国人意識の希薄化がある。
・ 帰化をしてコリア系日本人として参政権を行使する道が自然であり、日本社会の多様化を進展させることにもつながる。
・ 現行の帰化制度は、特別永住者に一般外国人と同じ煩雑な手続きを求めている。
 
 日本の地方選挙では、米軍基地問題や原子力発電所建設問題などに代表されるように国家政策の根幹に関わる問題がしばしば争点となる。将来日本に深刻な影響を及ぼしかねないそのような選択については、日本国籍を持つ者が責任を持ってなさなければならない。
 日本に在留する外国人は平成18年末現在で208万人であり、そのうち永住者は84万人(特別永住者44万人、一般永住者40万人)である。特別永住者の中には、「(北朝鮮の)チュチェ思想を指導的指針としてすべての活動を繰り広げている〈( )内引用者補、以下同〉。」(朝鮮総連ホームページ)朝鮮総連の加盟者が含まれる。一般永住者の中には中国共産党の影響下にある中国人も少なからず存在する。領土問題や米軍基地問題など日本の主権と安全保障に直結する選択について、金正日政権や中国共産党の直接、間接の介入を許すことは、東アジアの平和と安定、日米同盟や日韓友好関係を損なう危険性が高い(特別永住者の99%は韓国籍と朝鮮籍だ。日本政府は韓国籍が過半数を超えた70年代初めより韓国籍、朝鮮籍別の統計を公表しなくなった。現在の朝鮮籍は5万人以下と私たちは推計しているが、情報公開を強く求めたい。また、一般永住者の中に中国人が12万人いる)。
 永住外国人への地方参政権付与問題が浮上したのは、平成7年の最高裁判決の中で「地方自治体の選挙に関して、外国人のうち永住者などに選挙権を与えることは現行憲法で禁じられていない」と述べられたことが契機となっている。しかし、その記述は拘束力を持たない傍論に過ぎない。判例として残る同判決本文は「地方公共団体が日本の統治機構の不可分の要素をなすものであることも併せ考えると、憲法93条2項にいう(地方選挙権を持つ)『住民』とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当」として、外国人の地方参政権要求を明確に退けている。
 韓国が平成17年に永住外国人への地方参政権を付与したことから、「互恵主義に基づき日本も韓国籍永住者へ同じ措置をとるべきだ」という議論がある。しかし、

① 韓国で永住が認められるのは主として韓国人の配偶者やその子弟であり、日本とは実情が根本的に異なる。
② 在韓日本人永住者は55人(外務省「平成15年の海外在留邦人数調査統計」)であるのに対し、在日韓国人特別永住者は約40万人であり、互恵主義が成立する条件が欠如している。

 推進派がよく例に出すのが、約40カ国が外国人参政権を認めているという点だ。しかし、世界190余カ国のなかで認めている国は4分の1以下であり、必ずしもそれは世界の趨勢ではない。認めている国は、

① 条約で加盟国相互に地方参政権を認めることが義務づけられている欧州連合(EU)諸国
② 長期間外国人労働者を誘引する政策をとってきた北欧諸国
③ 在留英連邦国民に国政・地方参政権を与える英国(英連邦は英国王を元首とする旧植民地国との緩やかな国家連合)

などだ。日本はEUのような連合体に加わっていないし、外国人労働者の受け入れを進める政策をとったこともないし、旧植民地国との特殊な関係もない。したがって、同一基準での議論はできない。
 在日コリアン特別永住者は、かつて「日本国民」として「内地」に移住し、戦後、自らの意思で日本にとどまった人たちとその子孫だ。昭和20年に約200万人いた在日コリアンのうち約60万人が残留した。在日コリアンは「強制連行によって日本に連れてこられた者とその子孫」という説があるが、戦時動員され就労していた労働者は200万人のうちの16%、32万人であり、そのほとんどは戦後すぐに帰還した。
 占領軍司令部は在日コリアンを「戦勝国民」として認めず、「日本国籍を保有する者」とする一方、参政権を停止し、外国人登録を適用するという一見矛盾する政策をとった。そこには北朝鮮を支持して暴力的政治活動を展開していた団体を取り締まるなどの治安上の必要があった。
 昭和27年に日本が主権を回復した際、日本政府はサンフランシスコ講和条約によって彼らを日本国籍から離脱したとみなした。これに対して「国籍選択権を与えなかった」という批判が近年出ている。しかし、激化する冷戦の下、当時は韓国と北朝鮮の双方とも、「在日コリアンは全員自国民であり、日本国籍選択権付与は独立を認めないことだ」と強く主張していたことなどが背景にあった点にも留意すべきであろう。
 今日、3世、4世の時代を迎えている在日コリアン(と少数の台湾人)の法的地位はいくつかの変遷を経て平成3年に現在の「特別永住者」とされた。この間、おおよそ次のような待遇が一貫してとられてきた。

① 本人が希望すれば無期限で在留を認める
② 一般就労を含むどのような活動をすることも許す(一般の外国人は在留資格に認められた活動以外はできない)
③ この法的地位を子孫にも与える

 社会保障などにおいては制度的「差別」が存在した時期もあった。しかし、日本が難民条約に加入し社会保障における内外人平等を実施した昭和57年頃から、それはほぼなくなった。
 私たちは歴史的経緯をふまえ、このような特別永住制度は維持されてよいと考える。
 日本定住が長期化し世代交代が進む中、在日コリアンは外国籍を持ちながらも心理的・文化的に本国から切り離された存在となってきた。韓国外務省李在春アジア局長が「日本で生まれ、大部分が日本の教育を受け、思考方式も行動様式もまた日本社会のそれと異なることはない」(民団発行「韓国新聞」89年5月30日~6月20日掲載論文)と語っている通りだ。その結果、90年代半ばから日本国籍を取得する人が年間1万人程度となり、帰化者累計は平成18年までに30万人を超えている。日本人との結婚も急増し、90年代以降、全体の婚姻の80%以上となっている。
 一部の在日コリアン知識人や民団活動家らは「『国籍』こそ、日本へ吸収・同化から民族的アイデンティティーを守るさいごの砦」(在日歴史学者・姜在彦氏が「統一日報」95年8月15日に寄稿)などとして、外国籍のまま内国人並みの権利を獲得することを要求している。先述の最高裁判決で敗訴した原告らも、「自分たちは国籍以外日本人との違いがないから参政権を与えよ」という主張を開陳していた。このように急速に進む外国人意識の希薄化が、地方参政権要求の背景にある。
 日本で生まれ育ち本国への帰属意識を持たない大多数の在日コリアンにとって、国籍を維持することがアイデンティティーの砦になりうるのだろうか。私たちはそうした考えに反対である。鄭大均首都大学東京教授が主張するように「外国籍を持ったまま日本の参政権を行使するというのでは、国籍とアイデンティティーのズレを永続化してしまう」のであり、帰化をしてコリア系日本人として参政権を行使する道こそが自然であり、国際的常識というべきだろう。それは日本社会の多様化、国際化を進展させることにもつながる。
 現在、特別永住者は帰化する際に、一般の外国人と同じ煩雑な手続きを課されている。また、帰化の際に使用が許される漢字のリストには、例えば「崔」「姜」「尹」「趙」などコリアンの姓としてはありふれたものがいまだに入っていない。
 日本において、特別永住を認められている外国人が、帰化により日本国民としての権利を獲得し、義務と責任を果たそうと決断した場合、現行の煩雑な手続きを廃すべきだ。具体的には

① 本人確認「本国戸籍謄本」等と「外国人登録済み証明書」提出
② 帰化意思確認「帰化許可申請書」と、法律を守り善良な国民となることを誓う「宣誓書」提出

をもって日本国籍取得を認める特例制度を早急に導入する必要がある。
 その制度ができても外国籍を維持している者は、社会保障などでは従来どおり内外人平等を貫くことは当然としても、参政権については認められるべきでない。公務員任用においても「公務員に関する当然の法理として公権力の行使または公の意思形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とする」(昭和28年内閣法制局)とする政府見解を厳守しなければならない。
 
 

国家基本問題研究所・外国人参政権問題小委員会
櫻井よしこ
田久保忠衛
潮匡人
遠藤浩一
大岩雄次郎
城内実
島田洋一
高池勝彦
鄭大均
冨山泰
西岡力