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2022.12.06 (火)

【政策提言】エネルギー危機の今、原子力の最大限の活用なくして国の成長なし

令和4年12月6日
公益財団法人 国家基本問題研究所
エネルギー問題研究会

政策提言

エネルギー危機の今、
原子力の最大限の活用なくして国の成長なし

ロシアのウクライナ侵略等による世界的なエネルギー価格急騰と円安により、我が国のエネルギー調達コストが急増している。更に再エネの急増、火力発電の閉鎖、原発再稼働の遅れにより電力需給ひっ迫、停電リスクが発生すると同時に、電力料金の値上げが企業と家計を直撃している。

中国は太陽光パネル、バッテリー、風力発電設備、電気自動車の製造シェアを伸ばす一方、途上国には石炭火力を輸出し、加えてロシア産の安価な化石燃料を調達し、漁夫の利を得ている。変動性再エネの拡大は中国が支配力を有する戦略鉱物依存拡大という新たなリスクを生む。

エネルギー情勢の急変により安全性を高めた原発建設への関心が世界的に高まっているが、原発のテロ対策、軍事攻撃に対する懸念の声もある。

当研究会は二度にわたり、政策提言を行ってきた。多重的なエネルギー危機の下、我が国の国益を守り、エネルギー安全保障とグリーン成長を同時追求するためには、今こそ最大限の原発活用が必要であり、第6次エネルギー基本計画と電力自由化の抜本的見直しを行うべきである。

上記の観点から以下の緊急提言を行う。

1. エネルギー政策の基本は国益と現実主義だ
(1) 第6次エネルギー基本計画および電力自由化の抜本的な見直しが必要だ
(2) 電力需給逼迫に伴う大停電発生の危機が現実となった。原発の再稼働を急げ
(3) 原発の依存度低減の方針を見直し、より積極的に活用すべきだ
(4) 電力分野のみならず、より広範囲な非電力分野のエネルギー供給も脱炭素が必要だ
2. 再エネは不安定で高コストだ
(1) 電力の再エネ導入には物理的・経済的限界がある。
(2) 再エネ比率を増やすと国民負担が急激に増大し、国家財政を圧迫する
(3) 電力需給安定のためのシステムコストを再エネに適切に負担させるべきだ
(4) 再エネの適切な推進を図るため、事業主体の規制を強化せよ
3. 100%国産技術である原子力を成長戦略の根幹に据えよ
(1) 福島第一原発事故の教訓を基に採られた、世界一の安全対策を国民に周知せよ
(2) 国が支援して我が国の優れた原子力技術の輸出を進め、温暖化防止に貢献せよ
(3) 革新軽水炉の新増設を国が支援して早期に実現し、サプライチェーンを復活せよ
(4) 革新炉の開発を成長戦略の要とせよ
4. 原発の諸課題の解決は国が主導せよ
(1) 原子力規制委員会は規制を合理化して行政手続法を順守せよ
(2) 60年超の運転期間の延長と運転中保全を実現せよ
(3) 再処理施設の営業運転開始を急ぎ、さらに高速炉による核のゴミの焼却技術を開発せよ
(4) 国は高レベル廃棄物の地層処分地選定に、多くの自治体が参加できる環境を整備せよ
(5) テロ攻撃・軍事攻撃対する原発防護は、自衛隊やOBを活用して強化せよ

◇ ◇ ◇

1. エネルギー政策の基本は国益と現実主義だ

(1) 第6次エネルギー基本計画および電力自由化の抜本的な見直しが必要だ。

再生可能エネルギー(再エネ)の増加とその後の国際情勢の急激な変化により、我が国の産業用電力コストは主要国中最も高い。この結果、我が国の1人当たりのGDPも、実質賃金も主要先進国の中で唯一右肩下がりを続けている。高コストで気象に依存し不安定な「変動再エネ」の導入はそれに拍車をかけた。

現在、天然ガスなどの燃料高騰により、電力会社は、電力を売れば売るほど赤字が増えるという深刻な影響を受けている。この状態で、再稼働のための安全対策工事や特定重大事故 対処施設などの青天井の工事費用を負担しなければならない状況下では、自由化された電力市場において、とても新増設に踏み込めないというのが実態である。

100万kWの原発1基で、天然ガスを約100万トン(約1000億円)を節約できる。今後、安全審査を合格した原発7基が再稼働すれば、我が国のロシアからの液化天然ガス輸入量約640万トン/年に相当する。エネルギー安全保障および我が国の経済成長戦略の実現のために、第6次エネルギー基本計画も見直し、原子力も主力電源と位置付よ。

(2) 電力需給逼迫に伴う大停電発生の危機が現実となった。原発の再稼働を急げ

再エネの中核である太陽光や風力は、変動再エネと呼ばれ、時間と共に大きく変動し、天候により共に急激に出力が低下するリスクがある。今年3月上旬の電力逼迫や米国テキサス州の大停電が典型であり、リスクが顕在化した。

再エネは性質上、変動を調整するバックアップ電源が必須であり、再エネへの過度な依存はやめるべきだ。安定電源である原発の再稼働は系統を安定化する。

(3) 原発の依存度低減の方針を見直し、より積極的に活用すべきだ

歴代政権が主張していた「原子力の依存度の可能な限りの低減」の文字を削除すべきだ。この文言のために再稼働が遅れ、電力需給逼迫をもたらし、原発新増設が中止され、日本の原子力産業の衰退をもたらした。既存の原子力発電所はリニューアル工事を常に実施し、30年以降10年ごとの点検や定期安全レビューも実施している。原発を長期に活用することはエネルギー安全保障上も温暖化対策上も最も費用対効果が高い。安全性の確保を前提に、米国で実施されている80年までの、あるいはそれ以上の運転延長を可能とすべきだ。

(4) 電力分野のみならず、より広範な非電力分野のエネルギー供給も脱炭素が必要だ

2050年までのカーボンニュートラル(CN)の実現には我が国が使用する1次エネルギーの25%が電力分野で使われ、残り75%が産業や運輸、民生の非電力分野で使われている。これを脱炭素するには、再エネに加えて原子力発電の電気も水素製造や合成燃料の製造に利用する必要がある。これらにより変動再エネの送電系統への擾乱が軽減され、エネルギー蓄積が可能となる。原発は再エネに比べ費用対効果ははるかに大きいので、再エネと原発を総動員してコスト上昇を抑えてCNを達成すべきだ。
 

2. 再エネは不安定で高コストだ

(1) 電力の再エネ導入には物理的・経済的限界がある

電力の再エネ導入には地球の自転と天候の物理的・経済的壁がある。この制約のため、国土面積が狭く、周辺海域が深く、他国との送電網が無い日本は欧米に比して著しく不利である。我が国のエネルギー消費量の100%を太陽光・風力で賄うとなれば、設備利用率が低いために、本州面積の1/3を太陽光パネルが占め、日本海排他的経済水域(EEZ)のほとんどを風車が占めるということになる。第6次エネルギー基本計画はこれらの物理的限界を無視した幻想が多数みられ、識者から批判を浴びていた。

(2) 再エネ比率を増やすと国民負担が急激に増大し、国家財政を圧迫する

太陽光パネルや風力発電機の単体コストは安価になったが、電力系統に接続するシステムコスト(バックアップ電源としての火力発電所の維持、揚水発電、蓄電池、偏在再エネ電源と需要都市間連系線)を考慮した発電コストは変動再エネ20%導入でも約30%増大となり、我が国産業競争力から、再エネの導入は32%(安定再エネ12%加え)が限度。

これ以上増やすと、例えば変動再エネ50%導入(安定再エネ12%加え、62%)で発電コストは約4倍になり、国家財政は破綻する。このような愚かな政策は即刻やめることが国益に適う。

(3) 電力需給安定のためのシステムコストを再エネに適切に負担させるべきだ

再エネ事業者は電力需給安定に対する責任を負担せず、電力市場自由化と固定価格買取制度の下で、もっぱら便益のみを享受してきた。再エネを主力電源にするのであれば、再エネの電気出力変動を吸収し電力需給安定化するためのシステムコストを適切に負担させるべきだ。

(4) 再エネの適切な推進を図るため、事業主体の規制を強化せよ。

国土面積が小さい太陽光パネルの設置は既に限界に近く、森林を伐採して山の斜面に設置するメガソーラーが増え、外資(中国・韓国など)による土地の買い占めや悪質業者による景観破壊や土砂崩れなどの生活被害が生じている。

国土保全という観点でも、太陽光発電にはリスクがある。外国資本に日本の山林の土地を安く買われ、外資系の太陽光パネル設置に助成金が下りるという実態に、引き続き警鐘を鳴らすとともに、再エネの適切な推進を図るため、事業主体の規制を強化する法整備が必要である。
 

3. 100%国産技術である原子力を成長戦略の根幹に据えよ

(1) 福島第一原発事故の教訓を基に採られた、世界一の安全対策を国民に周知せよ

福島原発事故以降の安全対策の強化は他国に例を見ない。その結果、事故の発生確率は1億分の1に低下した。日本の原発こそ自然災害に対して最も強靭かつ安全な電源である。

この原子力発電所の強靭性を正当に評価すべきである。自然災害に弱い再エネの欠点を補うには、原子力発電の活用が重要である。今こそ国産技術である原子力を正当に評価する時だ。再エネ最優先政策は中国企業へ国費が流出しエネルギー安全保障上も問題である。

(2) 国が支援して我が国の優れた原子力技術の輸出を進め、温暖化防止に貢献せよ

米国バイデン政権は35年までに発電部門の温暖化ガスの排出量を実質ゼロとし、脱ロシアを推進する方針を掲げ、連邦エネルギー省(DOE)も具体的施策を推進している。脱原発のドイツやスイスを除き、欧州も全体として原子力を活用する。中国政府も独自開発の原発開発を決めた。日本はこの世界の潮流から取り残されてはならない。

最新の国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、日本で最も安価で安定した電源は原子力であるとされている。再エネ機器のほとんどは海外からの輸入であるのに対し、原子力の技術自給率は100%だ。国内産業への貢献度も大きい。原発再稼働・新増設、さらに輸出が必要だ。

(3) 革新軽水炉の新増設を国が支援し、サプライチェーンを復活せよ

再稼働審査や工事に10年を超える期間がかかっている現状では、電力需給を確保し、天然ガスなどのエネルギー資源の高騰の影響や需給逼迫の回避が必要である。低廉な電力を安定に供給して我が国の産業を強化して成長軌道に乗せるためには、まずは、安全性を高めた革新軽水炉の新増設を具体化し、建設を開始することが重要である。新増設のための国の補助・融資や、地元の理解活動、立地地域の貢献に対する大都市住民の理解増進等、財政や国民理解を得るために、国の支援措置を設けることが必要である。

(4) 革新炉の開発を成長戦略の要とせよ

原子力発電所の建設には、ネジ一本までの厳格な品質管理が必要であるが、長期間の原発発注の中断により、原子力産業を支えてきたサプライチェーンの基盤である中小企業群やメーカーの衰退が著しい。技術がかろうじて残っている今、新増設に着手すべきだ。輸出用小型モジュール炉や点検ロボットの開発が急がれる。

政府は海外への原発技術の輸出を支援すべきだ。国が原子力の活用に舵を切れば、おのずと優秀な学生が集まり、産業界も活気を取り戻す。水素製造などの広範なエネルギーや医薬品の供給源として我が国の成長戦略の要の1つとせよ。
 

4.原発の諸課題の解決と国民への安全対策の周知活動を行え

(1) 原子力規制委員会は規制を合理化して行政手続法を順守せよ

原子力規制委会の再稼働に向けた審査は申請から9年を超えるケースも出ている。これは安全性を確保しつつ、原子力を運転させるという原子力安全規制の本来の姿をから大きく逸脱したものだ。原子力を活用しなくてはならない状況下において、審査条件の明示、審査は概ね2年で終えるという行政手続き法を遵守させるために、原子力規制委の正常化・合理化が必要だ。

(2) 60年超の運転期間の延長と運転中保全を実現せよ

新規制基準に基づく安全対策工事で、格納容器の過圧破損防止対策としてフィルターベントや溶融物対策としてコリウムシールド(簡易コアキャッチャー)が設置されており、安全性も大幅に向上した最新鋭の革新型軽水炉に遜色ないレベルまでリニューアルされている。原子炉の中性子照射は炉の実照射の運転時間で劣化評価がされるのであるから、運転停止期間も科学技術的評価で考慮された形になる。また、欧米の原発の保全活動(メンテナンス)は、運転中にも行い、事故トラブルを減らして設備利用率を70%から95%台まで向上させることに成功している。我が国でも速やかに導入し、電力需給逼迫を緩和すべきだ。

(3) 再処理施設の営業運転開始を急ぎ、高速炉による核のゴミの焼却技術を開発せよ

再処理工場が営業運転に入ると生ずるプルトニウムは我が国の保有する核兵器に転用できない軽水炉由来であり、日本の宝として大いに活用すべきだ。高速炉でいわゆる核のゴミを燃焼すれば放射能の有害期間を大幅に短縮できる。高速炉運転の副次的産物として放射性同位体の製造が可能となり数兆円の市場が見込まれる。したがって、高額のコストを必要とするもんじゅの廃炉を凍結し、常陽の安全対策工事を優先し、常陽の運転を再開すべきだ。

(4) 国は高レベル廃棄物の地層処分地選定に、多くの自治体が参加できる環境を整備せよ

最終処分基本方針(2015年改訂)は、処分地選定に国民の対話を促す政策を導入し、一定の成果を挙げているが、説明会への参加は低調である。最終処分実施機関が国民に理解を得るのに重要な鍵を握っている。電気事業者の発意で設立された現在の認可法人に代わり、国が責任を持った非営利事業法人化するなど、抜本的に強化すべきだ。

(5) テロ攻撃・軍事攻撃対する原発防護は、自衛隊やOBを活用して強化せよ

原発防護に一定の役割を担う組織と装備があれば、テロ攻撃や携帯ミサイルの防護により安全・安心を与えることに繋がる。海外には携帯ミサイル攻撃を防ぐワイヤーフェンスや航空機テロ対策の航空機障害物が設置されている。有事に対応するためにも、警察の警備に加え、原発に自衛隊が常駐するか、OBを活用した民間組織の自衛防護隊が必要である。装甲車の配備も必要だ。出動要請を受けた自衛隊の到着まで、自衛組織が火器や重機を使用できる法改正を行え。法改正が困難であれば、自衛隊常駐を可能するに道を拓け。
 

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