公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.06.20 (月) 印刷する

日独エネルギー政策の失敗 奈良林直(東京工業大学特任教授)

ロシアのウクライナ侵攻を機に、欧州はエネルギー政策の大幅な見直しを迫られている。中でもドイツでは、メルケル前首相により石炭火力や原発に依存しないグリーンエネルギー政策を採ってきたことが、ここにきて大きく響いている。

一方のロシアは、短期のウクライナ占領には失敗したが、西側の経済制裁はしのいでいる。多くの経済学者が「ロシアはすぐにデフォルト(債務不履行)に陥り、経済破綻する」と言ったが、現実はそうなっていない。

我が国も東日本大震災の2011年3月以降、エネルギー政策を大きく誤り、足元の経済や電力の安定供給が脆弱になっている。

ロシアに依存したドイツの失敗

メルケル前首相が過去10年以上にわたって進めてきた政策とは、脱原発を標ぼうする一方でロシアとの間にパイプライン「ノルドストリーム」を設置し、火力発電の燃料を国産の豊富な石炭からロシア産の安価な石油や天然ガスに置き換えてきただけだ。その後も巨費を投じて「ノルドストリーム2」を建設したが、米国の反対にあって使用凍結状態にある。

ドイツはまた、太陽光や風力発電の普及にも努め、再生可能エネルギー(再エネ)の比率を40%以上に高めたが、1キロワット(kw)の電気を1時間使ったときに排出される二酸化炭素の質量(排出係数)は472グラムと、再エネ比率約20%の日本の534グラムと大差ないレベルだ。

ドイツはロシア産の天然ガスを必要量の55%も輸入している。ロシアにパイプラインのバルブを閉められたらエネルギーの巨大な供給源を失い、産業と経済は破綻しかねない。代替措置として他国から液化天然ガス(LNG)をタンカーで輸入しようにも、ドイツにはその基地がほとんど無い。大急ぎで基地を建設するにしても1年はかかる。

つまり、ドイツとしてはロシアに睨まれたら終わりなので、ウクライナに武器を供給しても、ロシアが不利になるほど多量の武器を供与できない。欧州では同じ事情から今なおロシア産の天然ガスを買い続けている国は少なくない。

化石燃料価格の高騰もあり、国際社会の経済制裁にもかかわらず、ロシアは戦費を上回る収入を得ているという。ウクライナの武器がどんどん減っている中で、ロシアは10倍の武器・弾薬で攻撃を続けている。

「脱原発」進めた日本の失敗

我が国も2011年3月の原発事故以降、再エネ優先政策を旗印に、原発依存度をできる限り減らす政策をとってきた。このため、一時は50基を超えていた原発も20基の廃炉が決まっている。最近、ようやく10基が再稼働するまでになったが、この間、我が国は大量の石炭や天然ガスを輸入してきており、その額はおそらく20兆円を超える。

我が国が輸入する天然ガスの内、ロシア産は約10%を占める。これを簡単に停止できない事情は欧州と同じだ。電力料金は上昇し続け、産業を衰退させる要因になっている。

こうしたエネルギー政策の矛盾が露呈したのが、3月22日の電力需給ひっ迫警報の発令である。この警報と萩生田光一経済産業大臣の国民への節電要請により、ぎりぎりで首都圏大停電は回避されたが、きわどい状況だった。

政府は再エネ比率の拡大で事態の改善を目指す方針だが、危うい。例えば、警報が発令された日の電力需要は4500万kwで、登録された太陽光の設備容量は1777万kwもあり、39%を占める。ところが、この時期だと晴天時はピーク値で1400万kwもの電力が供給されているにも関わらず、曇天の日には、太陽光はわずか174万kwにすぎない。

つまり、晴天と曇天では、100万kwの原発10基が不規則に運転・停止を繰り返しているようなもので、太陽光発電への過度な依存が続けば、真夏や真冬の電力需要期にはこれからも大停電が起こり得る。

萩生田経産相は老朽化した火力の戦列復帰を要請したが、たまにしか運転されない発電所をいつでも動かせるように待機させるのは、経済的にあまりにも非効率だ。変動幅が大きい再エネだけで100%の電力を確保することは理論的に無理で、それを公約に参議院選に臨もうとしている政党は国民に嘘をついているとしか言いようがない。

経産省は、日本の脱炭素関連投資は今後10年で官民合わせて150兆円が必要になるとの試算を示しているが、岸田文雄首相が今やるべきは、不安定な再エネに貴重な税金をつぎ込むのではなく、同じ150兆円を投資するのであれば、30兆円で原発を60基新設し、残りの120兆円は、国防、弱者救済、成長産業の発展支援に充てるべきだ。