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2019.12.04 (水)

【政策提言】 日本に原子力発電を取り戻せ

令和元年12月4日
公益財団法人 国家基本問題研究所
原子力問題研究会

政策提言

日本に原子力発電を取り戻せ

エネルギーの安定供給は国の基である。にもかかわらず、わが国はこの問題にまともに向き合ってこなかった。

かつて50基を越えた日本の原子力発電所は現在9基が稼働しているだけだ。原子力規制委員会の不合理な審査遅延ゆえに、震災後の8年を無駄にしたのである。

輸入化石燃料に全面的に依存するわが国は、エネルギー資源の安定かつ低廉な供給で大きなリスクを抱えている。その中で、わが国はパリ協定に対応し、温室効果ガス削減にも果敢に取り組まねばならない。再生可能エネルギーの効率的な導入を図るとともに、今こそ、大規模安定・非化石電源である原子力発電の正常化に取り組まねばならない。すでに巨額の化石燃料輸入負担、再生エネルギー補助負担が生じている。原子力発電所の再稼働を進め、国民負担のさらなる増大を防ぐとともに、わが国の原子力技術を将来世代のために維持、発展させたい。

以上の認識に立ち、提言する。

I. 原子力規制委員会は、科学的合理性を取り戻せ
1. IAEAの総合規制評価サービスの勧告・提言を踏まえ、わが国の規制体制を合理化せよ
2. 「原発を停めるための規制」から「原発を安全に稼動させるための規制」に転換を
3. 大幅に遅延している再稼働審査を正常化し、原発の再停止を回避せよ
4. 行政手続法に則り、審査の条件と目標を明示し、審査中に条件を変更すべきでない
5. 敷地内断層の審査は国際的に確立されたルールに則り行え
6. 特重施設の工事遅延を理由にした運転停止は回避せよ
II. 国は、原子力の課題解決にリーダーシップをとれ
1. テロ対策を電力会社のみに押し付けてはならない
2. テロ対策は警察、海上保安庁、自衛隊と連携をとれ
3. 原子力技術の人材育成と原子力技術の維持・開発を進めよ
4. 原子力発電所の建て替え、新設を図り、再生可能エネルギーと共生せよ
5. 核燃料サイクルを構成する再処理施設と核のゴミ処理を着実に推進せよ
6. フィルタベント等の新規制基準を国民に分かりやすく説明し、防災訓練に反映すべきだ
7. 国は責任を持って原子力への理解活動に取り組め

 

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【政策提言】 日本に原子力発電を取り戻せ

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◇ ◇ ◇

現状認識

エネルギーの安定供給は国の基である。にもかかわらず、わが国はこの問題にまともに向き合ってこなかった。かつて50基を越えた日本の原子力発電所は現在9基が稼働しているだけだ。原子力規制委員会の不合理な審査遅延ゆえに、震災後の8年を無駄にしたのである。

日本のエネルギー構造は、国産化石燃料が皆無であるため、エネルギー自給率は主要国中最低である。加えて、日本は他国との国際連係線(パイプライン、送電網)を有しておらず、地政学上のリスクが大きい。

パリ協定が発効し、温暖化防止への取り組みが喫緊の課題となっている。しかし、既に省エネが相当進んだ日本の温室効果ガス削減コストは主要国に比して極めて高い。現在でも我が国の産業用電力料金は主要国中最も高く、米国、中国、韓国等と比較すると1.5~2倍にも達する。すなわち、国内資源の不在、中東依存度の高さ、エネルギーコストの高さ、温室効果ガスの削減コストの高さ、という「四重苦」をかかえているのは主要国中、日本以外にない。

原発の再稼動は、費用対効果の高いエネルギーミックス実現の上で決定的に重要である。すでに巨額の化石燃料輸入負担、再生エネルギー補助負担が生じている。2030年まで原発の再稼動がゼロとなった場合、火力で代替すれば化石燃料焚き増しだけで約27兆円、再エネで代替すれば補助コストだけで少なくとも約15兆円の追加コストがかかる。

福島原発事故以降、「再エネがあれば原子力は不要」という誤った議論が跋扈している。再エネか原子力かという二者択一の議論は日本のエネルギー温暖化政策の最適解をゆがめるのみである。ドイツでは、脱原発を掲げ、再エネ比率40%を達成しつつも、太陽光・風力発電の出力変動のバックアップのため、火力発電所に頼らざるを得ず、CO2が増大している。こうした失敗事例を踏まえれば、非化石電源である原子力と再エネのそれぞれの強みを活かした両者の共生しか選択肢が無いことは明らかである。

我が国の2018年度のCO2排出が4.8%減となったのは、原発再稼動と再エネ導入拡大によるものだが、9基、9GWの原発の発電量は補助金を使って大量導入された56GWの太陽光の発電量に匹敵する。再エネに偏重した施策の限界を直視すべきである。

原子力発電所の再稼働を進め、国民負担のさらなる増大を防ぐとともに、わが国の原子力技術を将来世代のために維持、発展させたい。

以上の認識に立ち、提言する。
 

I. 原子力規制委員会は、科学的合理性を取り戻せ

我が国における原子力オプションの維持・発展のためには、何よりもまず科学的合理性に立脚したリスク低減という本来の趣旨から逸脱した原子力規制を糺すことが不可欠である。

1. IAEAの総合規制評価サービスの勧告・提言を踏まえ、わが国の規制体制を合理化せよ

平成28年の国際原子力機関(IAEA)の総合規制評価サービス(IRRS)ミッション報告は日本政府及び/又は原子力規制委員会に対し、日本の枠組みがIAEA安全基準に継続的に整合するような改善を行うこと、特に原子力規制委員会のすべての規制及び支援プロセスについて、統合マネジメントシステムを作成、文書化し、完遂することを勧告・提言している。

しかし現時点ではそうしたシステムが完成しておらず、審査の進捗状況が国民に公開されている状況にない。原子力規制による原発の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえて行うべきであり、IAEAの提言を踏まえ、原子力規制委員会のリスク重要度分類に基づく規制体制とマネジメントの合理化、規制体系のドキュメント化を推進し、予見性のある規制を至急に確立すべきである。震源を特定しない地震動の再審査よりも、再稼働のための適合審査を最優先すべきである。

2. 「原発を停めるための規制」から「原発を安全に稼動させるための規制」に転換を

東日本大震災から8年も経っているのにもかかわらず現在稼働中の原子力発電所はたったの9基。まだ多くの原発で適合審査が遅滞している。ここまで原発の再稼働が遅れているのは、菅直人政権が事故を機に、三条委員会として発足させた原子力規制委員会の規制行政のあり方に大きな問題がある。当時の田中俊一初代委員長と4人の委員は暫定の委員であったが、その後、政権に復帰した自民党も、この人事を国会で正式に承認してしまった。

田中委員長は「半年を目処に審査を行うので、全ての原発をいったん停止する」として全ての原発の運転を停止させた。いわゆる「田中私案」というものだが、法的根拠はない。現在の更田豊志委員長のもとでも、原発の長期停止は続いている。欧米でも例を見ない長期に亘る原発停止は、その間の燃料調達により巨額の国富の損失を招いており、この損失は、国民一人一人が電気代で負担していることを強く認識しなければならない。原子力規制は「原発を停めるための規制」ではなく、本来の趣旨に則り、「原発を安全に稼動させるための規制」であるべきである。

3. 大幅に遅延している再稼働審査を正常化し、原発の再停止を回避せよ

審査に何年もかかるのは、敷地内断層の活動性の有無の証拠を揃えるために膨大な時間を要するためである。年代を測定するための火山灰の分析、海岸の隆起の原因を地震とするかどうかの段丘編年の審査、設計用地震波形の決定、重要施設の地下の液状化の有無の根拠など、地質・地盤・耐震の審査が安全審査の約7割以上を占める。このため、6年経っても審査が後戻りしたり、ほとんど審査されていなかったりするプラントが10基を超える。大幅に遅延している再稼働審査を正常化し、原発の再停止を回避すべきである。

4. 行政手続法に則り、審査の条件と目標を明示し、審査中に条件を変更すべきでない

審査のための基準を最初に明示し、審査中にその条件を変えずに、行政手続法に則り、遅滞なく審査が終了するように審査を合理化すべきである。審査中に新たな条件が次々に追加され、その審査の長期化に伴って猶予期間が短くなって、十分な工事期間が得られなくなった特重施設もその代表例であって、これは規制側の審査にも大きな責任がある。

行政指導の内容は相手方の任意の協力によってのみ実現されるのであるから、原子力規制委員会は行政指導に携わる者として、審査中の条件追加等によってその相手方である事業者が工事期間の確保するために、行政指導に物理的に従えなくなったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。新規制基準に合格して再稼働している原発に新たな審査条件を付けてむやみに再停止させてはならない。

5. 敷地内断層の審査は国際的に確立されたルールに則り行え

原子力基本法第二条第2項には「安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」とある。現在の敷地内断層の審査は上載地層法*による敷地内断層が過去に動いた可能性が無いことの証明を要求している。既存の原子力発電所では、岩盤の上に原発を建設するために、上載地層が撤去されているところが大部分であり、この要求はいわゆる「悪魔の証明」に等しい。

国際原子力機関(IAEA)の安全ガイドでは、各国のグッドプラクティスをもちより、他の手段も含めてベストプラクティスとするように求めている。既に実施されている過酷事故対策により、万一断層が動いた場合の断層変位のリスクも大幅に低下している。敷地内断層審査も、科学に基づきリスクを効果的に下げる確立された国際ルールにより規制を行うべきである。

*断層を含む地層の上に12、3万年以前の安定した地層が存在することを証明する方法。

6. 特重施設の工事遅延を理由にした運転停止は回避せよ

再稼動した原発が特重施設整備の遅れを理由に再停止に瀕している。特重施設とはテロ対策施設のことで、「意図的な航空機衝突への対応」のためとしている。原子力規制委員会はこの施設が5年間の設置猶予期限までに完成しない場合、再稼働した原発の運転停止を命じる判断を下した。しかし稼働を認めた炉を停止させる判断の適切性、リスク軽減性には大きな疑問がある。先ずこの施設があっても抑止効果は期待できない。航空機の衝突から原子炉を守るためには、このような費用青天井の効果が疑問な施設を作るよりは原発周辺にポールや金網展張、アンテナ、風力発電装置、阻塞気球のような航空障害物を設置して原子炉への直接衝突を防ぐ方が航空機テロの抑止力の観点から有効である。

航空機テロが生起した場合、原子炉への直撃さえ避けることができれば、特重施設が完備している原発と未完備な原発では原発の事故対応に差はない。ようやく再稼働した原発を費用青天井の規制によって停止させることは停電リスクと電気料金負担増を招くのみであり、国益を損なう。東京オリンピック中の大停電リスクを回避するためにも再稼働した原発は停止することなく工事は続行させ、再稼働前の原発は特重施設の内容を見直して柔軟に対応すべきである。
 

II. 国は、原子力の課題解決にリーダーシップをとれ

1. テロ対策を電力会社のみに押し付けてはならない

テロの手段は航空機衝突による自爆テロ、ドローンや小型船舶による原発心臓部への攻撃、原発職員の人質立てこもり等、様々なものが想定される。こうした武装集団、民間航空機などの攻撃に対し、現時点では警察官のみによる対抗手段しかない。これは国家安全保障に対する脅威であり、民間電力会社にテロ防護を押し付けて済む問題ではない。

2. テロ対策は警察、海上保安庁、自衛隊と連携をとれ

平成30年防衛大綱において原発防護の対応が初めて盛り込まれたが、これを進め、平時から警察と連携して自衛隊を活用できる法律改正、規定整備をすると共に、原発所在地域を担当する作戦基本部隊等の人員増、装備の充実が必要である。ミサイルやドローンの誘導や攻撃を無力化する高出力マイクロ波(HPM)ビームの開発も急務である。

3. 原子力技術の人材育成と原子力技術の維持・開発を進めよ

現在、中国、ロシアによる原子力発電所の建設や輸出はめざましいものがある。これに対して東日本大震災まで世界一の競争力を持っていた我が国の原子力技術もいまや見る影も無い。我が国が営々として培ってきた技術を立ち枯れさせることは国家的損失である。新しい優秀な人材が原子力の世界を目指すよう、産官学を挙げた原子力人材育成と自然冷却系を強化した次世代軽水炉、再エネ共生型小型モジュール炉(SMR)を含め、世界で競争できる原子力技術の開発が必要である。

原子力人材の育成、技術開発を進め、我が国が長期にわたってエネルギー安全保障と脱炭素化を両立させるため、原子力発電所の建て替え、新設の方針明確化が必要である。

4. 原子力発電所の建て替え、新設を図り、再生可能エネルギーと共生せよ

現在、新設をめぐる議論が封印されている。これは依然として原子力に否定的な世論とマスコミの論調、「安全であっても安心できない」メンタリティ、政権の原子力論議からの逃避が原因である。加えて電力自由化に伴い、事業者も巨額な初期投資がかかる新規原発建設には後ろ向きで、予見性の無い規制のもとでは、経営上のリスクが高く、新規投資を事実上不可能にしている。新規投資の投資環境の悪化、不透明化を避けるためにも、政府は国家百年の計に立ち、原子力発電所の建て替え、新設の議論を進めるべきである。

原子力は現在80%を占めるわが国の火力発電所に代わり、再生可能エネルギーの出力変動を補完し、二酸化炭素を排出しない非化石電源として、日本のエネルギー温暖化政策の中核を担うべきである。

5. 核燃料サイクルを構成する再処理施設と核のゴミ処理を着実に推進せよ

核燃料サイクルを構成する再処理施設の適合審査の予見性の確保と着実な商業運転開始は、原子力推進・反対の議論を超えて必要なものである。高レベル廃棄物の分離とガラス固化体への融解固化による封じ込めは、空冷施設での保管や地層処分を行う上で、最も安定で長期的な安全性も高い。六カ所の再処理施設は使用前試験において、施設の運転可能性は確認されている。

プルトニウムを減らせとの米国の特定議員からの意見表明は、いわゆる「ワシントン拡声器」と呼ばれる我が国の原子力に反対している組織からの情報発信に起因しており、IAEAからは、我が国の核物質防護は、非常にしっかりしていることのお墨付きを得ている。

また、深地層処分場の適地選定と絞り込みにあたっては、国のリーダーシップが必要であり、文献調査に応じた自治体に無用な混乱を生じない配慮と支援が必要である。また、長期的には、高速炉による高レベル廃棄物の燃焼・消滅処理が必要性であり、常陽の活用ともんじゅの廃炉凍結を国の政策として位置づけるべきである。

6. フィルタベント等の新規制基準を国民に分かりやすく説明し、防災訓練に反映すべきだ

安全対策に関する国民への説明は規制委員会の重要な責務であり、米国原子力規制委員会(NRC)では最重視されている。防潮堤や工学的安全施設(非常用炉心冷却系や原子炉格納容器)等の対策の達成度、万が一、過酷事故に至った場合の電源車やポンプ車、消防車などによる注水や冷却による過酷事故緩和活動、放射性物質を濾し取るフィルタベントの役割などにつき、国民にわかりやすく説明するとともに、防災訓練もそれを反映したものにすべきである。

フィルタベントが設置されていれば、過酷事故が発生しても半径5kmから30kmの圏内では、屋内退避ですむ。住民負担の大きい避難訓練よりも、実質的に可能性が高い、フィルタベントが作動している状態での防災訓練を実施すると共に、食料・飲み水などの非常食の保管や配給の訓練を充実させるべきである。

7. 国は責任を持って原子力への理解活動に取り組め

我が国が将来にわたって原子力オプションを保持・発展させていくためには国民理解が不可欠である。福島第一原発以降、原発にゼロリスクを求める議論が生じているが、政府は、およそいかなる技術であっても「絶対安全」は不可能であること、そうした中で原発の安全規制は格段に強化され、万一の場合のリスクが最小化されていること、脆弱なエネルギー構造を有する我が国が長期にわたってエネルギー安全保障と温暖化防止を同時追求するためには原子力が不可欠であること等につき、理解増進活動を抜本的に強化すべきである。

福島では事故以来、汚染水の発生による農業、漁業従事者から国内外における風評被害が取りざたされ再稼働はおろか、自然界レベルのトリチウムを含む処理済水の海洋放出に対しても科学的根拠のない反対キャンペーンが続いている。このようなプロパガンダに対し、政府及び規制委員会は正しい科学的根拠に基づき、自然界の放射線と差はない根拠を示し、主要メディアへの政府広報の掲載・放送等を通じた有効な情報発信を始めるべきである。
 

結語 日本に原子力発電を取り戻せ

エネルギーの安定供給は国の基である。にもかかわらず、わが国はこの問題にまともに向き合ってこなかった。いまや日本のエネルギーを取り巻く環境は「崖っぷち」の状況にある。再エネの効率的な導入と技術開発を進めることは当然である。しかし貴重な国産技術である原子力を封印したままでは対策コストをいたずらに引き上げ、国家安全保障を著しく毀損する。原子力をめぐる状況を正常化させることは「待ったなし」であり、既に述べたような原子力規制の正常化・合理化、新規投資のための政策・ビジネス環境の整備、エネルギーリテラシーの向上に取り組まねばならない。

それを可能にするのは揺るがぬ政治的決意しかない。原発再稼動に懐疑的な世論、脱原発を掲げるメディア、野党の存在等、状況は厳しい。民主国家である以上、世論に配慮せねばならないが、国民に不人気な施策であっても国家百年の計のために取り組まねばならぬ施策もある。日本経済、エネルギー安全保障、温室効果ガス排出にネガティブな影響を与え続ける状況を放置してはならない。安倍政権は安保法制をはじめ、国家安全保障を強化するための施策に強い決意で果敢に取り組んできた。三条委員会の判断は尊重されるべきであるが、エネルギー政策についても同等の決意で取り組むことを強く求めたい。
 

関 連
活動報告

政策提言 「日本に原子力発電を取り戻せ」発表

令和元年12月4日