国基研の理事兼企画委員の加藤康子・元内閣官房参与は11月11日(金)、国家基本問題研究所企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員と意見交換した。
【概要】
円安の今、日本の産業が回復する好機ではないか。現在、半導体製造工場やゴム工場、自動車製造など、円安が続くことで、産業インフラが国内に戻りつつある。実際、関東甲信越の製造業の設備投資は大幅に増加している。この時期に円安が続くことで、国内産業はV字回復する可能性がある。
その産業を活性化するためには電力が欠かせない。電力なしに国家の基盤はなりたたないことは歴史が示している。軍艦島と呼ばれる炭鉱の島「端島」に電気がともったのは1900年である。絶海の孤島である端島を電化した技術は、後に日本全体を急速に近代化させた。戦後すぐの1952年には電源開発促進法が、1955年に原子力基本法を作り、電力確保に努めてきたが、現在のエネルギー基本法は心もとない限りである。
日本の産業のうち製造業は日本の基幹産業である。日本のモノづくりは、日本人のDNAに蓄積されてきた伝統である。日本は自動車、半導体、電子部品、鉄鋼、自動車部品などで外貨を獲得してきた。他方、中国は半導体、ロボット、航空宇宙、EV車、新素材で2025年までに覇権を握る国家戦略を持つ。わが国の基幹産業の強みを打ち消す中国の強かな戦略には注意が必要だ。
例えば中国はEVで覇権を握ろうとするが、世界のEVシェアは5%程度でまだまだ発展段階。しかし日本政府はクリーンの名の下EV率を高めようとする。日本の自動車は排ガス規制を強化し、脱炭素に貢献してきた実績があるにもかかわらずだ。国がEVに舵を切ることは、中国を利するだけで、日本の国益にはならないだろう。
さて、国連気候変動枠組条約締約国会議COP27が先ごろ開催された。世界のCO2排出量の28%は中国だ(日本は3%)。にもかかわらず日本がNGOから化石賞を獲得するという矛盾。欧州はウクライナ戦争開始以後、急激に火力に舵を切った。英仏は原発の新規計画をするなど、世界のエネルギー事情は大きく変化した。その中で、ぶれずにグリーントランスフォーメーション(脱炭素再エネ政策)を堅持するのは日本だけ。正直者が馬鹿を見ることにならなければいいが。
究極の脱炭素エネルギーは原子力発電。しかし、日本の原発に対する姿勢は将来的に廃止するバックギアが入ったまま。他方、産業用電気料金は10年で約3倍に。国は製鉄業に対し脱炭素のため電炉を推奨するが、産業用電気料金への対策なし。こんなことでは産業界が疲弊するのみ。
某TVモーニングショーで、原発より太陽光発電の方が安い試算があるというが、他方ビルゲーツは、再エネは発電コストが莫大になるという。実際に試算してみると、太陽光(蓄電池を含む)は同じ発電量で比較すると、発電コストが原子力の約8倍になる。国土保全という観点でも、太陽光発電にはリスクがある。外国に日本の山林の土地を安く買われ、外資系の太陽光パネル設置に助成金が下りるという実態に、引き続き警鐘を鳴らしたい。
【略歴】
東京都出身、慶応大学文学部卒業後、国際会議通訳や米CBSニュース調査員等を経て、米ハーバード大学ケネディスクール政治行政大学院修士課程修了(MCRP)。一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事、筑波大学客員教授、平成27年から令和元年まで内閣官房参与を務め、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録に尽力した。現在は産業遺産情報センター長。 (文責国基研)
第253回 電力なくして国家の成長なし。クリーンの合言葉には要注意。
電力なくして国家の成長なし。隣国から融通できない島国日本は自力で賄うしかない。しかし脱炭素、再エネ偏重で、火力排斥、原子力先細りでは、安定・安価な電力は得られない。再エネも、太陽光は外資ばかりに利益ある高い買い物。クリーンの合言葉には要注意。