公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.07.29 (水) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会

7月24日、総合安全保障プロジェクト月次報告会を開催した。

冒頭、岩田副理事長が今回の報告にある各事象を総合的に見て『中国の「準戦時圧迫構想」』として、その概要を説明した。それを受け中川真紀・国基研研究員が「15次五カ年計画開始後の日本周辺海域の中国公船の動向」について報告し、黒澤聖二・国基研理事が法的側面から補足説明を行った。続けて中川研究員が「SLBMの太平洋への試験発射」について報告し、引き続き吉田正紀・元防衛大臣政策参与がオンラインで「米中リバランスの始動?過去からの警鐘」を説明した。

第1部は国会議員に向け、第2部は主要メディアに向け発表及び報告し、参加した議員、記者、企画委員らの質疑に応じた。以下、その概要を簡単に紹介する。

【月次報告】
国会議員向け(午前8時~9時30分)、メディア向け(午前11時30分~午後1時)

●『中国の「準戦時圧迫構想」』
 岩田清文・国基研副理事長・元陸上幕僚長

6月から7月にかけ、中国によるSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射試験、海上交通特別法の執行、台湾東方海域の巡視、さらには民族団結進歩促進法の施行といった、個々の事象が続々と生起している。これらは、第15次五カ年計画(一体化された国家戦略システムと能力の強化)を背景に、統合的かつ体系的に行われていると見るべきである。

すなわち中国は、根底にある戦略構想を基に、軍事・非軍事の手段を並行して用い、逐次圧迫を強め、日米台の連携を分断して台湾社会の心理に打撃を加えようとしている。これを「準戦時圧迫構想」と呼称するが、まさに現在進行形であることに注意を向ける必要がある。

 

●『第15次五カ年計画開始後の日本周辺海域の中国公船の動向』
 中川真紀・国基研研究員

第15次五カ年計画の国防関連目標(2026~2030年)の中に、先進戦闘力建設の加速や軍備管理体制メカニズムの近代化の他、一体化された国家戦略システムと能力強化があり、そこでは、党・政府・軍・警察・民間で協力した海空国境防衛強化が明記された。

上記五カ年計画を採択した3月以降、海洋調査船が海警の護衛のもと日本EEZ内で活動を活発化した。さらに日比海洋境界画定交渉の開始が公表された5月以降、海警編隊が台湾東方海域で法執行パトロールを開始するとともに、交通運輸部公船「海巡」等が同海域で海上交通特別法執行活動を開始した。

中国の企図は、台湾に対しては東方海域の管轄権の既成事実化を、日本に対しては隣接する日本EEZを中国の管轄海域と主張し、その管轄権を行使することにある。対応のラダーを上昇させ、圧力を強化していると見るべきだ。

海警・海巡の航跡をAISで確認すると、尖閣編隊と台湾東方海域の法執行パトロールが密接に連携している様子が伺える。また、海洋調査船「向陽紅」が本年3月以降、日本のEEZ内(尖閣から南西諸島南方)で無許可の調査活動を活発化させている。その際、砲搭載の海警船を護衛に付けており、力を誇示して海保の中止要求には従わない姿勢を強化させている。加えて、沖縄本島北西のEEZ内で海保測量船に調査中止を要求し、中国が主張する大陸棚や管轄権の既成事実化を図っている。

さて海軍は5~6月に、空母遼寧編隊が西太平洋に進出し、遠海訓練を実施した。空軍の空中給油機や東部戦区海軍のユーシェン級強襲揚陸艦との空海地一体となった協同訓練を西太平洋で実施、着上陸能力の向上を図った。また空母遼寧はスキージャンプ式のため、J-15戦闘機は燃料満載・完全武装での運用はできなかったが、空中給油機を利用すれば、燃料や武器搭載量を増加することができ、日本の離島が点在する西太平洋での運用を企図していることは注目に値する。

 

●『中国公船の活動に対する法的評価』
 黒澤聖二・国基研理事・元統幕首席法務官

中川研究員の報告に関し、中国の法律戦が多用な手段を駆使してハイブリッド化しているとの観点から若干補足する。

・対日及び対台湾法律戦の注目点
日本に対しては、海洋調査船が日本のEEZ内で無許可の調査を繰り返し、国際法上の沿岸国同意ルールを黙殺している。これは日本に十分な国内法が整備されていない弱点を突いたものだ。さらに、調査船に海警の護衛を隋伴させ、海上保安庁の中止要求に対して「力」を誇示することで、日本の要求には従わない姿勢を示している。

また、海軍が沖ノ鳥島沖で実弾射撃訓練を行った際、わざわざ「沖ノ鳥島は海洋法上の島ではなく岩だ」という独自の主張を一方的に主張し、対日圧力強化のレベルを上げた。

一方、台湾に対しては、交通運輸部「海巡」が台湾の制限水域(接続水域)内で法執行活動を行い、同水域が中国の管轄権内であることを強調した。海警部隊も、国際法上に根拠のない独自概念「管轄海域」内の法執行パトロールを宣伝し、その定着化を企図している。

・事実上の台湾封鎖への警戒
中国は平時の活動である「検疫(Quarantine)」を名目に法執行活動を行い、武力を用いずに船舶交通をコントロールし始めた模様だ。仮に接続水域内での管轄権行使を容認すれば、台湾を中国の一部と認めることになるため、決して受け入れることはできない。

その外側の海域で海警が外国船に対し管轄権を行使(事実上の封鎖)する場合、これは海洋法上の「航行の自由」を侵害する行為であるため、そもそも従う必要はない。しかし、大型タンカーなどの民間商船は便宜置籍船が多く、十分な注意喚起が必要だろう。

なお、仮に海軍部隊が「戦時封鎖(Blockade)」を行うのであれば、武力紛争法上は合法となる。しかし、それは台湾を国家として扱うことを意味するため、矛盾が生じる中国側としては選択肢になり得ない。

いずれにしても、中国が仕掛ける海上法律戦はハイブリッド化しており、西側諸国が足並みを揃えて対抗していくことが肝要である。

 

●『SLBMの太平洋への試験発射』
 中川研究員

中国の報道(新華社)によると、「7月6日12時01分(日本時間13時01分)、海軍の戦略原子力潜水艦1隻が、太平洋上の関連公海海域に向けて訓練用模擬弾頭を搭載した潜水艦発射型戦略ミサイル(SLBM)を発射し成功、正確に予定海域(南太平洋のツバル沖)に着弾した」という。わが国が大使館を通じ中国国防部から説明を受けたのは発射の1時間30分前だった。

飛翔経路は事前にA、Bの2ルート(Aは渤海から発射、Bは香港沖から発射)が航空情報「NOTAM」で通告されており、飛翔距離はいずれも約7200kmで、SLBMがJL-2であれば、ミニマムエナジー軌道の最大射程の試験発射と推定できる。

当日は日本上空の通過(Aなら九州上空)がなかったことから、飛翔経路はBルートの可能性が高い。観測船はA、B両ルートに対応するように複数配置されていたことから、実戦では両ルートが使われることも想定し、発射手順を訓練した公算が高い。

SLBMが最新のJL-3でなかった理由は、JL-3のテレメトリー信号を補足されたくなかったこと、発射潜水艦のJin級(094型)SSBNがJL-2用に設計されているため安全性を考慮したこと、などが考えられる。

今回の発射の意義は、トライアド(核の三本柱)確立のため、計画的な核戦力整備の一環として、技術的な確認とともに、戦略パトロールの実効性を証明し、米国に対する核抑止力のアピールにある。

 

●『米中リバランスの始動?過去からの警鐘』
 吉田正紀・元防衛大臣政策参与・米国双日副社長

 
・日中関係はすでにリバランス
「2008年から2010年が日中関係リバランス(再均衡)の転換点だった」と主張したのは米ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル名誉教授である。2010年には中国経済の規模が日本を追い抜き、中国が日本を支配する新しい状況ができたと教授は見る。

実際、2007年には中国高官が太平洋を米国と分割統治する提案をし、2010年には尖閣諸島沖で中国漁船が海保巡視船に体当たりをする、あるいは2013年には中国の艦艇が日本の護衛艦にFC(射撃管制)レーダーを照射する事案が発生し、リバランスが顕在化した。当時の米太平洋軍でさえ、尖閣問題は日本側に責任があるとの見方が支配的であった。これを過去からの警鐘として受け止めたい。

・米中関係のリバランスは進行中
米国の場合、オバマ政権時2008年の金融危機やテロとの戦いで経済的・軍事的パワーに陰りが生じ、中露印などの台頭する大国に融和姿勢を見せると、中国は南シナ海を埋め立て、ロシアはクリミアを併合するなど、リバランスの兆候が現れた。

現トランプ政権の国家安全保障戦略(2025年)でも、米国が世界秩序を支える時代は終わったとする。いまや「米中共治」+ルール志向(オバマ版G2構想)ではなく「米中分治」+ディール外交(トランプ版G2構想)の時代が到来しつつある。

日中リバランス時における中国による東シナ海(尖閣周辺)の現状変更、南シナ海の現状変更と同様に、米中リバランスの文脈で見ると、中国の公船や海軍の活動、SLBMの太平洋に向けた発射などは、中国のプロービング(探り)の可能性がある。中国によるサラミスライス戦術は「準戦時圧迫構想」のもと、周辺国を着々と蝕んでいくだろう。

 
報告会では、出席記者からの質問に答える形で補足説明が行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。

【質疑応答】
Q: 海警船に加え「海巡」も軍事統制のもとで活動しているのか。
A: 海警船は中央軍事委員会による軍事統制を受けるが、「海巡」は国務院隷下の交通運輸部(行政機関)の統制を受け、指揮系統は分かれている。しかし、実際の航跡などを見ると密接に連携して行動していることが認められる。

Q: 台湾やフィリピンは距離的に中国に近く圧力を受け易い。両国は実際どのような姿勢で対峙しているか。
A: 台湾は現在の頼清徳民進党政権が、中国には属さないという明確な姿勢を示している。フィリピンのマルコス政権は米国に対し協力的で、中国がASEANの中でフィリピンを孤立させる戦略をとる中、豪州や日本など域外勢力とも連携して対抗する姿勢を示している。

Q: 中国海軍のSLBM発射の際、米国の反応は抑制的だったが、当時の米国内の雰囲気について伺いたい。
A: 厳しく反応したのは国務省のみで、その他は大きな反応を示さなかったのは事実である。今は中国を刺激したくないということのようだ。少なくとも今秋予定される米中首脳会談までは、問題があっても騒ぎを大きくしないのではないかと思う。

Q: 単純な質問だが、今回のSLBM発射ではSSBNは浮上していたのか。
A: 実際、浮上していたか否かは不明だが、基本的に潜没状態で試験発射を行わなければ実戦に近い発射訓練にはならない。実効性の確認という意味では、潜航したまま発射したものと思われる。

この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも毎月末を目途に継続実施していく予定である。 (文責 国基研)