公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.08.31 (月) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会

8月28日、今月の総合安全保障プロジェクト月次報告会を実施した。「台湾有事は日本有事」という言葉だけが独り歩きし、具体的に踏み込んだ議論は進まず、台湾の重要性が広く国民に共有されるには程遠い状況である。そこで今回、岩田副理事長が先週の企画委員会で発表した台湾の重要性の分析について、総合安全保障プロジェクトの中で報告会を設けた次第である。

岩田氏の報告を受け、プロジェクトの中核を担う吉田正紀・元防衛大臣政策参与(ワシントンからリモート参加)と中川真紀・国基研研究員が補足的に説明を加えた。

第1部は国会議員に向け、第2部は主要メディアに向け報告し、参加した議員、記者、企画委員らの質疑に応じた。以下、発表概要を簡単に紹介する。

【月次報告】
国会議員向け(午前8時~9時30分)、メディア向け(午前11時30分~午後1時)

『台湾の戦略的重要性分析-台湾の現状維持は日本の存立と繁栄にとって重要な戦略的価値-』
岩田清文・国基研副理事長・元陸上幕僚長

中国による「台湾の統一」は、大陸に最も近接した民主主義体制が権威主義体制に吞み込まれること、あるいは日本の南西防衛線・エネルギー動脈・産業基盤などが損なわれることを意味し、結局は日本自身の問題となる。米国にとっても同様に、第一列島線という前方防衛線・半導体・同盟網など、安全保障体制と密接に結びついている。

以下、台湾自体の価値と中国にとっての価値を整理した上で、仮に台湾が占領された場合の日米両国のリスクを概観し、台湾の現状維持が損得計算を超えて重要であることを再確認したい。

・台湾自体の戦略的重要性
台湾は、英エコノミスト誌の民主主義指数(EIU)で「アジアで最も民主主義が進んだ政治体制」と評価されているように、中華圏における民主主義の存在証明としての政治的価値を高めている。また、第一列島線の中央、かつ中国海軍の太平洋への出入口に位置し、中東から日本へ向かうエネルギー資源の海上輸送路(シーレーン)が近傍を通る。第一列島線という鎖の中央の環(リンク)として作用するため、そこを制することは鎖全体を制することに等しいとも言える。逆に日米から見ると、中国の聖域(核搭載原潜の安全海域である南シナ海)への入り口にあたる。よって、双方の陣営にとって軍事的価値が極めて高い。

加えて、世界の半導体製造の世界シェアにおいて台湾は約6割を占め、5ナノ未満クラスの先端チップのシェアは約9割を超える。半導体と並んで重要な点は、アジアと北米・東南アジアを結ぶ海底ケーブルの結節点に位置し、通信インフラ上の高い地理的価値を持つことである。

・中国にとっての台湾の重要性
習近平国家主席が掲げる「中国の夢」「中華民族の偉大な復興」という目標において不可欠な要素の一つが「台湾統一」である。中国共産党の歴史的正統性の中核は台湾統一にある、という物語(ナラティブ)完成のためには、「武力行使を決して放棄しない」のであり、大軍拡の根拠ともなっている。

その具体策は、接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略を具現化するための軍備の拡大・近代化のみならず、台湾周辺で繰り返される軍事演習の大規模化、統合化、ハイブリッド化などに見て取れる。

加えて、中国が台湾を掌握することは世界最先端の半導体製造能力を手中に収めることを意味し、その経済的価値は計り知れない。

・日本にとっての台湾の重要性
日本と台湾との地理的距離は極めて近い。与那国島から台湾本島までは約110kmであり、台湾の安全保障は日本の南西諸島防衛と不可分の関係にある。さらに、日本の生命線であるエネルギー資源の海上輸送路(シーレーン)が台湾海峡及びバシー海峡に深く依存している点は前述のとおりである。

仮に台湾が中国に統一された場合、主に以下の事態が懸念される。第一に、民主主義の防波堤が台湾から日本へと後退し、わが国が権威主義体制と直接対峙する最前線となることである。第二に、沖縄の帰属に対する挑戦である。「台湾の次は沖縄」という中国側の対外的野心には大いに警戒を要する。第三に、軍事的影響である。中国海軍及び空軍が太平洋へ直接進出することが可能となり、西太平洋における中国の制海権・制空権の確立が現実味を帯びることになる。

・米国にとっての台湾の重要性
台湾が世界の半導体市場に及ぼす影響力は甚大であり、台湾製半導体へのアクセスを失えば、世界的な大恐慌に直結するとの懸念は拭えない。世界経済のデジタル化が進展する中、台湾製半導体への依存度は今後も高まると予測されている。

軍事的には、中国の海洋進出を抑える第一列島線をベルトとすれば、台湾はそのバックルに相当する。ここが破断すれば、抑制を失った中国の軍事力はフィリピンや日本へ波及せざるを得ない。歴史的にも1950年の朝鮮戦争は、米国が朝鮮半島と台湾を「アチソン・ライン(対アジア防衛線)」の外側に置いたことで勃発した経緯がある。

また、核に関する懸念もある。仮に中国が劣勢となった場合など、小型核使用のリスクが高まる。さらに同盟の信頼性にも影響がある。仮に台湾を喪失すれば米国のコミットメント(関与)失敗を意味し、同盟の信頼性が揺らぐ。すると、日韓の核武装論を誘発しかねないとの指摘もある。

・まとめ
米シンクタンクによる各種シミュレーションでは、日本の関与拒否が台湾陥落に直結する結果が示されており、日本にとって「不関与」という選択肢はあり得ない。日米が台湾防衛への関与を明確にすることは、中国が武力行使に踏み切るハードル(閾値)を上げ、核兵器の使用が現実の選択肢となる事態を阻む「拒否的抑止」として機能する。

総じて、台湾の現状維持は、コストと天秤にかけるような選択肢ではなく、ましてや「巻き込まれる」という問題でさえなく、わが国自身の存立に向けた不可避の「自己防衛」であると認識すべきである。

今回の議論は米国が関与することを前提とするが、今後はさらに議論を深め、仮に米国が関与しない場合の日本の対応まで考えることも、真剣に日本を守るという観点からは必要である。

一連の報告後、出席者からの質問に答える形で補足説明が行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。

【質疑応答】
Q: 米軍が台湾に関与するには余力が必要だが、イランとの戦闘で疲弊している現状で、十分な能力はあるのか。さらに米政権の意図についてはどうか。
A: 攻撃型トマホークの在庫は半分、防空のためのパトリオットミサイルも相当不足しウクライナへの供給も滞っていることは問題である。米シンクタンクの分析では、台湾問題に関与しないというワシントンの意図も観測され始めているので、今後の分析課題としたい。

Q: 自衛隊が台湾と軍事面で連携するための課題は何か。
A: 組織的な連携不足は否めない。そのため政治の決断が喫緊の課題である。防災という観点で連携は進んでいるので、そこから拡大していく可能性はある。

Q: 台湾の「平和統一」「政権交代」はコストが少なく中国にとって望ましい結果だと思うが、いずれも認知戦が仕掛けられている現状に、対抗できているのか。
A: ご指摘の通り中国の台湾に対する工作活動(認知戦)は現在進行形で大規模に浸透している。「平和統一」という言葉自体が、平和をイメージさせる認知戦の一環である点にも注意が必要である。台湾は現在、政権を担う民進党を中心に、反浸透法の法整備や官民で連携したファクトチェックなど、積極的に対抗している。日本としては、台湾に関与するという姿勢を見せることが、台湾の助けになることは間違いない。

Q: 具体的な日本の関与の方策について問う。
A: 最大の貢献策は米軍の関与を支援することである。加えて、早急に日台(日米台)調整メカニズムを構築し、平時から訓練を重ねておくことも重要である。
(文責 国基研)