公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.09.25 (金) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会

9月18日、今月の総合安全保障プロジェクト月次報告会を開催した。

冒頭、岩田副理事長から戦後80年の国際秩序が崩壊し、台湾有事の生起可能性が増大していること、その中で日本として注視すべきは中国の侵攻準備状況の他、台湾の状況(中川研究員担当)や米国の関与の程度(吉田氏担当)であるとの説明を受け、まず、中川真紀・国基研研究員が台湾で実施された軍事演習「漢光演習42号」の模様について報告。引き続き、吉田正紀・元防衛大臣政策参与が、前回岩田副理事長が行った台湾の重要性に関する報告を踏まえ、「トランプ2.0の台湾政策の揺らぎ」と題して米国側の台湾認識について報告した。

第1部は国会議員、第2部は主要メディアを対象として実施し、参加した議員、記者、企画委員らとの質疑応答を行った。以下にその発表概要を紹介する。

【月次報告】
国会議員向け(午前8時~9時30分)、メディア向け(午前11時30分~午後1時)

『漢光演習42号』
中川真紀・国基研研究員

台湾軍は1984年以降、最大規模の統合演習「漢光」を毎年実施しており、今年で42回目を迎えた。従来の演習と異なる点として、図上指揮所演習(4月に14日間)から実動演習(8月に10日間)に至る期間に、「即時戦備演習」(6月に5日間)及び「統合防御演習」(7月に5日間)を追加し、軍単独の戦術部分を事前に演練した点が挙げられる。

今回の演習では特に、台湾社会全体が軍と共に行動する「軍官民の連携」や、縦深防御・持久作戦段階の期間を昨年同様に4日間に延長(従来は1日)して敵上陸以降の作戦を重視したことが伺える。
1 演習の注目点
演習の項目を昨年の「漢光41号」と比較すると、継戦能力を支える民間の戦時体制への移行要領をより具体化したことが分かる。例えば、予備役動員の規模が1個旅団から2個旅団へと拡大したほか、昨年にはあげられなかった「戦時生産体制への移行」や、「戦時医療体制の確立」、「社会全体の防衛強靭性」などが重視項目として提示された。加えて、「対海上封鎖」が新たな重視事項となったことも注目される。

2 特徴的な訓練
・民間地での訓練:民間の都市部を中心に多地域へ軍を展開。実際に戦闘する各都市部で、「実際の部隊・場所・時間・装備・方式」による演習の実施。
・対海上封鎖:海軍と海巡署(海保に相当)が台湾東方海域で初の「統合対封鎖航行護衛訓練」を実施。海巡署の巡視船に対艦ミサイル発射機を搭載し、海軍艦艇との編隊行動が可能な能力を備えていることを実証。
・対斬首作戦:緊急状況下で作戦指揮と国政機能を維持するため、深夜に総統府や官邸から国家政軍指揮センターへ避難・移動し、関係機関等との連携を検証。
・戦時軍事裁判実務演練:戦時各級軍事法院及び検察署が軍事裁判法に基づく臨時裁判・捜査を演練。一時期廃止されていた軍事裁判を2025年に頼政権が復活させたもので、近年深刻化する台湾軍に対する中国の浸透工作への対応強化をアピール。
・UAV運用と対UAV:多くの部隊で偵察型UAVを、海岸部では中型以下の攻撃型UAVを使用。総統が視察するなどUAV運用訓練に重点が置かれた。あわせて対UAV装備(ジャミング、防護柵、警戒レーダーなど)を用いた訓練の様子も報道。

3 軍と民間が連携した動員演習
・予備役動員等:台湾島北部と南部でそれぞれ1個旅団、計5000人以上の予備役動員を実施。後方支援として民間の輸送車両や整備人員などの動員・徴用を行ったほか、100人以上の民間の情報セキュリティー専門家を招集し、初の情報防衛動員実員演習を実施。
・生産移行動員演習:国防部軍備局に所属する各工廠が戦時の生産体制へと移行。民間の人員や資源を総合し、大量消費が予想される弾薬の分散生産などを演練。
・軍公民営医療整合演練:国防部軍医局が統制し、軍と民間病院、保健所などが連携。急激な負傷者増加に対する緊急対応能力を検証。

4 都市強靭性演習
・全民防衛動員演習:22の地方自治体が2年に一度実施する戦時対応演練。今回は4つの市・県が漢光演習と連接して実施。特に、TAK(部隊情報認識アプリ)とEMIC(災害危機管理プラットフォーム)を活用した、人員や物資等の管理を演練。
・防空演習:参加行政区画を昨年の65から368へと全行政区画に拡大。戦時にネット環境が悪化した場合の市民生活の混乱などを初検証。特に、サイバー攻撃や海底ケーブル切断による通信障害の発生を想定し、代替手段の確保などを演練。
・外国の関与:米国在台協会(AIT)台北事務所長、カナダ貿易事務所代表、イスラエル経済文化事務所代表らの見学を確認。一方で日本台湾交流協会代表の関与(見学)は報道なし。

5 まとめ
演習終了後に発表された頼総統や顧国防相の評価を踏まえると、無人システムをはじめとする新装備の配備や早期の戦力化が、台湾にとって喫緊の課題であるとの認識が示された。

総じて、中国による封鎖・斬首・サイバー・浸透など、近年急増する脅威に対する頼清徳政権の強い覚悟が示されたと言える。現代戦を遂行するために国家が何をすべきかを、社会全体で検証した意義は極めて大きい。特に、継戦能力維持における地方自治体・民間企業・国民自身の役割が具体的に演練され、社会全体で一丸となって戦う姿勢が強く打ち出された演習であった。

 

『トランプ2.0の台湾政策の“揺らぎ”』
吉田正紀・双日米国副社長・元防衛大臣参与

・米中関係の変遷と台湾政策の変化
1972年の米中共同声明(1979年の国交正常化)以降、様々な情勢変化に伴い米中台関係は変遷を繰り返してきた。米ソ冷戦下、米国にとっては台湾海峡の安定が最優先事項であった。冷戦終結後の「米一極支配」下におけるオバマ政権は、馬英九政権に対して安定した中台関係を期待していたため、当時の対立候補であった蔡英文氏を警戒していた。

その後、世界が多極化へ移行し、米国の対中認識も変化すると、米国は一転して蔡英文政権を歓迎するように変化した。さらに頼清徳政権へ移行し、台湾側の対中強硬路線が強化される中、トランプ2.0の台湾政策には揺らぎが生じ始めた可能性がある。

・トランプ2.0の台湾政策をめぐる認識
米国の台湾政策を捉えるには、米国を一枚岩と見做さず、以下の6つのアクターの複合体として分析する必要がある。

①大統領(ホワイトハウス):台湾を「米中関係の取引材料(ディール)」と見る傾向が強いのが特徴。首脳間で直接対話ができることは利点だが、政策が大統領の意向や選挙日程に左右されやすく、影響力が非常に大きい一方で、不確実性という欠点も抱えている。

②国防総省・米軍:中国を「ペーシング・スレット(歩調を合わせるべき脅威)」と位置づけ、台湾防衛を「ペーシング・シナリオ」としている。公式には台湾政策「不変」の立場を維持してきたが、近年のウクライナ・中東情勢対応により物理的余力が削られ、板挟みの状態にある。

③国務省・行政省庁:①大統領や④議会に比べると、現在の台湾政策決定における直接的影響力は相対的に小さいと考える。

④連邦議会:伝統的に対中警戒感が非常に強いアクター。「台湾旅行法」、「台湾国際連帯・イニシアティブ法」、国防権限法(NDAA)の台湾強化条項、台湾政策に関する超党派声明など、過去の蓄積が物語る。

⑤メディア:③国務省と同様に影響力は比較的小さい。

⑥シンクタンク・専門家:政策決定への直接的影響力は限定的だが、政権中枢が理論武装にその知見を利用するため、彼らの指摘には注意が必要である。

・党内勢力争いより大統領の個性がリスク
共和党内には、対外関与を重視する「優越主義(プライマシスト)」、対中対抗を最優先とする「優先主義(プライオリタイザー)」、対外不関与を主張する「抑制主義(リストレイナー)」という3つの潮流がある。政権内で政策そのものが揺らぐほどの激しい勢力争いは表立っていないものの、近年は優越主義の退潮し、抑制主義が台頭する傾向が見られる。

加えて、トランプ大統領の「取引主義(ディール重視)」や即興的言動と、国務省・国防総省・連邦議会といった「制度的アクター」とのせめぎあいも重要である。現時点では、後者が前者を制御しており、政策自体の決定的変化には至っていない。しかし、大統領が台湾を「対中交渉の道具」として扱うことで、中台に対する米国の意図が不確実になり、結果として抑止の信頼性を蝕んでいるとの指摘も無視できない。

・揺らぎの兆候
米国の台湾政策を見極めるうえで最も重要なことは、現在のトランプ大統領の本音がどこにあるかという点である。

例えば、ワシントン・ポスト紙のジョシュ・ロギン氏の著書『カオス・アンダー・ヘブン』は、第1次トランプ政権のホワイトハウスにおける4年間を描写されている。同書によると、大統領は台湾政策をめぐって政権高官らと対立しており、米国による台湾への防衛関与に対して冷淡な姿勢を示していたとされる。

さらに、対中強硬論とは対照的な「抑制派」の代表的論考も発表された。シンクタンク「Defense Priorities」のジェニファー・カヴァナ氏の著書『アジアにおける第二列島線戦略』では、台湾防衛はコストやリスクに見合わないと主張される。同氏は「戦略的曖昧性」を放棄し不関与の方針を明確にし、米軍の布陣を第二列島線へと後退させるべきだという具体的な戦略案を提示した。

いずれの指摘も、米国の不関与を示唆するものであり、現実化すればわが国の安全保障戦略にも極めて大きな影響を及ぼすことから、今後の動向には注意を要する。

一連の報告後、出席者からの質問に答える形で補足説明が行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。

【質疑応答】
Q: カヴァナ氏の論考は極端な議論だが米国内で受け入れられるのか。
A: 米国内では非主流派だが、抑制派の議論が根拠をもとに明確に示されている点で、今後、影響力が出てくるかもしれない。例えば在韓米軍不要論を語ったことがあるトランプ大統領が、対中ディールの材料にするための根拠として利用する可能性は否定できない。

Q: 米中会談を控えたこの時期に抑制派の議論が表に出ることの意味は何か。
A: 著者が狙ってこの時期を選択したというより、出版の都合だろう。それよりわが国は、この本を切っ掛けにして「米国に言うべきことを言う」べきである。台湾を守ることは、コストよりも価値があると、米国に再確認してもらう努力が必要である。

Q: 対中戦略の一環として日本の議員外交は効果があるか。
A: かつては毎年訪米していた超党派の安保議員団があったが、今の散発的な状況では効果が薄いのではないか。本来は総理が対面で議論することが一番重要で、その点、高市総理の訪米は意義深い。昔も今も議員外交は重要なツールである。
(文責 国基研)