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2024.01.05 (金) 印刷する

【詳報】 第16回 会員の集い シンポジウム「中国覇権戦略『100年マラソン』再考」

第16回 会員の集い シンポジウム/令和5年11月3日/東京・ホテルニューオータニ

第16回 会員の集い シンポジウム「中国覇権戦略『100年マラソン』再考」

11月3日、通算16回目となる会員の集いは「中国覇権戦略『100年マラソン』再考」のテーマで開催しました。櫻井よしこ理事長の司会で、ヘリテージ財団上級研究員のマイケル・ピルズベリー博士、北村滋前国家安全保障局長および田久保忠衛副理事長が登壇。ピルズベリー博士の基調講演をご紹介します。

略歴

マイケル・ピルズベリー Michael Pillsbury

1945年米カリフォルニア生まれ。スタンフォード大学卒業、コロンビア大学で博士号取得。ランド研究所の中国分析官を務め、カーター政権の米中関係正常化やレーガン政権の対中政策に影響を与えた。上院スタッフを経て、レーガン政権では国防副次官(政策企画担当)として、ソ連軍のアフガニスタン占領に抵抗するイスラム勢力にスティンガーミサイルを提供する1986年の秘密決定に参画。初代ブッシュ政権では国防総省の評価局長特別補佐官(アジア担当)を務めた。1997-2007年にかけて、国防大学客員研究員、国防総省政策諮問グループ委員、米中経済安保調査委員会上級研究アドバイザー、国防総省顧問として活躍。著書に、中国の100年マラソン戦略を暴いた、“The Hundred-Year Marathon”(邦題:『China 2049―秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』、日経BP社)

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第16回 会員の集い シンポジウム「中国覇権戦略『100年マラソン』再考」

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中国は中国批判を嗤っている

マイケル・ピルズベリー(Michael Pillsbury)

先週は中国で三日間毎晩宴会があったので、体重が十キロも増えてしまい、とても心配しました。妻は「行かないで。これは片道切符になる。逮捕されるよ」と。

でも、中国人は私の中国に関する知識を五十年間も尊重してくれているし、中国の将軍や提督の中には、レーガン大統領の時代に我々が中国に武器を売ったことを覚えている人もいるのです。中国の潜水艦のための最新鋭の魚雷や、大砲、レーダーを売りました。そしてあるチームは中国に行き、彼らの戦闘機が非常に原始的であることに気づいた。ヘッドアップディスプレイもなければ、燃料補給もできない。そこでアメリカ空軍は、中国の戦闘機五十機を改良したのです。

これらはすべて一九八〇年代のことで、ヘンリー・キッシンジャー、ニクソン、フォード、カーターの下で極端な親中政策をとった一九七〇年代が土台となっています。そのうちのいくつかは、政府の許可を得て私の本(『The Hundred-Year Marathon』、邦訳『China 2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』日経BP)の中で紹介しています。

そのひとつは、中国側が「もし北京に大使館を持ちたいのなら、台湾から核兵器を撤去しろ」と言ったことです。アメリカ側が「台湾の核兵器についてどうして知っているのか」と言ったら、彼らは「それは中国の領土の一部だ」と言ったのです。そしてどうなったか? 一九七四年、アメリカ政府は密かに台湾から核兵器を撤退させたのです。秘密裏に。ただし中国側は知っていました。

秘密裏の協力

台湾は興味深いことをしました。アメリカにも北京にも内緒で自国の核兵器を密かに開発し始めたのです。アメリカはこのことを知り、蒋経国総統に核兵器開発の中止について尋ねました。蒋経国総統がアンガー大使に「核兵器開発とは何か」と答えたのは有名な話です。総統は来月また会おうと言って、一カ月後に戻ると「これだ」と言った。こうして台湾は核兵器開発を中止し、アメリカは中国に「我々に感謝してほしいね」と言いました。『The Hundred-Year Marathon(百年マラソン)』は、アメリカと中国のすべての協力についての物語なんです。

しかし、今ではまったく違う。私たちはなぜあんなことをしてしまったのか。

キッシンジャー博士を始めとする、それを行った人々は、「百年マラソン」のような本を書き、〝スミマセンデシタ〟と言ったに違いない! 中国を大国に、少なくともナンバー2の大国に育ててしまったことをとても申し訳なく思っているに違いない。

いいえ、これらの秘密計画に関与したほとんどの人々は、それを告白していないし、間違いであるとも言っていないのです。このことは、今日のアメリカや東京の中国政策に影響を及ぼしています。米中間の秘密裏の協力の歴史を知らなければ、今日起きていることを理解することはできません。

一九七〇年代から八〇年代にかけての中国との秘密協力について、私たちは日本に伝えたのでしょうか。いいえ、伝えていません。「日本には言わないでください」と公式記録がそれを明らかにしています。では、英国政府にはどうでしょうか。英国政府とは特別な関係を持っているはずですよね。ニクソン・ライブラリー、レーガン・ライブラリー、カーター・ライブラリーを見ても、英国にも伝えていませんでした。NATO(北大西洋条約機構)の同盟国にも一切説明していませんでした。

インテリジェンスの失敗

なぜこういうことを述べるか。今日の最初のポイントは「インテリジェンスの失敗」だからです。インテリジェンスの「I」と失敗の「F」です。

CIA(米中央情報局)には欺瞞を担当する部署があり、どのような欺瞞が行われたかを突き止めます。そして法律では、重大な諜報の失敗を議会の上院情報委員会、下院情報委員会に報告しなければなりません。しかし、中国に関してはまだそれが行われていない。その失敗は徐々にゆっくりと起こっていて、一日、一カ月、一年、あるいは十年で起きたわけではないからです。三十年にもわたる失敗の歴史なのです。

今日のジャパン・タイムズ紙にニューヨーク・タイムズ紙の記事が掲載されています。とても重要な記事で、「中国」という言葉は出てきませんが、中国のジレンマ、中国の課題を理解するのに非常に役立ちます。

それは「なぜハマスがイスラエルの諜報機関に対し、これほど大規模な奇襲を成功させたのか」というものです。ニューヨーク・タイムズ紙は、イスラエルの三つの諜報機関について三週間かけて調査を行いました。すると、携帯電話の情報を収集する部署が一年前に「ハマスに脅威はない」と判断し、ハマスのテロリストの携帯電話の情報収集をやめてしまったというのです。記事の最後には、イスラエル兵に殺されたハマスの襲撃者の死体から、イスラエルが盗聴を止めた携帯電話の電源が入っているのが見つかったとあります。

国内情報収集機関であるシン・ベト(イスラエル総保安庁)の話もあります。彼らはハマスが和平合意を望んでいると考えていた。現在進行中のサウジアラビアとイスラエルの交渉のようなものです。大局的に見ればハマスは和平交渉に参加することを望んでいると彼らは考えていたわけです。だから、イスラエル側は情報を集めなかった。

そしてテロのまさにその晩、ハマスのテロリストが数人、国境を越えてやってくるのを、単純な演習で重要ではない、ネタニヤフ首相を起こすまでのことはない、と判断したのです。ニューヨーク・タイムズ紙の記者たちが明らかにしました。

第三に「テキーラ」というイスラエルの特殊攻撃部隊。本当に大きな脅威があるときに送り出す部隊です。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙によればその夜、「テキーラ」はほんの少数しか投入されなかったという。いわゆる重大な諜報活動の失敗です。

記事には、何回か警告があったにも拘わらず、ネタニヤフ首相は耳を傾けなかったと書かれているので、今後、調査が進むにつれて首相の座は危うくなるかもしれません。彼がこの諜報の失敗の原因なのでしょうか。

以上が第一のポイントです。これは問題提起です。我々も、日本も、NATOも、そして中国の近隣諸国も、中国の意図を誤解しているのではないでしょうか。大国になりたいだけで、国連を支持し、日本ともアメリカとも友好国であり、多少の摩擦はあってもそれ以上の野心はない。このように中国の野心のレベルは低いと言う人々は、正しいのか間違っているのか。

「ファー・チー・モウ」

二つ目です。人民解放軍などで現代中国語に訳されている戦略文書が二冊あります。彼らは「百年マラソン」も好きで、翻訳されていますが機密扱いで共産党員限定です。

中国独自の考え方の一つに「ファー(伐)」から始まる言葉があります。「ファー」は「対抗する」という意味で、『孫子の兵法』に繰り返し出てきます。二つ目の単語は「チー(其)」です。「チー」は「彼の」とか「彼らの」という意味です。最後が難しいんですけれども「モウ(謀)」。これを合わせると「ファー・チー・モウ(伐其謀)」となります。「彼の計画を阻止する」「彼の計画に対抗する」という意味です。

ヘリテージ財団の新しい中国研究のためにこの言葉を使いました。「Winning the New Cold War: A Plan for Countering China」で、「新冷戦に勝つ」「中国の計画に対抗する」ということです。つまり「ファー・チー・モウ」です。

この言葉は重要です。なぜなら、勝ちたいのであれば、まず相手の戦略を知らなければならないからです。相手がどれだけ大きいか、あちこちで何をしているかではなく、相手の戦略を知らなければならないのです。でもそれはとても難しい。相手が戦略を秘密にしていることもあります。ではどのように「モウ」をあぶり出すのか。

中国が我々に、少なくとも私にこう教えてくれました。中国は、アメリカがオバマ政権下で二〇一〇年、一一年、一二年に対中計画を立て始めたことを初めて察知した、と。中国はこの件でカート・キャンベルを非難したがります。彼は『The Pivot : The Future of American Statecraft in Asia』(邦訳『THE PIVOT アメリカのアジア・シフト』)という本を書きました。アメリカが対中計画を立て始めていることを察知したら、中国にとってこれは、秘密裏に協力していた時代からの大きな変化になります。

我々中国が「ファー(対抗)」できるアメリカの「モウ(計画)」とは何なのか。中国はそれを突き止める必要があったということです。

相手の戦略を知る

さて、舞台をハワイのホノルルに移さなければなりません。ワイキキビーチにはヒルトンホテルという大きなホテルがあり、毎年そこで国際戦略会議が開かれます。主催は太平洋軍かインド太平洋軍です。多くの将軍や提督がスピーチし、全国から集まってきた人たちがスピーチをしたり、セミナーを開いたりします。

インド太平洋軍司令部はホノルルに置かれていますが、そこには超極秘部隊があります。これは「J54(J five four)」と呼ばれています。「J5」はインド太平洋地域全体の戦略立案、政策立案、「4」は特に「戦争計画」を指します。

最近離婚し、非常に落ち込んでいる退役した陸軍大佐の写真がネットにアップされていますが、彼はいつも会議に来ていました。そこで彼は若く美しい中国人の女性を見つけ、彼女は「私はミス・リーです」と自己紹介しました。

ネットで「ベン・ビショップ」 「FBI」と入力すれば、私が何を言わんとしているのかすぐわかるでしょう。FBIによると、二人はロマンチックな友人同士になったという。これはFBI用語です。FBIは、その関係が一年続いていたことを突き止めます。

彼はこう述べました。リーさんはワシントンDCの大学で修士論文を書いていると言っていた。テーマは「アメリカの対中軍事戦略」。彼女は良い情報源が見つからず、とても悲しんでいた、と。

そこでFBIのインタビュアーが「リーさんに何を教えたのですか?」。彼はこう答えました。「アジアの核兵器計画、アジアにおけるミサイル防衛計画、アメリカ軍のアジアにおける配備計画」。最後にFBI捜査官が「彼女に渡さなかった情報はあるんですか」と聞いたら「いいえ、すべて渡しました」。まさに「ファー・チー・モウ」です。

FBIはそのリーさんを探し始めました。ワシントンDC周辺のすべての大学を探したのです。若く美しい中国人女性の大学院生で、アメリカの軍事戦略を研究している人がいますか、と。答えはどうだったでしょうか。わかりますよね。リーさんはいなくなった。痕跡もまったく残していなかったんです。

今日、中国の国際的な情報工作について書かれた良書がたくさんあります。

紀元前五〇〇年の本には素晴らしい考えが書かれています。毛沢東が若いころ、一九二〇年代に彼が初めて書いた主要な論文の中でそれを使っていました。

私が台湾で二年間学んだ中国語のクラスで最初に習った毛沢東の言葉は「だれが友で、だれが敵か」です。これは中国の革命を成功させるために最も重要な問題です。

そういうわけで世界中の国々を分析したようです。たとえば、どのシンクタンクが、どの国会議員、ビジネスマン、政府高官が、どのような見解を持っているのか。極端な親中派から極端に反中まで、スペクトルを作ろうとします。だれが重要で、どのような見解を持っているのかを正確に突き止めようとするのです。さらに増幅という言葉を使い、特定の人を増幅させる。だから二〇一〇年、一一年、一二年のオバマ政権の計画をリーさんが窃取してどこかに持ち去ったわけです。

中国が止まらなかったら

日本政府を含めて対中国で何ができるでしょうか。「ファー・チー・モウ」。計画に対抗する、計画を実行させないということです。その際、中国は、反中的な提案がなぜ良くないのかを説明するために、別のナラティブを展開することもあります。

この十年、十五年に何が起こってきたかといえば、役人やジャーナリスト、シンクタンクによる大量の中国批判です。百あるかはわかりませんが、少なくとも五十。五十は中国が行った悪いことが挙げられます。

たとえばウイグル人の大量虐殺です。トランプ政権やバイデン政権もウイグル人のジェノサイドに言及しています。これは非常に強い批判です。大量虐殺を行う国。そして何が起こったのか。四年にもわたる議論があり、最終的に「ウイグル人が作った綿花を買ってはいけない」という法律が通りました。しかし、これを強制するのはほとんど不可能です。ですからジェノサイドという告発はほとんど何もなかったことになります。

また、アメリカの核防衛は、ロシアや中国のICBMが北から飛んでくることを想定してレーダーもミサイル防衛も全部、北を向いています。しかし中国は突然、発表もせずにいわゆる軌道爆撃システムを実験するわけです。宇宙から軌道を外れて大気中に突入し、中国の望む方向から撃つことができるという実験です。つまり中国は南から撃つことができるということです。「ファー・チー・モウ」。すべてのアメリカのミサイル防衛は北に向いているわけですが、突然、中国は別の方向から攻撃することが可能になるということです。これはアメリカもアメリカの同盟国も無力化されてしまうということなのです。

中国は長い間、こう言ってきました。

「私たちは孔子を愛しているから、核兵器は二百発くらいしか持たないつもりだ。イギリスやフランスと同じくらいで、インドもそれぐらいは持っているんじゃないか。我々は道徳心があるから核戦力はローレベルで抑える。我々には美徳がある。ロシアやアメリカは核兵器を五千発、一万発、あるいは一万五千発も持っていた。だれが世界の道徳的なリーダーでだれがそうでないのかわかりますね」

国防総省が二年ほど前に発表し、去年も発表していますけれども、最初のニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、中国は核兵器をものすごい速さで製造しています。P5(国連安保理常任理事国)で、核兵器を(現在)製造しているのは中国だけです。

最初は二百発、三百発、もしかしたら四百発ぐらいと中国はそれほどの保有数ではなかったんです。しかし現在、中国に関する年次報告書での国防総省の予想では、いまのペースだと、一定の時間内にそれは千五百発に達するだろうとされています。その予想は中国が千五百発で止まることを前提としています。中国はいまのロシアやアメリカと同じリミットに達するだけだと言っているわけです。しかし、もしそこで中国が止まらなかったらどうなるのか。「孔子の教え」だけが彼らの専門でないとしたらどうなるのか。

「鬼谷子」

私が何年にもわたって中国軍の友人たちに尋ねた質問の一つは次のようなものです。「ご存知のように、日本でもアメリカでもヨーロッパでも、みんな『孫子の兵法』を崇拝しています。孔子と『孫子の兵法』は誰もが知っている本です」と言うと、中国軍の人は笑ってこう言うのです。「あなたはわかっていない。孫子は私たちが研究している数多くの戦略専門家の一人です」。

そこで私は「じゃあ、他に誰がいるんですか。次の本では、どのように戦略を教えているのか紹介したい」と言ったのです。すると彼らは「私たちが戦略をどのように教えているかをどうして知っているのですか?」と聞いてくる。私は「あなたたちの教科書を五十冊持っています」と答えました。「どうやって手に入れたのですか?」と聞かれたので「友だちがくれたんです」と。

孔子や『兵法』とは異なる戦略的な思想家の一例として、ある人物が挙げられます。英語では「The Master of Demon Valley」、つまり「バケモノ村の先生」で、中国で「GuiGuzi(鬼谷子)」と言われる人です。非常に秘密のベールに隠された人です。

弟子が二人いて、その弟子が中国という国をつくっていくために、諸国の連合をつくって相手と戦います(注/戦国時代の合従策と連衡策)。その戦いは紀元前二二〇年に終わりますが百年の戦いです。この鬼谷子の著書は、自分に対して形成されつつある連合にどう対抗して戦うかというテクニックを教えているわけです。「ファー・チー・モウ」です。相手の計画を見つけ出し、妨害する。

クアッド(Quad)は何をしようとしているのか。中国がクアッドに非常に興味を持っていることがわかりました。安倍晋三氏(最初はトランプ氏、次にバイデン氏)が、このクアッドの記者会見を行いました。中国は対中グループの結成だと非常に警戒したわけです。しかしその後、彼らはクアッドは反中国的な措置をとらないことを知ったのです。インドが反対しているため、プレスリリースには書かれていない。これは「バケモノ村の先生」のテクニックの一つです。この本の翻訳は探してもありません。

中国の戦略思想家は他にもたくさんいて、その著作は民間人にも軍人にもいまの世界秩序について教えています。要約するとこういうことです。

「いまの世界秩序は、覇権国家であるアメリカによって作られた。それは良い世界秩序ではない。公正でも公平でもない。世界の大多数の人々の利益を害している」

ではどういう事例があるのか。ある中国高官はこう言っていました。

「国連の専門機関は十六ある。我々は現在、四つの専門機関を管理している。もうすぐ五つになり、六つになる」

トランプ氏はこのことに気づきました。彼らが票を持っていたのは世界知的所有権機関(WIPO)と呼ばれるものでした。中国が世界の知的所有権泥棒(国)の中で最も多く盗んでいるという人もいるのに、なぜ中国がWIPOのトップを務めることになるのでしょうか。務めるべきじゃないですよね。トランプ氏が各国首脳に呼びかけたところ、別の候補がシンガポールから出て、中国は負けたのです。

そしてこのことは、彼らが新しい世界秩序を築こうとしているときに、もし私たち(アメリカ、日本、ヨーロッパなど)が(も)「ファー・チー・モウ」ができれば、中国が国連の十六の専門機関を(すべて)乗っ取るのを阻止できることを示しました。

これらの国連機関が何をしているかというと一八九〇年代からの世界政府です。郵便組合、交通機関、航空会社のためのもの、特許(知的財産権)のためのもの、世界保健機関(WHO)があり、一八八〇年代から九〇年代のグローバル・ガバナンスなど、長い取り組みの歴史があります。各国が協力し、主権を少し譲歩してきたわけです。

これらの組織の多くはジュネーブの大きなガラス張りのビルにあります。私たちの国を含む多くの国が、ジュネーブに、これらすべての専門機関に大使を置いています。しかし、私たちはこれにあまり注意を払っていません。彼らは郵便物や航空会社の安全に気を配り、世界中の警察がインターポールに協力しています。誰がインターポールのトップかご存知ですか? これも中国人です。彼(最近のトップ)は帰国して行方不明になったのですが。

「バケモノ村の先生」の時代から、私がハマスの携帯電話の話をしている今日まで、「ファ・チー・モウ」の伝統は続いているということです。

グローバル・サウス

二つ目に大きなポイントは、中国に関するインテリジェンスの失敗があれば、おそらくそれは最高レベルの失敗になるだろうということです。小さなことではありません。中国に毎朝七時半に照射するレーダー基地があるか、ということであれば、それは簡単にわかります。しかし、中国は世界の支配者になりたいと思っているか、となるとまた別の話になります。

というのも、中国の諜報機関や中国の友人たち(私はまだ大多数だと思うが)は、それは真実ではないと言うからです。中国にはそんな野心はない、「グローバル・サウス」のために、より公正な世界秩序を望んでいるだけだ、と。「グローバル・サウス」は中国が数年前に作った新しい、素晴らしい言葉です。日本は「グローバル・サウス」に属していると思いますか? いいえ、属していません。

「バケモノ村の先生」では、相手の連合よりも大きな連合を作りたいと考えています。より大きく、より強力に。中国がやっていることはまさにそれかもしれないのです。中国が主導する世界秩序を作ろうといま非常に静かに進めていますが、その一環として、グローバル・サウスに属さない国々(日本が良い例でしょう)を悪魔化し、中傷しています。

さて、先週の北京に話を戻します。私は無事に帰国しました。もし私が逮捕されていたら、皆さんは抗議したでしょう。しかし、私はそこで非常に興味深いことを学んだのです。私は会議に出席したのですが、そこで中国は非常に怒ったのです。その会議に彼らは五十のシンクタンクを招待していたので、国家基本問題研究所も参加すべきだったと思います。残念ながら日本からのシンクタンクは出席していませんでした。

この会議では、ヨーロッパのシンクタンクのほとんど、ドイツ、ハンガリー、スペイン、EU大使などが中国を一斉に批判し、中国が非常に怒ったのです。「あなたたちの中国批判はアメリカの指示だろう。アメリカによる威圧だ」と。そうかもしれない。

しかしヨーロッパはもっと怒りました。

「そんなことはない。アメリカが何を考えているかなんてヨーロッパには関係ない。我々は中国が本当に悪質な不正行為をしていると考えている。こんなことをしていては決して世界の道徳的なリーダーにはなれない」

未可決の対中法案

このようにヨーロッパ諸国、あるいは日本やアメリカに対するとき、中国の最大の関心は非常にシンプルです。これが三つ目の大きなポイントです。私たちはこれにどう対処すればいいのか。どのような行動を取ることができるのか。

十日前にヘリテージ財団の会長が、中国批判にはうんざりしているという記事を書きました。ヘリテージ財団は、五十以上の具体的な提言を盛り込んだレポートを作成し、議会でもすでにこれが話題になっています。

もう数年にわたり、議会でこういった提言について審議されてきたけれども、法律として成立したものはひとつもありません。そのため、誰もが中国批判を口にするという奇妙な状況になっています。先ほど、木原稔防衛大臣が(ビデオメッセージで)、中国に大国としてのあるべき姿を示すと仰っていたことでもわかるでしょう。具体的な行動なのです。

多くの上院議員や下院議員が「機密性の高い軍事施設の近くのアメリカの農地を中国が買わないようにする法律が必要だ」と言っています。米空軍はこれに苦言を呈していました。何人かの上院議員はテレビで「今日法案を提出した」と言っていました。

法案は通ったのでしょうか。いいえ、可決されていないわけです。

多くハイテク技術の中国への輸出規制が強化されたという記事をたくさん目にしたでしょう。日本の新聞でもたくさん報道されています。実際に何を阻止することができたのでしょうか。実は例外があるのです。中国企業が「エンティティリスト」、つまりブラックリストに載った場合、彼らは弁護士を使ってワシントンDCで異議を申し立てることができる。輸出品目によってはリストから除外することも可能なわけです。つまり、中国に対するアメリカの輸出規制は必ずしも強化されていない。こういう話は枚挙にいとまがありません。

ヘリテージ財団はチェックリストになるレポートを作ることにしました。財団には五十万人の会員がおり、一億ドルの予算があり、五百人の職員がいて、その多くが議会出身です。議員だった人もいればスタッフだった人もいます。これは現に何が起こっているかのチェックリストになります。

具体的な行動がない

東京やワシントンDCやロンドンの政府高官は「中国は本当に無責任なことをやっている」と言います。ヘリテージ財団に言わせてみれば、そんなことをいくら発言してみたところで時間の無駄でしかありません。私たちはもう十年も十五年も中国を批判してきました。あるいは中国に訴えてきました。「もっと優しくなってください。多くのチベット人を殺さないでください」と。でもこの十年で百六十人のチベット僧侶が焼身自殺をしています。ダライ・ラマ法王のインド亡命政府を支持する国は世界中にほとんどない。インドだけです。「一帯一路」はどうですか。これに反対したのはインド、モディ首相だけです。百八十カ国が賛同しているのです。

私は今日、ヘリテージ財団理事長のフラストレーションや怒りさえも反映しています。

ヘリテージ財団の理事長は外交政策に携わってまだ一年半で、テキサス州出身です。中国に行ったこともなければ、中国についてあまり知りません。その理事長でもわかるわけです。テレビを見ても政府高官は「中国のこれが悪い、あれが悪い」と言っているばかりじゃないか。それをやめさせる具体的な行動は何もなされていないじゃないか。

別の例を挙げましょう。この三十年から四十年の中国の秘密の成長は、世界貿易機関(WTO)加盟、関税の引き下げ、知的財産の窃盗などが一因であるように見えます。しかしもう一つ重要なのは、アメリカも台湾も、そして日本もある程度、中国のハイテク部門に巨額の資金を投資したことです。携帯電話や何でも作れるように。

中国人は非常に賢い。彼らは、日本、アメリカ、ヨーロッパ、台湾が投資できる分野、中国の長期的な利益になる分野、これらの企業が投資できない分野を選び出したのです。その結果、世界の時価総額トップ五百社で中国の企業はゼロだったのに、今ではほとんどが中国企業になっています。

世界の四大銀行は日本の銀行ですか、アメリカの銀行ですか、ドイツの銀行ですか。すべて中国の銀行です。これはほとんど知られていません。つまり、「ファー・チー・モウ」は成功しているのです。彼らはそれを否定しながら、新しい世界秩序を構築しています。中国を批判する空虚な言葉はたくさんありますが、これを聞くと彼らはたいてい笑っています。

麻痺していないか

もう一つ中国語を教えましょう。たった二つの単語ですが、とても不思議なものです。日本食には歯ごたえや甘さ、塩辛さがあります。アメリカのケンタッキーフライドチキンやマクドナルドの味もご存じでしょう。中国人は、塩辛くもなく、甘くも、酸っぱくもなく、苦くもない第五の味があると言います。麻婆豆腐にはこのスパイスが使われています。中国語では「ホアジャオ」と呼ばれる、その花椒を使うと舌がしびれます。

中国語ではこのしびれを表す言葉があります。「マー」です。舌が何の味も感じなくなる。それはイスラエル人とハマスの電話のようなものです。聞いていないのだから。

「マー」に続く二番目の単語として「ビー」があります。「ビー」は「防ぐ」という意味で、相手が何かをやることを止めるということです。「中国は百の意味で悪い国だ」と批判は言ってもいい。ただ、阻止しなければならない。

「マー・ビー」を英語に訳すと、麻痺を起こさせるということです。しびれによって麻痺を誘発する。面白い考え方です。では、この組み合わせで、中国が「百年マラソン」で成功する可能性はどのくらいあるのか。答えはもうわかっていますね。

中国は崩壊する。経済はひどい状態だ。習近平は本当に愚かだ。彼は中国経済をどん底に突き落とそうとしている。不動産は失敗。建物を立てすぎだ。中国にもう希望はない。もうすぐ崩壊するか、少なくとも大きく減速する。すべての指標がそれを証明している。

唯一の問題は、ブルームバーグのあるエコノミストが七年間中国に住んでいたことです。彼は最近『China: The Bubble that Never Pops』(トーマス・オーリツク著、邦題『中国経済の謎―なぜバブルは弾けないのか?』ダイヤモンド社)という本を書きました。彼は、中国はこのようなサイクルを五回も繰り返してきた、中国には準備金などがあり、共産党の権力もあるので、このサイクルから抜け出し、長期的な成長を続けることができる、と。

興味深いのは中国人自身、つまり中国の学者や政府高官が、外国人に対して「我々は崩壊する」と言っていることです。我々の経済は本当に深刻な問題を抱えている、アメリカを超えることはない、心配する必要はない、と。「マー・ビー」です。

私は、これがすべて真実であることを、本当に中国が減速していることを願っています。彼らが私たちを超えることは決してないでしょう。

トランプ大統領はテレビで何度も「もしヒラリー・クリントンが大統領だったら、二〇一九年の今頃、中国は我々を追い越しているだろう。私なら絶対にそんなことはない」と言った。ジョー・バイデンも同じことを言いました。「私が大統領である限り、中国が我々を超えることは決してないだろう」と。

もし中国が言っていることが本当なら、そして我々側のエコノミストのほとんどが言っていることを信じるなら、中国について心配する必要はない。でも本当なんでしょうか。

中国は私と私の本について批判しています。ある中国の将軍が、中国での秘密翻訳の序文を書いたんです。彼はヘンリー・キッシンジャーよりもピルズベリー博士の方が我々を助けてくれたと言っています。そして彼は武器の話をしているのです。

この本には、一九八三年以来、アメリカのCIAと中国の基本的にMSS(国家安全部)との協力の例を挙げています。たとえば、CIAは二十億ドル相当の中国製武器を購入しています。そして、それを世界中のさまざまなグループ、主にアフガニスタンのレジスタンスに提供しました。同時に、中国は我々から十億ドル近い武器を購入しました。

序文はこう続きます。

「彼は新しい中国を理解していない。本書は、孔子と道徳の追求のみを目指すわが国に対する彼の誤解を証明している。我々としては、いつか再び彼が中国の友人に戻ってほしいね」

今回、私は逮捕されることはありませんでした。妻は間違っていた。無事に戻れましたが、私はまた中国を訪れるべきでしょうか。いえいえ。
 
 

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