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2008.07.04 (金)

【提言】 三度(みたび)、米国政府の北朝鮮テロ支援国指定解除に反対する

平成20年7月4日
国家基本問題研究所

三度みたび、米国政府の北朝鮮テロ支援国指定解除に反対する

 
【提言】
1.指定解除は米国内法の違反である
2.日本は非核三原則見直しを含む独自抑止力の強化策を検討せよ

 
 
【本文】
 6月26日、米国政府は議会に対して、「北朝鮮をテロ支援国指定から解除する」と通告した。45日以内に議会が反対決議などを行わなければ「解除」が実行される。本研究所は今年1月に「北朝鮮のテロ支援国指定を解除するな」という提言を発表し、その後も、反論と緊急提言を発表して、同問題に強い関心を払ってきたが、このような結果に強い遺憾の意を表明する。
 1月の提言で本研究所は、米国国内法に定められている「その国の政府は過去6カ月間、国際テロを支援しなかった」という解除要件に北朝鮮はあてはまらない、と次の3点を具体的に指摘した。すなわち、

・拉致被害者が今も拘束されていることは、拉致というテロが継続していることを意味する。北朝鮮とテロ支援国シリアの核協力が事実なら、北朝鮮のテロ支援が継続していることを意味する。
・北朝鮮の核計画申告の十分な検証やシリアとの核協力疑惑の解明がないまま、北朝鮮のテロ支援国指定を解除することは、北朝鮮による核兵器保有と核拡散を許さないという国際社会の大方針に反する。
・北朝鮮のテロ支援国指定を解除することは、リビアのケースとは違う甘い基準を北朝鮮に適用することになる。

 今回の指定解除通告は、これらの問題がいずれも未解決のまま強行された。米国が自国の国内法の基準を大幅に曲げて、同盟国日本の信頼を損ねる行動を取ったことになる。加えて、今回の北朝鮮の「申告」は、核爆弾の数、核爆弾製造工場の場所、濃縮ウラン計画、シリアなどへの核拡散問題がすべて不明のままであり、「完全かつ正確な申告」(2007年2月13日6者協議合意)の要件を満たしていない。この状況下で指定解除をすれば、米国永住権保持者や日本人などを拉致していまだに抑留し続けているテロ国家北朝鮮の核武装を、米国が事実上、認めることになりかねない。
 このままでは日本における米国への信頼は失墜し、日米同盟を支えてきた人々を大いに失望させるであろう。上下両院の心ある議員を含む多くの米国人がすでに今回の解除通告に強い反対を述べている。わが国は彼らとのより強い提携を進めなければならない。
 しかるに福田首相は指定解除に関して、「核の問題が解決する方向に進むのなら、歓迎すべきだ」と語り、米国の政策変更に対して反対の意思表明をしなかった。その姿勢が、「同盟国日本を失望させてはならない」と解除反対を主張している米国人の発言力を弱める役割を果たしている。日本政府は現段階でも、米国政府と米議会に対し、北朝鮮のテロ支援国指定の解除が日本の米国に対する信頼を損ねることを説明し、解除に反対する意思を明確に伝えるべきだ。
 1月の提言で本研究所は次のように指摘した。

 日本国民が極めて重視している拉致問題で米国に裏切られれば、日本は将来、安全保障問題で米国に裏切られないとの確信を持てなくなる。換言すれば、日本は、米国が究極的な安全保障手段として日本に差しかけているとされる「核の傘」への信頼を失う。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は2007年11月16日の社説で、米国への信頼を失った日本が自ら核武装に動く可能性を指摘したが、米国への信頼が損なわれれば日本は自主的な抑止力を持つしかない。

 拉致問題の解決はわが国が主体的に行わなければならない。同盟国の支援はきわめて重要ではあるが、問題解決の責任はあくまでも日本政府にある。わが国は北朝鮮の拉致というテロに断固、対峙し続けるとともに、北朝鮮の核武装に対して非核三原則の見直しを含む独自抑止力の強化策を検討すべきときである。
 

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