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2009.10.14 (水)

【提言】 新政権への提言(経済政策)  

平成21年10月14日
一般財団法人 国家基本問題研究所

新政権への提言(経済政策)

【提言】
1.市場経済に対する確固たる信頼の上に立つ将来ビジョンを示せ
2.受益者負担の原則を貫き、中・長期的な成長戦略を策定せよ
3.恒久的政策の確かな財源を示せ
4.財政再建目標の設定と再建計画を策定せよ
5.規制緩和・構造改革の意義を再認識し、大胆に実行せよ

 
 
1.市場経済に対する確固たる信頼の上に立つ将来ビジョンを示せ
 21世紀の日本では、人口の減少、少子高齢化の進展、巨額の財政赤字に伴う経済的負担の増大は不可避であり、同時に、今後一層拡大すると予想されるグローバリズムに対峙しなくてはならない。この状況に対応するには、国際競争力を向上させ、持続的な経済成長による再分配のパイの拡大が不可欠である。
 しかしながら、新政権の経済政策は、一言でいえば、「成長なき再分配政策」であり、それ故に行き詰まった社会民主主義的な旧福祉国家の政策を思い起こさせる。歴史的に見て、市場経済はより多くの富を創造してきた。少なくとも、市場経済を凌駕する別のシステムはこれまでのところ見当たらない。現時点で、考えられる制度のうちでは市場システムが最も効率的である。
 確かに、市場競争は、近年、社会的・経済的格差を拡大させたが、より効率的な生産方法を創造し、それ以上に多くの果実をもたらしたことは明らかである。a
 持続的な安定成長への移行と少子高齢化に対応する社会保障を両立させる新たな制度設計、それを実現するための構造改革(高生産性部門への資源の移動)という二つの根本的な課題の解決には市場経済を深化させることが重要である。したがって、21世紀の日本経済のビジョンは、 市場経済に対する確固たる信頼の上に構築されるべきであり、その上で適正なセフティー・ネットを組み込む工夫が必要である。
 
2.受益者負担の原則を貫き、中・長期的な成長戦略を策定せよ
① 「脱官僚依存」だけでは、経済の再生への道筋は見えてこない。無駄をなくすことは重要であるが、それが再分配的な政策に支出されるだけでは、経済の回復も成長も困難である。供給面の強力な政策により潜在成長率を引き上げることが必要である。
② 「子育て支援」「高校の実質無償化」「高速道路の原則無料化」などの特定の個人もしくは団体へのバラマキ政策は、大きな経済拡大効果を期待できない。
 これらの問題は、「社会全体で負担すべきもの」と「個人で負担すべきもの」との価値の再構築を伴う根本的な問題であり、当然、将来ビションに関わる問題である。一時的な社会・経済環境の変動を理由に、安易で、なし崩し的な再分配政策は許されない。
③ マクロ経済政策(短期の景気対策、長期の成長政策)が欠落している。
 「子育て支援」などは「再分配」であり、新規の民間需要の拡大がない限り、景気回復どころか経済成長も不可能である。新規の需要創出には、大幅な規制緩和・構造改革による供給側の改革が必要であり、とくに農業や医療・介護分野などの構造改革が必要である。b
 今年度後半に向けて、経済状況の一層の悪化が懸念されている。現在、議論されているのは、ほとんどが新年度予算の問題であり、目の前の景気対策がほとんど示されていない。
④ 金融モラトリアム(貸し渋り・貸しはがし対策法案(仮称))は、市場経済を否定しかねない。貸付資金の原資の多くは預金であり、金融機関の業績悪化や破綻を引き起こした場合に公的資金の注入ともなれば預金者だけでなく、一般国民への負担の転嫁となる。
 また、日銀が、金融危機に対処するためにとっている各種の金融支援措置の終了時期や手順を探り始めたときに、この種の対策が実施されれば、自己資本比率規制強化と相まって信用収縮を引き起こすリスクは大きい。この問題は、政府系金融機関の貸し出しの増加や保証制度の改善で対処すべき問題である。

3.恒久的政策の確かな財源を示せ
 一時的財源と恒久的財源の区別が明確でない。一時的財源は、早晩尽きることは明らかであり、そのとき増税以外の財源があるのか。マニフェストに掲げた5兆円の埋蔵金は、消費税に換算すれば約2%に相当する。現在のところ、財源確保の目途が立ったものの多くは、前政権の大規模な補正予算の中止・中断から捻出したもので、本予算の組み替えによる大規模な財源確保はいまだ不透明である。「予算の組み替えによる無駄遣いをなくす」だけでは成長はできない。成長戦略を提示せず、中・長期的な財源確保の方策も明示しないのは無責任である。

4.財政再建目標の設定と再建計画を策定せよ
 財政再建なしでは、持続的成長への道筋は困難である。「無駄の削減」と「埋蔵金」は、新規施策の財源に充てるとしている以上、財政再建の財源は増税以外にない。四年間は消費税を上げないと明言しているので、最短でも、財政再建のスタートは2014年頃である。総合的な税制改革なしに、財政再建の実現は困難である。
 持続的成長への道筋を付けるためには、まず、基礎的財政収支の回復の目途を立て、早急に財政再建の目標とその実現計画を策定せよ。
 
5.規制緩和・構造改革の意義を再認識し、大胆に実行せよ
 民主党のマニフェストは、規制緩和・構造改革にはほとんど触れていない。グローバリズムの下での成長戦略の基本は、技術革新による新規需要開発、規制緩和、構造改革による競争力の向上にある。大きな需要の見込まれる農業や医療・介護分野の発展には規制の緩和に加え、補助金改革が不可欠である。
 本来必要な構造改革を矮小化すべきではない。効率と公平は決して背反しない。グローバルリズムの下で成長を持続するには効率を追求するのは必然であり、それによって得られた成果を再分配する公平基準についての社会的合意を形成することが重要である。
 


a 戦後の日本の名目国内総生産(GDP)および輸出と輸入は、ともに70年代までの30年間年平均+15%以上の成長を遂げており,この間の世界貿易額の伸び率も+12%以上であった。つまり世界貿易の拡大と軌を一にして日本は経済成長を達成してきた。そして,この自由貿易を背景に高度成長を実現し,日本を世界の経済一流国に押し上げた。経済復興を成し遂げ、経済活動が戦前の水準をほぼ回復したと言われる1955年当時、日本の一人当たり名目GDPは米国の1割程度に過ぎなかった。それから30年あまりを経て87年に米国を追い越した。日本の所得水準は、96年には米国を2割強上回り世界最高水準の所得を獲得するまでに至った。世界経済は、21世紀に入って年平均成長率7.9%と、1990年代の年平均成長率3.4%を大幅に上回る成長を示している。この高成長の大きな原動力となったのは、市場経済の拡大の下での貿易・投資の増加を通じた世界経済の一体化である。(通商白書1998年版、2008年版、世界経済統計2009年版)
b 財政支援を通じた負担軽減により、家計の可処分所得を増やすという成長戦略の論理には限界がある。可処分所得を持続的に増やすには、企業の収益拡大により、個人所得全体が増大することが基本的要件である。家計に対する負担軽減が消費を刺激し、企業の売り上げ増に繋がる可能性はきわめて小さい。ましてや年間約40兆円に及ぶ「経済全体の供給力」と「総需要」の乖離(GDPギャップ)(4~6月期水準)を埋めるには程遠い。