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2010.09.27 (月)

【提言】 中国人船長釈放に関する緊急提言

平成22年9月27日
一般財団法人 国家基本問題研究所
緊急政策提言

中国人船長釈放に関する緊急提言

 沖縄・尖閣諸島沖の日本領海内で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりした事件で、日本が中国の圧力に屈し、中国人船長を処分保留のまま釈放したことは、極めて遺憾である。軍事力を背景にした中国のこれ以上のごり押しを防ぎ、日本の領土主権と国益を守るため、当研究所は以下を緊急に提言する。
 
【提言】
1.政治家は今回の事件をもって戦後の国防体制を根本的に再考する機会にせよ

加えて、以下の当面の措置を取るよう求める。
2.政府は中国船による意図的衝突の証拠となるビデオ映像を公表せよ
3.政府は尖閣諸島に自衛隊を配置せよ
4.政府は「白樺」など東シナ海のわが国排他的経済水域内の天然ガス田の試掘を開始せよ
5.国会は外国船の違法活動を罰する法律を制定せよ

 
 
1.戦後の日本は、憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」に象徴される仮構の下に安全保障を考えてきた。しかし、この幻想は無残にたたき壊されたという今回の現実を直視すべきである。自衛隊を「普通の民主主義国家」が持つ「国軍」に改め、併せて世界でも有数の長大な海岸線を持つ国家らしく、海上保安活動の装備向上と強化を急ぐなど、戦後体制の根幹を改める方向を決める必要がある。国の代表である政治家には特にその自覚を促したい。

2.中国政府は9月25日の船長の釈放で矛を収めず、日本政府に謝罪と賠償を要求するというさらに高圧的な態度に出た。日本政府はこの理不尽な要求を断固拒否するとともに、船長逮捕の正当性を国際社会に訴えるため、中国漁船が海上保安庁巡視船に意図的に体当たりした証拠となるビデオ映像を公表すべきである。
 
3.尖閣諸島周辺海域には、海上保安庁が巡視船を常時配備し、定期的に航空機を哨戒させている。日本政府は平成14年に尖閣諸島の魚釣島、南小島、北小島を所有者から借り上げる一方、平成17年には魚釣島の灯台(昭和63年に日本の政治団体が設置)を国有財産とし、海上保安庁が保守・管理を行っている。日本は尖閣諸島のこうした実効支配を強化し固有の領土を守るため、尖閣諸島に自衛隊部隊を配置し、周辺海空域で自衛隊による警戒監視を実施すべきである。日本は自国領土を自ら守る決意を行動で示して初めて、米国に日米安保条約の尖閣諸島への適用を期待することができる。
 
4.中国人船長逮捕への報復として、中国は東シナ海のガス田「白樺」(中国名・春暁)の掘削を一方的に開始した可能性が高い。白樺の開発については、日本企業が出資の形で参加することで日中が2008年に合意し、出資比率を詰める交渉が始まったが、漁船衝突事件を受けて中断した。中国側の掘削が確認されるなら、日本も対抗してわが国排他的経済水域内の試掘開始に踏み切るべきである。
 
5.国連海洋法条約は領海における無害通航権を外国船に認めるとともに、無害でない通航として、武力行使または威嚇、兵器演習、情報収集行為、宣伝行為、航空機の発着や積み込み、汚染行為、漁業など12項目を上げている。日本の国内法では、外国漁船の操業については「外国人漁業の規制に関する法律」に、無害通航に当たらない不審な停留や徘徊に対しては「領海等における外国船舶の航行に関する法律」に、それぞれ罰則規定がある。しかし、それ以外の無害でない通航を取り締まる国内法は日本にない(今回の事件で、中国人船長は公務執行妨害容疑で逮捕された)。
 同様に、日本が主権的権利を有する排他的経済水域内での違法活動を取り締まる実効的な法令も整備されていない(「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」では不十分である)。
 そもそも自衛隊には領域警備の権限がなく、海上警備行動が発令されない限り、対応する法的根拠がない(諸外国の軍隊には領域警備の権限がある)。海上保安官の武器使用についても、海上保安庁法改正で多少改善されたものの、なお厳しい縛りがある。水産庁の取締船に至っては、放水銃しか装備していない。
今後、日本の領海と排他的経済水域を脅かされることがないよう、必要な法整備を図り、装備も充実させていく必要がある。
 
 日本政府は尖閣諸島が日本領であることについて、概略以下のような基本見解を発表している(外務省ホームページ)。当研究所はこの見解を支持する。

① 日本政府は1895年1月、尖閣諸島が無人で清国の支配下にないことを確認した上で、日本領に編入した。
② 1895年5月発効の下関条約に基づき日本が清国から割譲された台湾と澎湖諸島に尖閣は含まれていない。
③ 従って1951年のサンフランシスコ平和条約で日本が放棄した領土の中に尖閣は含まれていない。尖閣は南西諸島の一部として米国の施政権下に置かれ、71年の沖縄返還協定で日本に返還された。
④ 中国は70年後半に東シナ海の石油開発の動きが表面化してから領有権を主張し始めた。
⑤ 中国が領有権を主張する歴史的、地理的根拠は、国際法上有効な根拠にならない。

 菅直人首相は国際社会に対して中国側の主張の理不尽を指摘し、そのなりふり構わぬ恫喝に対して毅然と拒否する姿勢を貫くべきである。