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2020.04.20 (月) 印刷する

「有事に朝令暮改」のどこが悪い 有元隆志(産経新聞社正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 安倍晋三首相が武漢ウイルスの緊急経済対策として「減収世帯への30万円」の給付を取りやめ、「1人10万円」の現金給付を決めた。首相は4月17日の記者会見で「混乱を招いてしまったのは私自身の責任であり、国民の皆様に心からお詫びを申し上げたい」と謝罪したが、これに対し「朝令暮改」と批判する声がある。
 さっそく、朝日新聞記者は「お詫びを申し上げるということだが、(全世帯に配布する)布マスクや(歌手の)星野源さんとの(コラボ)動画でも批判を浴びた。ご自身ではどのように評価されているか」と追及した。おそらく、この記者らは仮に30万円給付が実行されたとしたなら、「減収した人の把握に時間がかかりすぎで、不公平感があるとの批判が出ている」と言い出したことだろう。

 ●墨守より軌道修正の判断力を
 減収世帯に対象を限定すると、どのように選定するか混乱が生じることは当初から予想されていた。著名な経済学者で米ハーバード大教授のグレゴリー・マンキュー氏も3月13日のブログ「Thoughts on the Pandemic」で、「本当に困っている人を特定するのには困難が伴うので、すべての米国人に1000ドルの小切手をできるだけ早く届けることから始めるのがよいだろう」と提案している。米国では現金を大人1200ドル(約13万円)、子供500ドル(約5万4000円)給付することが決まった。
 自民党内には10万円給付を求める声が強かった。にもかかわらず、支持母体、創価学会からの強い圧力を受けた公明党の要請を受ける形で首相が方針変更したことに不満がある。理解はできるが、一度決めたことを墨守するよりも軌道修正する判断力が残っているとみるべきだろう。「朝令暮改」を「臨機応変」「柔軟」「迅速」と言い換えれば印象が変わる。
 10万円の経済効果を疑問視する向きもある。それでも、「長期戦も予想されるなかで、ウイルスとの戦いを乗り切るためには何よりも、国民の皆様との一体感が大切で、国民の皆様とともに乗り越えていく、その思いで、全国すべての国民の皆様を対象にした」との首相発言が、この現金給付のねらいをすべて物語っている。

 ●批判や非難している場合か
 産経新聞の報道によると、党が了承した補正予算案が覆されたことについて、閣僚経験者は「党史に残る汚点だ。自民党が首相官邸の下請け機関になっている」と嘆いた、とある。この「閣僚経験者」には、月刊「正論」5月号の織田邦男元空将の論文を読んでほしい。織田氏は今の日本が「有事であり、国家の危機である」としたうえで、こう強調した。
 「平時と有事の最も大きな相違は、『一刻を争う』という時間的要求である。速やかな情報収集とリーダー(総理)の迅速な決断、そして何よりその決断を自主的、積極的に実行しようとするフォロアー(国民)の意識、行動が必要である」
 「閣僚経験者」や決定を批判している野党議員に申し上げたい。織田氏が提案するように有事へと頭を切り替え、批判や非難は差し控えてほしいと。織田氏も「事が収まった時こそ、真摯な反省と徹底した検証が欠かせない」と述べている。それまで「政治休戦」して、政府・与党、野党が一丸となって国難に立ち向かっていくことが求められる。自民、立憲民主両党ともスキャンダルが相次ぐなかで、いまこそ「政治の復権」を共に目指すべきではないか。