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2025.01.31 (金) 印刷する

『台湾の現状と今後の見通し』 産経新聞客員編集委員・矢板明夫氏

1月31日の一人目のゲストスピーカーは、現在台湾で印太戦略智庫(インド太平洋戦略シンクタンク)を設立した産経新聞客員編集委員の矢板明夫氏(国基研企画委員)で、現地台湾とオンラインで繋ぎ話を伺った。
矢板氏は最近の台湾国内の様子を中心に解説し、その後企画委員らと意見交換をした。矢板氏が語った概要は以下のとおり。

【概要】
〇最近の台湾事情

台湾ではいま旧正月を迎えているが、新年の挨拶で「萬事如意(全てうまくいきますように)」と言う。果たして現在の東アジアで全てうまくいっている人は習近平氏ではないか。韓国の大統領は捕まり、日本は政治的に親中的になった。台湾の国会は空転中で、日中関係が回復しており、中国に追い風が吹いている。

習近平氏は、中国包囲網が崩れてきたと見ている。なぜならトランプ政権は当初の予想では対中強硬政権だと思っていたが、実際の矛先はパナマ、カナダ、メキシコに向いている。結果として、習近平氏の独り勝ち状態に見えるのだ。

台湾では昨年の立法院(国会)議員選挙で民進党が大敗し、野党優位の中で第2野党の民衆党は国民党と一体化して、すべての法案は野党主導になった。2週間前に通過した予算案(政府提出の予算案は国会で削られる)は、通常は削られても2%程度なのだが事実上6%も削られ、過去最大の減額となった。台湾のNCC(国家通信伝播委員会)というメディア審査部署(中国の浸透工作を見張る)があるが、その予算は100%カットされた。手話通訳費さえ削られた。野党は政府の無駄遣いを見張るという目的ではなく、政府に仕事をさせないことが目的のようだ。

〇トランプ政権との関係
頼清徳政権の問題はトランプ政権との関係が希薄なことである。頼政権の価値観は、例えばLGBTを支持するなど、事実上米民主党左派に近い。トランプ氏を破ったバイデン政権誕生の際に台湾は真っ先に祝電を送った。また、トランプ氏暗殺未遂事件の際、直後の共和党大会に台湾も招待されたが、台湾国会議員は誰も行けなかった。逆にハリス候補を指名する民主党大会には出席したということも、トランプ氏に良くないイメージを植え付けたのではないか。頼政権がトランプ氏から良く思われていないと勘繰る台湾内では、いざという時に米軍は来援しないのではないかという対米懐疑論(疑米論)も出ている。

さて、台湾国会はいま野党多数なので野党が主導して運営されている。大きな問題は国防予算の大幅減額である。日常訓練や通信にあてる業務費は3割凍結、潜水艦開発費の5割、無人機開発関連費の3割を凍結したという。このままでは潜水艦に代表される重要装備品の開発に影響が出ることは疑いない。トランプ政権が台湾国防費を現在の3%から10%に増額すべしと主張している中で、国防予算が大きく減らされることは、実際の兵器調達に影響するばかりか、米国の不信感を増幅させるリスクを孕んでいるが、このような状況はしばらく続くであろう。  (文責国基研)