北朝鮮人権委員会のチャック・ダウンズ専務理事は11月11日、国家基本問題研究所で北朝鮮の拉致問題の現況について語り、同研究所の企画委員と意見交換した。ダウンズ専務理事の主な発言要旨は次の通り。
雲南省で消えたアメリカ人宣教師
すでに御承知のことと思うが、北朝鮮人権委員会は本日、拉致報告書の日本語版を発行します。いずれは韓国語版も発刊されるでしょう。この日本語版では拉致された横田めぐみさんの北朝鮮での写真を使っています。中国旅行中に行方不明になったアメリカ人、デービッド・スネドンさんの写真も掲載されています。スネドンさんは言語学者で、雲南省シャングリラ県(香格里拉県)の韓国レストランを訪ねた際、行方が分からなくなった。スネドンさんのケースは、これまで印刷メディアに報じられたことがない。失踪は極めて異常な状況の中で起きた。
スネドンさんは北京での語学コースを終え、友人と旅行中、離れ離れになり、峡谷をハイキング、その後訪れた韓国レストランで消えた。シャングリラ県は毎年、17万人の韓国人旅行者が訪れている・そのレストランとは、北朝鮮政府が何らかのコネクションを持っており、「何か変わったことがあったら、知らせてほしい」と頼んでいたとも考えられる。そこへ、中国語と韓国語を上手に話すアメリカ人が現れれば、「今、アメリカ人が来ている」との連絡が直ちに届いたと思われる。かくしてスネドンさんは拉致されたのではないか。
拉致報告書の英語版を出版
この報告書は私自身というより、事実上、当研究所の西岡力、島田洋一両企画委員の長年にわたる調査努力の成果である。多くの国の拉致被害者に対する広範な調査が行われ、拉致問題が取り上げられてきたが、これまでは日本の問題として扱われてきた。私としては、この西岡氏の調査結果を英語版を出すことによって広く世界に知らしめたい、と思っています。いずれタイ語版や中国語版も出版したいものです。
衛星映像で関係機関を特定
本日同行したのは、アメリカ人で、北朝鮮を訪れたことがあるカーティス・メルビンさんです。衛星映像の専門家で、北朝鮮の地勢、地図に通じており、北朝鮮のどんな場所や建物をも地図で示すことが出来ます。ほとんどの拉致被害者がいう東北里というのは、方角で、彼らが北朝鮮北東部の山中に住まわせられていたのかとも思ったが、そうではなく、金正日政治軍事大学の北東部にある地域のことだということが分かった。
だから、外国人らはそこに住み、毎日シャトルバスで大学まで通い、工作員に日本語などを教え、帰りも同じバスで同じルートを戻っていった。拉致被害者が皆、この東北里に住んでいたわけではなく、北朝鮮社会の中に入り込んだものも多い。工場のマネジャーになったり、地方に送られたものもいる。
(以下はメルビン氏の発言:2006 年以来、衛星映像を使って北朝鮮の政治、経済、軍事施設の地図化を進めている。北朝鮮からの脱北者や働いたり、住んでいた人びとから情報をとり、政府機関、工場、寺院、金正日総書記の邸宅など相当数の場所を映像上で特定化してきた。北朝鮮にいたことのある人々からもっと多くの情報を得ることによって拉致被害者が何処にいるかがもっと分かることになろう。私が見た、大人になってからの横田めぐみさんの唯一の写真は、彼女が教えていた金正日・政治軍事大学でとられたもので、恐らく彼女は近辺か、東北里に住んでいたと思われる。ゲストハウスは現存しているが、新たな情報はない)
米政府の「拉致」発言は慎重に
スネドンさんの件だが、今後アメリカの政府関係者は拉致被害者についての発言に慎重になると思う。かって北朝鮮核問題六カ国協議の米首席代表、クリス・ヒル国務次官補(東アジア太平洋担当)が拉致問題を軽視、片付けたような具合にはいかない。スネドンさんはモルモン宣教師として韓国で活動、韓国語を流暢に話した。ブリガムヤング大学は、米ユタ州にある著名な大学で、モルモン教会が運営しており、スネドンはそこで中国語を勉強することに決めていた。その前に、スネドンは北京の学校で中国語を学び、終了証書を取得している。そこに浮上するのが、寧辺科学技術大学と平壌科学技術大学の責任者だという朝鮮人牧師だ。
スネドンさんは北朝鮮の技術向上のための手助けをしていると思ったのだろうが、私はこの朝鮮人や大学が怪しいとみている。スネドン事件の数ヶ月前、雲南省から脱出しようとして、ある亡命者が暗殺されている。スネドンさんは韓国レストランから強制的にトラックの後部に乗せられ、国境を越えてビルマ(ミャンマー)に連行されたのではないか。
この 60 年間、中国で事件にあったアメリカ人のうち行方不明のままになっているのはスネドンさんだけである。あとは、遺骨や私物、パスポートが見つかり、死に至った経緯やどのように行方不明になったのか、多少の説明がつく。当時のアメリカの駐中大使はブッシュ大統領の個人的に親しい友人であり、中国政府に対し調査を求めたが、回答は「彼は我が国にはいない。なぜ消えたのか分からない。パスポートも遺骨も、何もない」というものだった。
アメリカは中国にもっと圧力を
米政府は、拉致よりも中国の難民対応に強い関心を寄せている。北からの亡命者は中国国内でひどい扱いを受けており、送還される。中国側は、国連難民高等弁務官事務所が責任を遂行すべきだと主張するだけで、雲南省などの地方の役人と北朝鮮との不正な関係を黙って見過ごしている。米政府は中国に対し、たえず圧力をかけ続けるべきだ。400 人もの中国人が北朝鮮に連行されているというのは、私には信じられない。朝鮮系中国人なので、中国には関係ない、というのだろう。
スネドン事件に対するアメリカ国内の関心は弱い。私はテレビに出演して語り、6月2日には米議会で証言したが、今のところ大きな反響はない。被害者の両親には、日本の拉致被害者家族も当初は同じような状況だった、と伝えている。
(文責 国基研)
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