かつて米大統領候補であったディカキス元マサチューセッツ州知事が中心となっているボストン・グローバル・フォーラムと称する定期的国際テレビ会議がある。平成27年4月には南シナ海問題を討議し、この時はハーバード大学のジョセフ・ナイやエズラ・ヴォーゲル教授も参加した。9月25日(金)にはサイバー安全保障に関するテレビ会議が行われ、日本側は中山外務副大臣、藤崎元駐米大使と筆者が参加した。
サイバー空間の平和と安全保障のための行動規範倫理
中山副大臣は、今年1月に生起したISIL(イスラム国)の日本人人質事件交渉に携わった体験から戦争の形態が国家対非国家主体に、手段が武力のみならずサイバー空間にも拡大している点を指摘した。
一方で米側の参加者はディカキス元州知事を始めとしてリベラルな傾向で、一日前にシアトルで行われた習近平の講演を額面通り受け止めていた。即ち「中国はサイバー安全保障の忠実な防衛者でありハッキングの被害者である。中国政府は商的窃盗・試みの奨励に如何なる形態でも関与していない。商的サイバー窃盗や政府ネットワークに対するハッキングの両方とも、法律と関連する国際協定に則って処罰されるなければならない犯罪である。国際社会は相互尊敬の基本に基づき、平和的に保障され、解放された協力的サイバー空間の構築に共に働かねばならない。中国はサイバー犯罪と戦うため米国とハイ・レベルの統合対話メカニズムを設定したい。」という講演の内容を読み上げていた。これを受けて米側は12月12日の次次会(次回10月12日は再び南シナ海問題)をサイバー安全保障日として行動規範倫理を作成するとしている。
行動規範倫理は機能する?
藤崎元大使は今年4月に更新された日米防衛協力の指針でサイバー空間における協力が盛り込まれた事、また来年度からマイ・ナンバー制度が導入され、さらに2020年の東京オリンピックに向けて日本のサイバー安全保障の取り組み強化の必要性を訴えたが、一方で行動規範倫理を作成しても自分達の手足を縛るだけで有効な安全保障強化の手段とはなりえないのではないか?と問いかけた。
筆者も中国は『孫子の兵法』虚実篇第六の「実を避けて虚を撃つ」に基づき、西側軍事システム最大の弱点である過度な情報システムへの依存を攻撃するため、ハード・キルとしての衛星破壊とソフト・キルとしてのサイバー攻撃を意図的に実施しているので行動規範倫理を定めても機能しないこと、また中国は2002年にも南シナ海でASEAN諸国と行動宣言を作成したが守らずに人工島・基地建設を行っており法的権限・強制力のない規範は作成しても意味がないこと、さらに習近平の講演は『孫子』計篇第一にある「兵は詭道(騙す事)なり」の基づいていることを指摘、攻撃側が常に有利なサイバー戦において日本の「専守防衛」という政策も限界に来ていると述べた。