許世楷・元台北駐日経済文化代表処代表は3月29日、国家基本問題研究所の企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと、現在台湾が直面するいくつかの問題点について意見を交換した。
台湾在住の氏は、現在の台湾情勢は風雲急を告げるという。
その第1は、昨年11月の統一地方選における与党民進党の大敗である。総統選にも重要な影響を持つ6つの直轄市(台北、台中、台南、高雄など)をはじめ13の県市の首長ポストのうち7つを失う敗北であった。敗因はいくつかあるが、台湾人自身の大陸に対する警戒心が減少していることや、国民党のメディア戦略が若者の心を捉えた結果とも言える。そもそも国民党の祖国は中国であるから、政党の交代は祖国の交代だということを、現代の若者は理解していない。
第2は、蔡英文総統の求心力が低い点である。総統就任以来、支持率が年々低下してきたが、1月の習近平演説に反発して、はっきりと外交姿勢を示したところ、支持率が約10%上昇した。ところが前行政院長で人気の高い頼清徳氏が次期総統選への出馬表明をするなど、同じ民進党内で分裂する予感がある。
蔡英文政権が2期目を目指すには、頼清徳氏の他、現行政院長の蘇貞昌氏もライバルとなることから、これまでの現状維持政策では、その先が見通せない。
第3は、米国のトランプ大統領の政策が台湾寄りであることは数少ない朗報である。たとえば、台湾関係法や台湾旅行法に見られる議会の動きや、台湾海峡へ艦船を派遣する米軍の動きは、大陸への牽制球になる。ただし、台湾の安全保障上の問題が最も影響する日本の動きが活発でないことが心配だという。今こそ日本が主体となって、自由で民主的な台湾を支援すべきと訴えた。
許世楷氏は、台湾出身。早稲田大学で修士、東京大学で法学博士を取得後、津田塾大学教授及び同名誉教授を歴任。帰台後の2004年から4年間、台北駐日経済文化代表処代表(駐日代表)を勤めた。
(文責 国基研)