加藤康子・元内閣官房参与は12月25日(金)、国家基本問題研究所企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員と意見交換した。
冒頭加藤氏は、明治日本の産業遺産を保存し正しく伝える活動をしてきたことに絡め、わが国自身が〝産業遺産〟として過去の遺物にならないか懸念を持っていると述べた。なぜなら、戦後日本の製造業を支えてきた自動車産業が危機に瀕しているからだ。その訳は、今月初頭に新聞1面を飾った「脱ガソリン車 2030年代半ば」という見出しにある。ガソリン車の販売を禁止して電動車に絞るというもの。電動車とは電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)などをいう。
昨年の新車販売のうち電動車の割合は4割だが、これを15年で10割にするとの目標はラディカルに過ぎないか。わが国GDPの中核は製造業で、自動車産業が占めるところは巨大である。ガソリン車を一気に全廃すると、関係するメーカー、燃料販売、中古車市場などが打撃を被り、1300万人が路頭に迷うという報道もある。
果たして、脱ガソリン車がカーボンニュートラルに貢献するのか、大いに疑問である。現在のガソリン車は燃費が向上している上、HVの併用で、CO2エミッションを相当抑えることができる。逆に、EVは電気を大量に消費するが、火力に頼る電源に問題が残る。
そもそも、EVのためのインフラ整備の目途もたてずに、このような政策を打ち出すのは、橋を壊してから、新しい橋を架けようとしていると見られてもおかしくない。脱炭素を目指すのであれば、長期的にEVも育てる必要はあるが、ガソリン車の〝即刻切り捨て〟は国力を削ぐだけではないかと、大いに懸念する。
一部のメディアでは、電動車をEVに置き換えて政府発表を報道したため、全車種をEV化するような誤解が生じてしまったことも付言しておく。
【略歴】
東京都出身、慶応大学文学部卒業後、国際会議通訳や米CBSニュース調査員等を経て、米ハーバード大学ケネディスクール政治行政大学院修士課程修了(MCRP)。一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事、筑波大学客員教授、平成27年から令和元年まで内閣官房参与を務め、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録に尽力した。現在は産業遺産情報センター長。
(文責 国基研)