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2021.11.22 (月) 印刷する

『「政軍関係」研究 論点と課題の整理』 堀茂氏

近現代史研究者の堀茂氏が11月19日、国家基本問題研究所企画委員会に来所し、櫻井よしこ国基研理事長をはじめ企画委員らと、意見を交換した。堀氏は、「政軍関係」を長年研究しており、今回はその論点と課題を整理し、今後の研究の方向性を提示した。

【概要】
まず、政軍関係に関する基本的な枠組みを提示する。政軍関係とは、文民の権限と軍事力との正しい関係(Louis Smith)、あるいは軍事の政治への制度的な従属(Samuel Huntington)のことである。また文民統制(Civilian Control)とは、民主主義国における軍事に対する政治の優先のこと。つまり、主権者である国民が選んだ代表を通じて、軍事に対して決定権を行使することで、政治的統制(Political Control)や民主的統制(Democratic Control)とも言われる。

ハンチントンによる古典的類型は、主体的文民統制と客体的文民統制に形態が分けられる。前者は文民が軍事を全て統制する場合であるが、軍隊の専門性が弱まる危険がある。後者は軍隊の政治介入を排し従属させる場合で、軍の専門性(professionalism)は高まり、国家の安全が保障される。ただし、軍に不可侵の専門領域を与える危険も内在する。いずれにしても、国内外の政治状況を見ながらバランスをとる必要がある。

現代社会における文民統制には、いくつか課題がある。たとえば、軍人の「政治的発言」はどこまで許容されるのか。軍事的見地からの政権批判は否定されるのか。あるいは、文民指導者が軍事力行使を決断する時、政治目的と軍事目的との整合をとる能力があるのか。抑々、統制する側の文民指導者に軍事的合理性を理解できるのか、など山積する課題は、主要国では話題に上る。

ところが、わが国では警察予備隊発足以来、これらの問題を全て忌避してきたのではないか。たまに、自衛官の「政治的発言」が譴責の対象になるが、それさえも的外れなものだった。抑々、国内法的に軍隊でない自衛隊に文民統制は必要なのか、必要とするなら現憲法下での有効な統制は可能なのか、軍事作戦の全てに政治が責任を取れるのかなど、今後公の場で議論が進むことを望む次第である。
 
【略歴】
昭和31年生まれ。立教大学経済学部卒、杏林大学大学院博士課程修了。現在は国基研客員研究員、日本経綸機構代表理事代行を務める。著書に、『昭和初期政治史の諸相』『天皇が統帥する自衛隊』『「無脊椎」の日本』(いずれも展転社)がある。
(文責 国基研)