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2023.09.25 (月) 印刷する

「日本の国体について考える」 憲法・皇室法研究家・田尾憲男氏

憲法・皇室法研究家の田尾憲男氏が、9月22日(金)、国基研企画委員会にて、「日本の国体について考える」と題して講話し、櫻井よしこ理事長を始め参加した企画委員らと意見交換をした。概要は以下のとおり。

【概要】
●国体とは何か
「国体」という言葉の意味は、語義的には国家の形、体裁、国柄、あるいは国家の基本的性格、体質だが、法学的には統治権または主権の所在によって区別された国家の政治形態である。これは英語ではconstitution(国家構造、憲法、国体法)という語があてはまる。それぞれの国にそれぞれ特有の国体があり、同じ君主制の国イギリスには伝統的な国体が、新興の共和国アメリカにも建国精神に基づいた国体がある。ちなみに君民対決の歴史を持つイギリスはKing in Parliamentに主権があるとされる。

国体の概念には便宜上二つの側面、すなわち政治の様式や国法の面(主権者に着目)と精神的文化伝統面(精神、宗教、道徳倫理などに着目)から見て明らかにする必要がある。しかしこの二つは相互に影響し合って表裏一体をなしている。

●わが国の国体の特色
日本には他国に見られない神武建国以来の長い歴史伝統に基づく誇るべき国体があり、その特色を端的に表現すると以下のとおりである。
・万世一系の天皇統治:皇位は世襲で、男系継承は不文の大法、血統の一系は霊統の一系
・祭政一致の天皇統治:皇位は皇祖神に対する祀り主でその祭祀は国家統治者としての祭祀
・君民一体の天皇統治:公民による公議公論と臣下の輔弼による独裁専制なき君民の共治

●天皇と国体に対するGHQの巧妙な改変工作
大東亜戦争の敗戦後、連合国軍総司令部GHQが絶対的軍事力を背景に日本の国家構造を大変革した。

憲法においては第1に、国体条文といわれた帝国憲法第1条「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」が削除され、天皇の地位は「元首にして統治権の総攬者」から「日本国と国民統合の象徴」へと根本的に変えられた。第2に、皇室典範が憲法より下位の一法律とされ神器や大嘗祭、元号などの大事な祭祀条項が消された。第3に、「国政に関する機能」が剥奪されて天皇の果たす役割が形式的儀礼的な「国事行為のみ」に限定された。

それで帝国憲法改正により「国体は変更されたか否か」をめぐって論争が繰り広げられることになった。政府は憲法の統治権問題については変更を認めざるを得ないが、精神的な国体は変わらないと主張したが、貴族院議員で京都帝国大学の佐々木惣一博士は、憲法が変われば精神的倫理的国体も変わる。将来的にはいずれ変更されるであろうと主張して改正反対の立場から警告した。ちなみに法的革命説を唱えた東京帝国大学の宮澤俊義博士は、明確に国体は変革されたと主張した。

加えて、さらに国会において教育勅語が廃止されたことで国民の道徳規範が喪失し、「国民の祝日に関する法律」の制定で国体に大事な「紀元節」や「明治節」「新嘗祭」が廃止されるなど、天皇・皇室・神道と国民生活との結びつきが希薄となった。大學の憲法教育でも宮澤流解釈が主流となり、国体護持の精神の稀薄化が憂慮されるところだ。

●今後の課題
当面の最大課題は、先の有識者会議の答申をもとに、安定的な万世一系の皇位の護持に向けて皇室典範の一部改正に早急に着手すべきであり、現政権には最大の注力を望みたい。

また憲法改正に当たってはGHQによって打ち崩された明治憲法の精神に一旦立ち返って検討するべきである。明治の先人が諸外国の憲法を参考にしながらも、神武天皇建国以来のわが国の歴史伝統に基づく国柄を大事にして、君民一致で作り上げた帝国憲法の立憲精神こそ、現憲法改正の指針とすべきだ。

例えば第1章の天皇条文中に見られた緊急事態に関する条文と軍事に関する条文が現憲法から欠落している。しかしこの二つはわれわれ国民の安寧と幸せ、日本国の平和を維持存続していくためには、なくてはならない必須の憲法規定なのである。

余談だが、今では護憲派と言われてきた憲法学者の中にも、軍備の保持を憲法上で承認するならば、全国民が何らかの形で軍に関与していく必要があると主張する人も出てきている。あえて「専守防衛」のためというなら、国民全部で公平に防衛義務を負担することになる。突き詰めれば「徴兵制」の議論にもなるが、改憲派にはその覚悟と真剣さがあるのかと問うているのである。なかなか興味深い主張である。

【略歴】
昭和17年(1942年)、香川県三豊市生まれ。東大法学部卒、英サセックス大学で経済学を専攻。42年、日本国有鉄道入社、現在、鉄道情報システム(株)特別顧問。
著書に『英国と日本』、共著に『御代替わり 平成から令和へ、私たちが受け継ぐべきもの』『日本人の底力:コロナ禍で問われる日本の針路』など。

(文責 国基研)