公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

最近の活動

  • HOME
  • ニュース
  • 「台湾立法院で今起きていること」 産経新聞客員編集委員・矢板明夫氏
2024.06.25 (火) 印刷する

「台湾立法院で今起きていること」 産経新聞客員編集委員・矢板明夫氏

産経新聞客員編集委員で前台北支局長の矢板明夫氏(今回新たに国基研企画委員に就任した)が企画委員らと意見交換をした。矢板氏は1月13日に行われた台湾総統選について解説して以来の来所で、今回はその後の台湾情勢の変化として立法院での与野党攻防を中心に語った。その概要は以下のとおり。

【概要】
本日6月21日は、朝から台湾立法院(国会に相当)で国民党が推す立法院改革法案が山場を迎えた。定数113議席の立法院の構成は、国民党52議席、民進党51議席、民衆党8議席で過半数は57議席、民衆党が国民党寄りの現在、過半数を占める野党が立法院を支配している。そのような状況下で先月28日、立法院の権限を強化する法案が民進党の体を張った抵抗も甲斐なく賛成多数で一部が通過した。

その後、行政院(内閣に相当)が「実質的な議論がなく、民主主義の原則に違反する」などの理由で審議のやり直しを求める再議案が決定され、立法院に戻された。

本日(6月21日)は、差し戻された議案を維持するか失効させるかを決める採決の日である。立法院周辺では複数の市民団体が抗議活動(いわゆる青鳥行動)を行い、50以上の団体が抗議の共同記者会見を開いた。

そもそもこの法案では、総統による立法院への国政報告が義務化され、公務員の虚偽陳述などを処罰できる規定が創設され、さらに立法院が適切と判断した情報の開示を軍隊・民間企業・個人に求める権限が立法院に付与されるという。

立法院の権限を拡大する今回の法案を解釈すると、総統を立法院で詰問できるようになり、官僚が議会で答弁するとき議員に逆質問すると国会侮辱罪になり、さらに議員が軍事産業の情報を自由に開示できるようになる。つまり、立法院で過半を持つ野党国民党が安全保障を含め国政を左右できることになる。

4年に1回の総統選挙の直後は本来なら静かな時なのだが、上述のとおり政界には大きな波乱が起きている。今回は国民党系の野党が過半数を持ったことで野党提出法案が容易に通過する状況である。過半割れ与党は形骸化しつつあるとも言える。

民進党が抵抗する最後の手段は、法案が憲法に違反するかについての訴訟を提起することである。司法院大法官会議(憲法裁判所)に違憲審査を求めることができるが、予断を許さない状況は続く。

さて、立法院の勢力図が変わらない限り最大野党提出の法案が通過する可能性は高く、次々と提出される法案にも注意すべきである。

その一つが国民党による国籍法改正案である。今は台湾人と中国人が結婚すると6年後に台湾の国籍を得られ、中国から家族を呼び寄せることが可能になる。この期間を4年に短縮しようというのが国民党。台湾には独身者が多いので中国人配偶者が急増する可能性があり、あっという間に台湾が中国化する。

今回の総統選では国民党候補者との差は100万票しかなかった。現在台湾在住の中国人配偶者は30万人~40万人いるので、4年後の次の選挙は分からなくなる。

加えて、台湾では不在者投票を行っていないが、国民党は不在者投票法案を提出した。これまで海外在住台湾人は皆帰国して投票してきたのだが、そもそも政治に対して感度が高い国民なので、総統選挙の投票率は75%と高い。それでも国民党が法案を提出する理由は、中国在住の台湾人へ投票権を与えることである。現在中国には台湾人が約100万人いるとされ、これら海外在住台湾人が投票すれば国民党有利に働くことが容易に想像できる。

先月中国が聯合利剣2024Aという軍事演習をしたが、その後も中国の民間船が亡命を装い台湾の河川に進入したほか、台湾海峡中間線近くで潜水艦が急浮上するなど、嫌がらせのような揺さぶりを続けている。台湾海峡は決して穏やかではない。

中国の対外膨張に日本は脆弱で弱腰であるが、台湾では日本への期待値が高い。ウクライナ戦争で見せているポーランドの積極的な活動と重ねている人たちもいる。日本人は覚悟をもって台湾危機に対処すべきである。

(文責国基研)