令和7年1月21日(火)、国家基本問題研究所は、定例の月例研究会を東京・内幸町のイイノホールで開催しました。
今回は、終戦後80年(昭和元年から100年)という節目の年頭にあたり、「令和7年日本の展望」と題して各方面の有識者から率直なご意見をいただきました。登壇したのは、米国の視点から藤崎一郎・元駐米大使、中国の視点から大野旭・静岡大学教授、朝鮮半島の視点から西岡力・麗澤大学特任教授、そして櫻井よしこ理事長というメンバーで、会場の参加者とともに議論を深めました。
簡単な概要を以下に紹介します。
【概要】
冒頭、次のような登壇者からの発表を皮切りに研究会は展開した。
藤崎氏:第2期トランプ政権がスタートした。1月20日の大統領就任式が世界に与えた印象は、直球で国益になることを判断し、オセロのように政策をひっくり返す、トランプ氏の政治姿勢である。中国、北朝鮮、ロシアに接する令和7年の日本は、このような米国と付き合っていかなければならない。
前バイデン政権の政策を否定するトランプ政権が今後進める政策は、様々な影響を国際社会に及ぼすだろう。例えば温暖化対策に関し、米国がパリ協定から離脱すると、グローバルサウスとの関係で、欧州や日本が米国を肩代わりすることになる。
パナマやグリーンランドの問題は、仮に力による現状変更を米国が行えば、中国やロシア同様と見做す西側同盟諸国からの反発により、西側の分断を招くだろう。
日本はトランプ政権の良さを認めながら、上手く付き合っていくしかない。米国との関係を強化するためには、まずは日本国内で力を蓄えることである。例えば安全保障面では統合作戦司令部創設で米国との作戦面での協力関係が進化することは重要な力となる。大事なことはまず国内を固めること、そしてトランプ氏の発言に一喜一憂せず淡々と日米外交を展開することではないか。
大野氏:モンゴル出身者として中国との関わり方を論じてみたい。中国の指導者・習近平氏の目標は「中華民族の偉大な復興」。しかし、民族学的に見ると中華民族という民族は存在しない。中華民族は単なる政治用語、スローガンである。14億の漢民族が支配する中国を復興するということは、モンゴル人、ウイグル人、チベット人など他の民族を、漢民族化することを意味する。漢民族により大中華を作ることは「中国の夢」でもある。その目の前にある目標が台湾。台湾が中国に戻ってくることで、偉大な復興が成就する。
その中国の手法は、まず内陸を固め、次に海に向かうこと。海の先には格好の標的・日本がある。例えば沖縄を日本の弱点と見るや、そこに付け入る。中国の大連に琉球研究センターができたが、沖縄ではなく琉球という名称をわざわざ使い、琉球独立を煽るような嫌がらせを展開する。北海道でも、高級リゾートを買い占め、そこに中国人を定住させる。これを「砂を混ぜる」戦術と呼ぶ。これは毛沢東氏がモンゴル、チベット、新疆に対し行った、漢民族を現地住民と混交させる施策と同じで、人民を武器として他民族を侵略する手法の一つ。
その他、地方の市町村との友好関係、地方の中小企業との提携など、中国の得意とする「農村から都市を包囲する戦術」も進める。また統一戦線の世論工作も日中友好議連などを通じて行われることにも注意を払う必要がある。
これらの戦術により、中国は戦わずして日本に勝利を収めるのだ。1989年の天安門事件の際、真っ先に制裁を解除した国が日本である。だから中国は日本を与し易い国と見る。対する日本は、友好だけが日中外交でないことを肝に銘じ、中国に厳しい姿勢を貫き通す気概を失ってはならない。
西岡氏:いま朝鮮半島の現代史が大きな転換点を迎えている。これまで南北二つの勢力が正統性を争ってきた。その中で昨年、北朝鮮が負けを認めた。つまり金正恩氏が、韓国は同じ民族ではない、統一はしないと言ったのだ。韓国内の主体思想派(過激な従北民族主義者)は梯子を外された格好となった。
すでに北朝鮮内では韓国の豊かさが人民に知れ渡っている。そのため、金正恩氏は物理的に情報を遮断するため、壁を作り、道路や鉄道を封鎖した。しかし流れを巻き戻すことはできなかった。
しかし、いよいよ韓国が北朝鮮に勝利するかというタイミングの昨年12月、尹大統領が非常戒厳を発布するという事件が発生した。韓国の憲法では戒厳令を出す権限が大統領に与えられているが、国会の議決が必要であり、その手続きを無視して戒厳令を敷き、結局韓国内を大混乱に陥れてしまった。この状況は東アジアの政治的安定を損なうものである。
朝鮮半島がますます不安定化している現状に、日本はどう対応するか、現石破政権は正念場を迎えている。
会場からの発言を含めたその他の論点は以下のとおり(抜粋・順不同)。
・日本は信頼できる国だという外国からの評価は素直に受け取るべき。
・中国と北朝鮮の関係は敵対的ともいえるほど良くない。
・いま大事なことは憲法改正。今の憲法では現下の状況を乗り切ることはできない。
・全ての国に当てはまるが外交は国益第一だ。日本の政治家にそれを期待できるのか。
・グリーンランドやパナマの背後には中国がいることを忘れてはならない。
・謝罪を繰り返す戦後80年談話はいらない。
櫻井理事長:三人のお話から日本がまさに危機的状況にあることを再認識した。
日本が中国に取り込まれつつある現状は看過できるものではない。既存の国際秩序を破壊しようとする中国は、トランプ政権誕生で更に西側から疎まれるようになる。その中国は現状打破のため、与しやすい日本を篭絡しようと仕掛けている。令和7年、これからの1年が日本にとって山場になることは間違いない。
いまこそ、自主独立のためあらゆる努力を惜しまなかった幕末の侍精神、国のために奉仕する祖国愛、そのような気概を国民一人一人が持つことが重要。そのため国基研を学びの場として、その成果を広く発信していきたい。(文責 国基研)