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2008.05.26 (月)

【提言】 政府は、米国務省が北朝鮮の欺瞞的核申告を認めないよう強く警告せよ 「完全な核申告」がなされる前のテロ国家指定解除は日米同盟への裏切りだ

平成20年5月26日
国家基本問題研究所

政府は、米国務省が北朝鮮の欺瞞的核申告を
認めないよう強く警告せよ

 
【提言】
北朝鮮が米国に伝達したとされる核計画申告に、プルトニウム爆弾製造工場の場所がふくまれていないことが判明した。にもかかわらず米国務省はそれを「完全な」核計画申告と認めてテロ国家指定解除に動こうとしている。わが国政府は、このような欺瞞に徹底的に反対し、安易な妥協は、米国が北朝鮮の核武装と拉致を容認することになり、日米同盟を根本から揺さぶると強く警告すべきだ。

 
 
【基本的視点】
・米国務省は、濃縮ウラン、核拡散(対シリア等)について、北の実質的なゼロ回答を容認している。
・さらには、プルトニウムに関しても、「抽出量」という一点に問題を矮小化している。それは、5月2日、クリストファー・ヒル国務次官補が、北朝鮮から核爆弾製造工場の場所について情報を得ていないことを認めたことでより明瞭となった。
・内外の宥和勢力は、核問題で着実な進展があるのに、拉致にこだわる日本人が足を引っ張っている、との構図を描こうとしている。
・しかし、いまの局面で問題なのは、「完全な」核申告がないのに、米政府が、テロ指定解除など見返り提供に踏み切ろうとしていることだ。
・高村外相は7日、「核製造工場の場所が出てこない限り完全な核申告ではない」と答弁した。
・わが国政府は、無原則な妥協に走らないよう米政府に強く釘を刺すとともに、仮に曖昧な申告内容で米朝が合意し、六者協議の場で承認を求められた場合、単独でも署名を拒否せねばならない。

 2008年5月2日、ワシントン訪問中の拉致議連・家族会・救う会訪米団(当研究所の松原仁理事、島田洋一企画委員も参加)が、六者協議米側代表クリストファー・ヒル国務次官補と面談した。
 席上、松原議員が、「核計画の完全申告というが、きわめて重要な核爆弾製造工場の場所について、情報を得ているのか」と質問し、最終的にヒル氏から、「いや、得ていない。それは問題点の一つだ」(“No. That’s a problem.”)との回答を得た。
 これは非常に重要なポイントである。
 六者合意「共同声明の実施のための第二段階の措置」(2007年10月3日)は、北朝鮮に「すべての核計画の完全かつ正確な申告」を義務づけている。申告には、大きく分けて、プルトニウム、濃縮ウラン、核拡散の三側面がある。
 いま米国務省は、濃縮ウラン、核拡散(対シリア等)について、北の実質的なゼロ回答を容認し、さらには、プルトニウムに関しても、「抽出量」という一点に問題を矮小化しつつ、テロ支援国指定の解除に進もうとしている。
 が、例えばプルトニウム爆弾製造工場の場所、核爆弾の数・形状・保存場所などは、当然、「完全な申告」に含まれねばならず、申告が「正確」か否かの検証には、現場への立ち入り調査、サンプル採取などが不可欠だ。
 わが国内外の宥和勢力は、核問題で着実な進展があるのに(そして、それは日本の国益にも適うのに)、拉致にこだわる日本人が足を引っ張っている、との構図を描こうとしている。
 しかし、いまの局面で問題なのは、「完全な」核申告がないのに、米政府が、テロ指定解除など見返り提供に踏み切ろうとしていることだ。そもそも、核申告の対象に「すべての核施設」が含まれることは、国務省自体が10月3日の6者合意の際に発表したファクトシートで、明記していた。
 拉致問題が解除の条件になる、ならない以前の問題なのである。
 松原議員は帰国後、衆議院外務委員会(5月7日)において、「ヒル氏は北の核爆弾工場の場所をつかんでいないと認めた。そのことを政府は米側から聞いていたか」と質している。
 これに対し高村正彦外相が「聞いていたかどうかと言われると、聞いていない。ただし、最終的にそういうものが出てこない限り、私としては完全な核申告ではないと思っている」との趣旨を答弁した。
 当然の認識といえよう。
 日本政府は、無原則な妥協に走らないよう米政府に強く釘を刺すとともに、仮に曖昧な申告内容で米朝が合意し、六者協議の場で承認を求められた場合、単独でも署名を拒否せねばならない。
 核爆弾工場の具体的場所等が書き込まれていなければ、一目瞭然、検証作業に入るまでもなく、申告書の「不完全」は明らかであり、決断に時間がかかる話ではない。
 北朝鮮の中距離核ミサイルによって、最も脅威を受けるのは日本である。核問題に関するわが国政治家の見識が問われる局面といえよう。