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2009.07.21 (火)

ウイグル事件を受けて、緊急アピール

平成21年7月21日
一般財団法人 国家基本問題研究所

国連調査団を派遣せよ
ウイグル事件で沈黙は不可解―国基研が緊急アピール

 
 新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)ウルムチ市で7月5日午後7時(日本時間午後8時)頃、事件が発生した。
 ウイグル人学生らは、反政府活動ではないことを示すために中国の国旗を振りながら集まり、6月26日に広東省韶関の玩具工場で発生した事件についての説明を政府に求めた。玩具工場ではウイグル人約600人が8000人を超える漢人と働いていた。そこに、「工場では恒常的に漢人の女性がウイグル人に集団で犯されている」との事実無根の情報がインターネットなどを通じて広がり、激昂した漢人労働者が鉄棒などで武装して少数派のウイグル人労働者を襲撃した。
 犠牲者について中国当局は2名と発表したが、海外ウイグル人らは60~100人と主張する。
一方、被害を受けたウイグル人の多くが公安当局に隔離され、外部との連絡は、事件からひと月近く経った7月20日現在、遮断されたままだという。そもそも彼らがウイグル自治区から遠く離れた広東省で働いている背景には、中国政府によるウイグル人の若者らへの「強制」があるともいわれる。
 ウルムチに集った学生や若者らは武装警察により解散を命じられたが応じず、短時間にウイグル人、漢人、武装警官と公安が入り乱れて相互の襲撃へと激化した。多数の死傷者を出した惨劇について、玩具工場での事件同様、中国当局とウイグル人の主張は大きく隔たる。
 中国当局は、死者は197名、漢人の犠牲者が約70%の多数を占めると発表。対して、亡命ウイグル人で構成する世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長は、ワシントンでの記者会見で「ウイグル人死者は少なくとも1000人、最大で3000人に及ぶ」と抗議した。
 主張の相違は犠牲者の数にとどまらない。中国外務省は同事件を当初から「国家分裂を目的とする暴力事件」と位置づけ、7月7日には、「世界ウイグル会議やラビアを代表とする国外の分裂勢力が参加し、煽動・企画した事件」と断定、九日には「これらの者(事件首謀者)は、アル・カーイダのようなテロ組織の訓練を受けていた」と発表した。
 カーディル議長は、「私は抗議活動を組織していない。人々にデモも要請していない」と全否定し、アル・カーイダ系のイスラム過激派が中国への「報復宣言」をしたとの情報に関して明確に語った。
「国際テロ活動家が、ウイグル人の正しい願いや東トルキスタンでの事態を利用し、中国外交団や民間人をテロ攻撃してはならない」。
 氏の主張はあくまでも平和路線である。
 他方、イタリアサミット出席を中止して帰国した胡錦濤国家主席は、直ちに社会の安定確保を至上命題とする対策を打ち出した。その柱は、事件の首謀者らには厳罰を、煽動された者には教育を、被害者には補償を、の3方針である。「首謀者」と「一般」のウイグル人を分け、穏健派を含むウイグル人組織に「テロリスト」「アル・カーイダ」のレッテルを貼る内容である。
 一般のウイグル人に徹底される教育は、ウイグル語も彼らの宗教のイスラム教の学習も、禁止或いは制限する中国共産党絶対化教育だ。これが問題の正しい解決だとは到底、思えない。
 こうした状況下、当局発表でも約200人もの死者を出した虐殺に、国際社会は沈黙を続ける。自由、民主主義、人道の価値観に照らし合わせれば、沈黙は不可解、不当である。ウイグル人に関する事件で、何が起きたのか、国連調査団を派遣し、客観的な調査を実施することを強く要請する。