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2009.09.18 (金)

【提言】 新政権への提言(環境政策)

平成21年9月18日
一般財団法人 国家基本問題研究所

新政権への提言(環境政策)

 
【提言】
1.2020年までの中期目標(1990年比で25%削減)を撤回せよ
2.国民の信任のない安易な国際公約は許されない
3.政策間のバランスの取れた中期目標を掲げよ
4.原子力発電を含む資源・エネルギー戦略を明確にせよ

 
 
1.2020年までの中期目標(1990年比で25%削減)を撤回せよ
 過大な環境対策が、産業界および一般国民生活に多大な負担を強いることが危惧されている。京都議定書以上の過大な負担を自らに課すことになりかねない。

① 中期目標では、実現性を担保できる具体的で説得力のある対策内容・方策・費用が示されていない。また、産業界及び一般国民にどれほどの負担が発生するのかが提示されていない。
② これほどの目標を独断的に掲げながら、目標達成が困難なとき、クレジット、排出権購入などにより多額の税金投入をすることになった場合の責任をどのように取るのか。したがって、中期目標のうち「真水」による削減分を明確にする必要がある。
③ 現在、基準年は統一されているわけではなく、EU及び米国も2005年を基準年として、それぞれ13%減、14%減を掲げている。自民党麻生政権でも、2005年比で15%減の中期目標を提案した。民主党は1990年比で25%減を提案しており、アメリカをポスト京都の枠組みに参加させるためには大きな障害となりかねない。
 さらに、京都議定書の第1約束期間(1990年比6%減)の義務をどのように考えているのか。期間内での目標達成は困難と見られている。その場合クレジット購入などに多額の税金投入が必要となるが、その財源をどのように手当てするのか。

 
2.国民の信任のない安易な国際公約は許されない

① 具体的な記述のない、不完全なマニフェストを根拠に、国民に十分な説明も議論も経ず、社会的な合意のないままに国際公約をすることは権力の乱用である。鳩山首相は、国連などで安易に国際公約をしてはならない。
② 鳩山代表は、9月7日の「朝日地球環境フォーラム2009」でのスピーチで、「温暖化を止めるために科学の要請する水準に基づく中期目標」と発言している。その科学的データを具体的に説明する必要がある。
 また、「世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築もめざします。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の『前提』となります」と発言している。しかし、それだけでは京都議定書の二の舞いとなることが危惧される。まず、国際公約をする以前に、国内での社会的合意を得ることは必須条件である。
 さらに、「意欲的に温室効果ガスの削減に努める途上国に対して、先進国は資金的、技術的な支援を行うべきであると考えます」と主張しているが、主要排出国には、正当な対価を求めるべきである。無償の技術及び資金援助は、それらの国の技術革新等を遅らせ、温暖化防止に逆行するだけでなく、大義のない国富の損失そのものであり、国民として看過できるものではない。

 
3.政策間のバランスの取れた中期目標を掲げよ

① 「高速道路無料化」、「自動車関連税の暫定税率廃止」は、自動車利用を増大させ、大幅なCO2増大に繋がりかねないという矛盾、さらに鉄道、バスの交通業界及び利用者への影響と地域交通ネットワーク衰退による地域経済への影響にどのように対応するのか。
② 高速道路を無料化する場合、旧道路公団の40兆円の負債処理及び道路民営化をどのようにするのかを提示する必要がある。
③ 環境政策に伴う国民負担の増大は、国際競争力の低下や産業の空洞化を促すことは避けられない。また再生可能エネルギーによる発電量を固定価格で買い取る全量買い取り方式の導入にも別途財源が必要であり、また環境税の早期の導入も困難であることを勘案すると財政状況の一層の悪化は避けられない。そうした状況で、経済回復・持続的成長との両立をどのように実現するのか。
④ 民主党は、1970年代の石油ショックを例に挙げ、環境基準が厳しいほど技術革新が促進され、経済も良くなると主張しているが、この主張はあまりに観念論的であり、説得力に欠ける。石油ショック以前の大量生産・大量消費からの省エネへの技術的転換と比較した場合、既に省エネ技術が世界でもっとも普及したわが国の現状で、約10年という短期間で一層の技術革新を実現することは容易でない。
⑤ 中期目標の達成と経済成長が両立するという根拠については、特定の研究機関のデータに言及するのみで、民主党の責任において作成された客観的データは提示されていない。責任ある検証の提示なしに国際公約をすることは、国民を無視した行為である。

 
4.原子力発電を含む資源・エネルギー戦略を明確にせよ
 民主党は、「原子力利用について着実に取り組む」(マニフェスト)としている。一方、「脱原子力を明確にしている、唯一の政党」(ホームページ)と公言する社民党との連立政権を組んでいる。脱原子力を条件に、CO2の削減の中期目標を実現することは非現実的である。政権を担う政党として、今後の原子力政策について、その姿勢を明確にする義務がある。