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2014.03.07 (金) 印刷する

遠藤浩一さんのお別れ会 櫻井理事長が哀惜の言葉

 今年初め、五十五才という若さで急逝された遠藤浩一・国家基本問題研究所理事・拓殖大学大学院教授のお別れ会が三月一日、東京・大手町のサンケイプラザに同志の知識人や国会議員、大学、研究所関係者ら二百人余が集まり、しめやかに行われた。

黙祷の後、櫻井よしこ・国基研理事長、渡辺利夫・拓大総長、熊坂隆光・産経新聞社社長ら発起人四人が追悼の言葉を述べた。櫻井理事長は、「亡くなられた空白を、未だに埋めることが出来ません」と声を詰まらせながら祭壇の遺影に語りかけた。また、西村眞悟・衆議院議員は戦後消し去られた「蛍の光」第三番を朗々と歌い上げ、民社党時代からの同志の死を悼んだ。弔電の披露の後、作曲家のすぎやまこういち氏(国基研評議員)が今回のお別れの会のために編曲した「レクイエム」が会場に流れ、福田勝幸・拓大理事長らの指名献花、一般参会者の献花が続いた。

櫻井理事長の追悼の挨拶全文は次の通り

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遠藤浩一さん

貴方は、大概、誰よりも早く、国家基本問題研究所の会議室に到着していました。

都心から遠くに住んでいた貴方は、毎週金曜日、午前八時に始まる国基研の企画委員会に定刻前に着くために、空も明けやらぬ暗い内に起き出して、居住まいを整え、二時間の電車移動をこなしていたのでした。余りに忙しいときには、前夜から平河町界隈のホテルに泊まり込んで出席して下さいました。

そんな地道な努力を、しかし、貴方は一度もひけらかしたこともこぼしたこともありません。それどころか、いつも、穏やかな佇まいで、当然のようにそこにいて下さるのでした。

私たちが共に国基研を設立した平成十九年の当初から、貴方の姿勢は全く変わることがありませんでした。真心のこもったその行動は貴方がどんなときも志を同じくしていることを、私に確信させてくれました。

私たちは現行憲法に象徴される戦後体制に終止符を打ち、自主独立の気概を以て立つ日本国を創り上げようと、共に歩んできました。守るべき自己、強靱な自己を持つ日本国と日本人に立ち戻りたいと、切望してきました。

そのために国基研の大目標のひとつに日本国憲法の改正を掲げました。田久保忠衛さんの作成した原案を前に、貴方も一緒に考えた国基研の設立趣意書に、私たちはこう謳いました。

「日本国憲法に象徴される戦後体制はもはや国際社会の変化に対応出来ない」「連綿と続く日本文明を誇りとし、かつ、広い国際的視野に立って、日本の在り方を再考し、独立自尊の国家の構築に一役買いたい」広い外の世界への目配りは、日本周辺の状況が激変するいま、とりわけ重要です。国際情勢の大変化に対応しながら、日本の地位を確保し、現実に即した主張を展開し、日本の真のあるべき姿を取り戻す。日本の民族主義や国益を満たしつつも、国際社会に普遍的に通用する価値観を作り上げ、主張していくことが求められています。

こうした見地から、貴方はいつも、鋭い主張を展開しました。民主党が自民党にとって替わろうとしたとき、反自民に存在理由を求めてきた民主党は、自民党の崩壊によってそれまで頼ってきた支え棒を失った。バブルのはじけるのは時間の問題だと民主党政権樹立の前に、貴方は喝破しています。

平成二三年のあの三・一一からわずかひと月余り後の四月、反原発の世論が渦巻く最中、「わが国は原発から撤退すべきではないし、出来ない」と明言し、事故の教訓を活かして原発の安全性を高めるという大局的見地に立てと、直言しました。貴方の直言はやがて国基研の意見広告、「選ぶべき道は脱原発ではありません」につながりました。

自民党安倍晋三政権に対しては、日本国として成すべきことの前で躊躇してはならないと、熱い想いを込めて語り続けました。真の独立に向けて気魄を持て、国民の強力な支持はそのためである、その支持を更に強化するために、観念の世界に遊んだ戦後体制に決別せよと、説き続けました。

その思いが、首相の靖国参拝を後押しする昨年の意見広告、「内政干渉を押し返す気構えが国民の一人ひとりに求められています」に集約されました。

貴方を貫くものは、守るべき自己の何たるかを識っていること、自らを恃みとする自信に基づいて状況に順応する勁さでした。一筋、鮮やかに通った心棒に私たちはいつも支えられていたと思います。

そして、昨年、首相の靖国参拝を見届けた貴方は、それを、「観念化した戦後から脱却するための大きな一歩」と位置づけ、正論欄でのその主張を絶筆として逝ってしまわれました。

どれほど多くの思いを貴方は残していかれたことでしょうか。国基研にとっても日本国にとってもどれほど測りしれない損失でありましょうか。早すぎる別れが、かえすがえすも口惜しくてなりません。

昨年暮れ、余りの多忙ゆえに親しく言葉を交わすことのない日々を埋めるべく、貴方と田久保さん共々、語り合いました。大学での仕事やこれからの研究課題にひとしきり話題が集中し、別れ際、私は貴方に、国基研のことを宜しくお願いしますと頼んだのでした。

貴方の照れたような穏やかな笑みが、貴方の存在の大きさを示す深い喪失感と共に迫ってきます。企画委員会では、いつも、田久保さんをはさんで私の左手にゆったりとした佇まいで座っていた貴方がいなくなった。その空白を、私は未だに埋めることが出来ていません。

けれど、約束します。私もまた国基研も、貴方の思いを完う出来るように、守るべき価値観を守りつつ、世界を広く見詰めながら立派な日本国の再生に進んでいくことを。

遠藤さん、どうぞ、この日本の空のどこかから、必ず、私たちを見守っていて下さい。貴方と共に歩む気持ちで、これからも歩み続けることを誓い、お別れの言葉とします。

遠藤さん、ありがとうございました。

平成二十六年三月一日
国家基本問題研究所理事長
櫻井よしこ